日本の明日のために:日本版DARPA創設に必要なこと

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日本版DARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が必要だ、という議論を聞く。最近では3月8日の日経本紙経済教室で、兼原信克氏が「国がリスクを負い民生技術育てる仕組みを」と、DARPAに言及している。また5月31日永田町政策マップでは「DARPAのような機能も検討する」とある。しかし、DARPAとは一体何なのかは判然としない。

組織の始まりは冷戦初期の1957年、ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功だ。ソ連の科学技術水準に驚愕したアメリカは宇宙開発の観点からDARPAを設立したが、その後は学問領域を超えて民生技術として市場に出る際にも潤沢なベンチャー資金を提供している。

ホームページによると2019年の総予算は34億ドルで、これは国防総省の科学技術研究予算の1/4に当たる。DARPAの実績として一般に良く知られているものとしては、インターネット、GPS、掃除機のルンバ、自動運転技術などであろう。その意味で、軍事技術と日常生活で必須となる民生技術の研究は表裏一体である。

ちなみに、『DARPA秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』の著者ワインバーガー氏は、「日本の産業プログラムを取りまとめている通商産業省は、日本がこれほどの競争力を身につけた立役者」と述べている。

DARPAは、成功と同様に大きな失敗も多数犯している。例えば冷戦末期のレーガン政権期には、大統領の支持の下で国家航空宇宙機開発が進められた。しかし、関係する機関や企業が増えるにつれ迷走し始め、開発コストは170億ドルまで膨れ上がった。結局このプロジェクトは中止となったが、試作機の開発に20億ドルが投じられDARPA最大の失敗の一つとなった。

日本では6月16日、自民党の国防議員連盟(会長:衛藤征士郎・元衆院副議長、事務局長:佐藤正久・自民党外交部会長)が岸防衛大臣に対して、防衛技術の研究開発費を1兆円まで増額するよう申し入れ、岸防衛大臣も賛同した。遅きに失してはいるが戦場のハイテク化に対応するためには、日本にもDARPAのような司令塔が必要だ。

しかし、成功の裏には多くの失敗と「散財」が伴う。これを税金の無駄遣いではなく、日本の将来に必須の投資であると政府は国民に説明する責任がある。そして私たちも「失敗は成功の母」とのベンチャー精神を持ち、「今日のウクライナを明日の日本にはしない」ための投資がいま必要と発想を改めねばならない。