高校の進学率は現在、約99%と非常に高い水準まで上昇している(文部科学省「令和2年度学校基本調査」より)。
なぜ、義務教育ではない高校にほぼ全員が進学するのだろうか。キャリアが多様化している今、なぜ中学卒業後の進路は一択なのだろうか。
もちろん高校進学のメリットは否定しないが、実は高校に進学しない選択肢にもたくさんのメリットがある。オンライン塾を運営し、中高生の教育に携わる立場として「高校に行かない」という選択肢について考えてみたい。
高校進学へのニーズは変化しつつある
高校は、中学に比べて不登校の率が低い。高校生の不登校は生徒全体の1%程度で、中学校の不登校の約4%よりも割合としては低くなっている。
高校の不登校の割合が中学よりも低いのには、以下のような背景があると考えられる。
・通信制高校の台頭
通信制高校の学校数は、2010年と2021年の11年間で24%も増加している。生徒数も63%増加している(文部科学省「学校基本調査」より)。
少子化が加速しているにもかかわらず、学校数と生徒数がともに増加している状況をみると、高校に対するニーズが確実に変化していることがわかる。
・高等学校卒業程度認定試験の存在
もう一つは「高等学校卒業程度認定試験」の存在だ。かつての大検(大学入学資格検定)は、2005年から高卒認定(高等学校卒業程度認定試験)に名称が変更された。
大検は高等学校や高等専門学校に在籍している間は受験できなかったが、高卒認定では現役の高校生でも受験が可能となった。試験科目が減ったこともあり、より受験者の枠が広がった。
このような状況でも、高校の中退者は35,000人いる(文部科学省「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」より)。この問題の根本は、高校進学率が99%と、それ以外の選択肢が選択されていないことにある。
キャリアが多様化しているにも関わらず、なぜ中学卒業後の進路は一択なのだろうか。
なぜ高校以外の選択肢がでてこないのか?
義務教育ではないのに、なぜ高校進学率は99%と高いのだろうか。その理由は大きく2つあると考える。
一つ目は、現在の教育は大人がするものだからだ。
大人が通過してきた当たり前を、それがさも正解であるかのように勧めることに原因がある。
日本の高校進学率は、1984年の時点で94.1%(e-Stat 学校基本調査年次統計進学率)で、親の世代もほぼ高校に行っていることになる。
学校の先生も大学を卒業しているため、そもそも「高校に行かない」ということが選択肢に出てこないのだ。
二つ目の理由として、同調圧力も大きい。
99%が高校を選択する中、自分一人だけが別の選択をとることは心理的ハードルが高い。中学3年の時点で、やりたいことがはっきりと決まっている子などほとんどいない。その状態であれば、とりあえず周囲と同じ選択をとろうとすることは仕方ないと言える。
周囲の大人は高校進学を望んでおり、自分も高校進学をしたくない理由もない、というのが最も多い層ではないだろうか。
本当にみんなが高校に行く必要はあるのか?
勉強が学校でしかできない時代は、確かに高校に行く必要性は高かっただろう。しかし、今はオンライン学習などを活用すれば、必ずしも学校に行かなくても授業を受けることができる。
また、日本の産業が製造業中心で、社会人になってから仕事で求められる能力が計算力や知識量だった時代には、学力で優秀かどうかを測れることも多かった。皆で同じことを学んでいれば、その中での優劣がつけやすいというメリットがあった。
画一的なものを大量に生産することが良しとされ、それで売上が上がる時代=高度経済成長期と、皆で同じことを学びその中で優劣をつける教育は、採用においても最もミスマッチが少なかったのである。
しかし産業構造が大きく変化し、同じものを大量につくるという点では人件費の安い中国には勝てなくなっている。大量生産・大量消費の時代から、お金を払う価値やタイミングも様々になってきている。
このような変化にもかかわらず、教育は全くといっていいほど変化が起こっていない。現実社会と教育とのギャップはますます広がっている。
現在、仕事で求められる能力においては、知識をどれぐらい持っているかよりも、答えのない問題に向き合う態度のほうが重要視されるようになっている。
テクノロジーの発展スピードが早く、知識のアップデートを生涯続けていかなければならない昨今では、学びは学生だけに限った話ではなくなってきている。
このように正解が曖昧ななかで、ほぼ全員が高校に行って、皆同じことを学ぶ意味はどれほどあるのだろうか。
高校に行かず大学に行くという選択
高校に行かず、高卒認定を取って大学に行くという選択肢もある。高卒認定は、厳密には高卒資格とは違うという点で、不安に思う方もいるだろう。しかし、大学に行ってしまえば最終学歴は大卒になるため関係がなくなる。
高校に行かずに大学に行くことのメリットはたくさんある。
まず、高卒認定は16歳以上であれば受験できるため、16歳の時点で高卒認定に合格してしまえば、大学受験までの3年間を自由に過ごすことができる。
海外へ行ったり、インターンシップで社会人を経験してみたりするのもよいだろう。あるいはその3年間で起業したり、自分の興味をひたすら探究したりすることもできる。
また、高校へ行かないことで大学受験の勉強に専念できる。学校の定期テストの勉強と大学受験の勉強が違うことは、大学受験を経験したことがある人ならご存知だろう。
学校で不必要な時間を過ごすぐらいなら、早々と大学受験勉強に専念したほうが志望校合格の可能性が高まる、と考える人もいるだろう。
周囲に流されず自分でキャリアを描く
人生100年時代と言われるようになり、定年もどんどん延長されている。
終身雇用は崩壊しつつあり、国が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を出し、会社にぶら下がらない人材が求められている。
採用に関しても、大手企業からジョブ型採用や新卒通年採用などを取り入れる企業が増加しており、採用自体も多様化してきている。
大学に行き、皆で一斉に就職活動をするのではなく、もっと長い目で見た自由な選択肢がとれるようになってきているのだ。
そうすると重要になってくるのが「自分が何がしたいのか」ということだ。
選択肢が多く、知識も自分でいくらでも吸収できる環境が整いつつあることは、裏を返せば自分で目標や問いを作り、そこに向かって努力できるかどうかで大きな差が生じるようになってきているということでもある。
コロナによって働く場所や時間の制約も無くなりつつある昨今では、さらにこの流れは加速していくだろう。
自分で目標ややりたいことを決め、そこに向かって努力できる人材を創出するためには、早い時点で自分のキャリアを考える経験が重要になってくる。
周りに合わせて自分の進路を決めるのではなく、自ら悩んで多様な選択肢から進路を選択する経験として、中学卒業後の進路を指導するべきだ。。そう考えると、高校に行くという選択肢以外がない現状は、打破すべきものではないだろうか。
「周りが高校に行かないなら自分も行かない」が9.4%
筆者自身、高校を経由せずに大学へ行くサポートをするプロジェクトを行っている。
毎朝のミーティングと週1回のコーチングを軸に、Slackを使ってやりとりをしながら本人の興味を深掘りしたり、大学受験のための勉強に専念したり、それぞれが自分自身のキャリアに対して主体的に考え行動をしている。高校に行かなくてはならない理由は今のところ見当たらない。
また筆者の経営する会社で、今年の3月にLINEリサーチを活用して高校生(16~18歳の男女)500人にアンケート調査を実施したところ「高校に行かない人が同世代の半数いる場合、あなたは高校に行きますか?」という質問に対して、全体の9.4%が「いいえ」と回答した。
つまり、高校に行かないという選択肢が普通であれば、現時点でも9.4%が高校に行っていないかもしれないのだ。「わからない」という回答も含めると、その割合は26.3%にもなる。
これはあくまでも筆者が経営する会社で行った調査であり、一定のバイアスがあるかもしれないが、「高校に行かない」という選択肢が普通になれば、多様なキャリアや生き方に対して主体的になれる人が増えると筆者は考えている。
キャリアは何度でも描きなおせるもの
現代は、様々な固定概念から解放され、建前上はどんなキャリアでも描きやすくなってきている。
しかし、自由になればなるほど自分で責任を負わなければならなくなる。多少不自由でも、誰かに決められたり命令されたり、流されたりしながら生きるほうが楽な人もいるだろう。
社会はそれを受け入れず、社会人になるとやりたいことや意志を急に求めてくる。
このような状況の中で、自分自身のキャリアに対して自分で決めて行動するということが今後ますます求められるのは間違いない。
そのためには、盲目的に高校という進路を選ぶのではなく、それ以外の選択肢を考慮に入れた上で、自分自身で進路を決定することが重要ではないだろうか。
高校に行かないことで失敗することもあると思う。しかし周囲の大人がそれをフォローし、失敗してもやり直せることを早い段階で学ぶことが、人生100年時代の生き方の一つになるだろう。
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山田 昌史 株式会社STAIRZ 代表取締役
学習塾・キャリアアドバイザーの経験から、中高生のキャリア教育の重要性を感じ独立。マーケティングやコンサルティングの業務と並行し、勉強を教えないオンライン塾「カイシャ工房」を運営。学校や大学受験のための勉強ではなく人生のために学ぶ方法を伝え、キャリアに繋げることを理念としている。2022年4月より、高校へ行かずに大学進学するキャリア支援プロジェクトを開始。HP:https://kaisha-kobo.jp/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年7月4日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。