尼崎USB紛失…日本のITリテラシーが低すぎる理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

兵庫県尼崎市で、全市民の個人情報が入ったUSBメモリの紛失事件は日本全土を震撼させた。情報が悪用されれば、特殊詐欺などが横行しかねない大変な事件である。

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一連の報道を見て感じたことは、関係者のITリテラシーの低さである。そしてこれは尼崎市だけの話ではなく、あらゆる自治体や民間企業にも当てはまる。つまるところ、マクロ視点で見た我が国における、重要な情報を取り扱う人物のITリテラシーが低い問題を明らかにしたと思っている。

個人的にその2つの理由を考察した。

1. 勉強しない

ITリテラシーは「一度学んで終わり」とはならない。破られないセキュリティの問題は永遠の課題であり、高度化する手口に攻撃を受けないためにも、利用者側も情報のキャッチアップが必要である。つまり、学び続けなければいけない領域だ。ITリテラシーを高めるには、能動的に学びを得る必要があるわけだ。

しかし、日本人は社会に出ると勉強しなくなる。「社会人の平均勉強時間は7分間」という恐るべきデータもあり、これは変化し続ける時代に取り残される根本的理由となっている。

法務の専門家が法制度の改定に応じて、都度知識やスキルの向上をする。それと同じく、本来はIT技術の進展とともにキャッチアップが求められる。だがその必要性すらも、勉強して知識を得なければ判断することはできない。根本的原因の一つに「勉強不足」が挙げられるだろう。

2. ITリテラシーが低い人ほど役職が高い

民間企業でも、自治体などでも役職が高い人ほど高齢かつITリテラシーが極めて低い傾向がある。これは特に地方などで顕著だ。

民間企業の経営者でも「ITのことはIT部門へ」と丸投げしている会社はたくさんある。筆者は地方移住をして会社経営をしている立場だが、周囲に70代の経営者がいる。彼はITの事がまったくわからないため、未だに自社の情報伝達メインツールがFAX、文書作成は一太郎という状況である。アタッカーが本気を出せば、データ漏えいは極めて容易だろう。

しかし、本来は意思決定権のある役職者であるほど、ITリテラシーは必須である。筆者が経営する会社では、重要データはすべてクラウド保存にするようルールを決めている。真に重要なファイルは、ネットワークに接続されないストレージへ保存している。もちろん100%完全なセキュリティは、世の中に存在しないのは理解している。だが、少なくとも共有ネットワーク上に無造作に置きっぱなしにするよりは、ハッキングやランサムウェアの被害は防止できる可能性は高まる。

会社のデータのセキュリティレベルは、経営者のITリテラシーに直結するため、経営層こそがITレベルが高くなくてはいけない。だが実情として、多くの現場で上の役職であるほどITリテラシーが低い事が多く、それが会社全体のITレベルを落としている。

企業のパフォーマンスはITレベルで決まる

ITリテラシーはセキュリティの話に留まらない。日本の人口減少は不回避であり、大局に見て我が国の経済力はITレベルが担うと言っても過言ではない。そう、ITリテラシーはパフォーマンスにも直結する大きな課題である。

だが、未だに仕事の現場では人海戦術で対応し、省人化とは真逆を行っているケースをよく見る。グローバル競争に勝ち続けるようなエクセレントカンパニーだけでなく、あらゆる自治体や民間企業のITリテラシーの底上げは急務だ。ビジネスパフォーマンスはITレベルで直結するといっても過言ではないからだ。

筆者は徹底してITによる業務パフォーマンス向上を意識している。上述のセキュリティもそうだし、同じ作業の繰り返しを発見すれば、即座にプログラマーに開発を外注することで、常に省力化に努めることを繰り返している。

こうしたビジネスパフォーマンスにおける、PDCAサイクルをまわすにも「クラウドソーシングで外注」「繰り返し作業はツール開発で対応」といったITリテラシー理解が求められる。日本人ビジネスマン全員がプログラマーである必要はないが、プログラマーにできることはある程度分かっておいた方がいいだろう。

昨今は特にセキュリティの課題は高まる一方だ。仮想通貨取引所や、ゲーム会社へのハッキングも話題になっている。企業によってはハッキング被害一発で潰れてしまいかねないほどの重要な問題だ。

日本は日本語というローカル言語の壁に守られてきたので、英語圏に比べてこれまで被害の数が少なかった。しかし、AI翻訳が向上することで、それが仇となり今後は国外からのハッキング被害がさらに増える可能性もある。そうならないためにも、ITリテラシーの向上が今すぐ必要ではないだろうか。