電力不足の対策はあるのか?:「誰かがうまくやってくれる」と思っている日本人

今から2週間ほど前の午前10時半ごろ、近所の工事現場で架線を誤って切り、事務所ビルを含む地域が突然停電になりました。パソコンの画面は一瞬にして消え、非常灯を除き、全部の電気が切れます。朝10時半というのは一日で一番取り込んでいる時間です。事務所の管理人から「階段で退避せよ」と言われ、建物の外に降りれば、事務所で勤務していた多くの人はどうしたものかと立ちすくんでいます。

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そうだ、家に戻って作業をしようと思い、近くの家に戻ろうとすると途中の商店の電気が消え、店主はお手上げという顔をして外に立ち尽くしています。コンドミニアムの入り口でコンシェルジュに「電気は?」と聞けば「落ちたけど非常用電源でエレベーターは一台動いている」と。とりあえず家に帰り、ノートパソコンの残りの電源で作業をしたあと「さて、昼ご飯は?」と思い、真っ暗な冷蔵庫をを空けても何もないし、電子レンジももちろん使えません。そうだ、袋入りのインスタントラーメンがあるじゃないか、と思い、鍋を火にかけても火はつきません。日本なら電池式着火ですが、こちらはコンセント。完全アウトです。

久々の停電で電気がないとこうもダメなのか、と改めて思った次第です。4時間後の復旧にほっとした人は多かったと思います。

今年の東京は梅雨明け宣言も近く、既に40度を超えた地域が出るなど異常気象なのか、温暖化なのかわかりませんが、とにかくクーラーがないと生死にかかわる状況です。一方で電力供給はひっ迫し、東電管内では需給ひっ迫警報が出ています。これでは緊急事態宣言や東京ブラックアウトと背中合わせの状態になっているように思えます。

電力供給は今日明日にどうなるものではありません。まずはこの夏を乗り越える対策を政府と電力会社、企業、社会が一丸となって取り組まねばなりません。我々は電気がつくのが当たり前だと思っています。それに感謝しながらも今は余力をもってそれが供給できる状況にないことをしっかり理解するべきでしょう。石油ショックの頃は街からネオンの灯が消えたりしました。真っ暗な銀座というシーンもありました。しかし、電力消費が多いのは昼から夕方。とすれば計画停電も覚悟です。

むしろ、ブラックアウトや計画停電を経験しないと電気のありがたみは分からないのかもしれません。日本人は「誰かがうまくやってくれるのだろう」「俺がこの部屋のエアコンつけっぱなしでも誰にもわからない」と思っている人は多いでしょう。

私は数年前、アイリスオーヤマが発売した人感センサー付きのエアコンをシェアハウスに導入したのですが、電気代は導入した物件としない物件では目に見える差となりました。この人感センサー付きエアコンは部屋に誰もいないと一定時間後に運動量を段階的に自動的に落とし、無駄を省くという仕組みです。今では節電タイプのエアコンをはじめ、各種節電型電気製品はふんだんに溢れていると思います。ただ、それに頼るばかりではなく、節電する気持ちがもっと大事です。

以前、秘書をしていたとき、会長室の電気がつけっぱなしになっていたことがあり、会長からお叱りを受けたことがあります。たかが1時間ぐらい部屋を出るのにそんなにガミガミ言わなくてもと思ったのですが、その後、会長に教えられたのは「戦後、モノがないときに育った時代の人はモノを大事にすることを知っている。電気だって無限じゃないんだ」と説くのです。大変心を打たれた記憶があります。今の人は「俺。知らないし」「金。出せばいいんだろ」的なところが散見できないでしょうか?

最後に長期的な対策です。関電のウェブサイトのエネルギーミックスの説明には水力、再生可能、火力(LNGと石油)、原子力とあり、一日の電力需要の振れ幅に対して岩盤のような安定感を出す水力と電子力、気まぐれな再生可能エネルギーとその穴を埋められるフレキブルでコアな電力源である火力という絵がついています。(注:ウェブには気まぐれとは書いていません)

絵を見ていて思ったのは岩盤的安定度を誇る水力と原子力は1/4-1/6程度しかないのが日本の弱みなのだろうと思います。以前、日本は水力発電か原子力発電かを選ぶときがあったとこのブログに記しましたが、結局はその両方を選択するのが正解だったのかもしれません。原子力については日本のみならず、ドイツなどでも強い抵抗を示す一方、フランス、中国をはじめ、アメリカでも再び注目されています。また小型モジュール原子炉も注目され、日立はカナダでの受注に成功しています。

私は東電のあの教訓は生かされると思っています。原発の脆弱性とその補完という観点、また小型化することや技術の進歩を信じたいと思っています。日本の議論はまるで「コンコルドは落ちた。だからもうコンコルドは作らない」という風に聞こえるのです。今、新たな超音速旅客機がアメリカで開発されJALも出資しています。つまり教訓を生かし、全く違うものを作る、これが人類のなせる強さでもあります。

それと最後に石炭も絶対悪論ではなく、日本が進める石炭火力の技術革新をもっとアピールするべきだと思います。J-Power磯子における硫黄酸化物、窒素酸化物排出量は国際比較をみると比較するのが嫌になるほどクリーンなレベルを提示しています。私は石炭を捨てるのではなく、既存の技術を捨て、より革新させ、新たな道筋を提示することで国際世論を変えることが大事だと思います。既存の原子力発電設備は動かせるものは再稼働は必要ですが、新設については今では開発コストが間尺に合わないぐらい高く、個人的には検討する意味はもはやないと思っています。

磯子火力発電所 J-POWERグループHPより

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月28日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。