夏至が過ぎ、本格的に夏を迎えたパリ。太陽が輝き小鳥たちが嬉しそうに囀るこの時期は、街歩きを楽しみたくなる。日本に比べて湿度がないので、今がちょうど、散歩にぴったりの季節だ。
エッフェル塔、ルーヴル美術館、シャンゼリゼ大通りなどを眺めながらのパリ市内の散歩はもちろん楽しいが、郊外にもおすすめ散歩エリアがある。通称”クリニャンクールの蚤の市”、正式名称”サン=トゥアンの蚤の市”だ。
今や、世界最大のアンティークショップエリアとして有名な”サン=トゥアンの蚤の市”。その歴史は19世紀後半に遡る。
パリ市内で建物前に廃棄物を放置するのが禁止されたため、廃棄物を回収販売して生計を立てていたパリの屑屋が、1870年代から隣町サン=トゥアンに流れ、このエリアで売買を始めた。蚤の市の正式オープンは1855年。20世紀前半になると、利益を生む商売になると目をつけた投資家が土地を買い建物を整備し、店舗リースをするようになり、以後、大きな発展を遂げた。現在は、トータル7haもの敷地に12のエリアに分かれて3000軒ものショップが連なり、年間500万人もが訪れる大人気観光地だ。
ヴィンテージの布や食器、雑貨などを扱う店、ナポレオン三世時代の家具が並ぶ店、エールフランス航空機の備品(座席やカートなど)のみを扱う店、パリの最高級ホテルからもオーダーが入る豪奢なシャンデリアの専門店、ヴィンテージのルイ・ヴィトントランクを探すならここ!と言われる店、ル・コルビュジエの作品に力を入れている店など、扱う商品は実に多彩かつ専門に特化した店舗が多い。
また最近は、古いオブジェだけでなく、若手デザイナーたちの作品を使って一つの部屋の内装を仕上げたインスタレーション的なブティック(下写真左)や、陶芸家のアトリエ(下写真右)もオープンするなど、新たな取り組みも増えてきている。
それぞれの店舗が趣向をこらした内装は眺めているだけで楽しいし、古い家具などが醸し出す温もりや存在感に、それらが辿ってきた歴史を感じられる。ぶらぶら歩きの最中に、これは!と心に響くオブジェと巡り会って購入すれば、フランス滞在の大切な思い出となるだろう。
インスピレーションを求めてやってくるアーティストたちも多く、アメリカの大富豪やハリウッドスターも、自宅を装飾するため、ここを訪れてフランスの美意識が詰まったアンティークオブジェを探すことも多いそう。フランスの映画プロダクションが、時代設定にあった衣装や装飾品を手に入れるために頼りにしているのもここだ。
町自体が一つの大きな映画のセットのような”サン=トゥアンの蚤の市”は、魅力がぎっしりつまった散歩スポット。
ただし、蚤の市の常としてスリが多いので、貴重品の管理にはくれぐれも気をつけて散策を楽しんでほしい。