バイデンがインフレ対策で対中制裁関税を緩和か(前編)

7月初めの「ダウ・ジョーンズ」や「WSJ」など経済メディアは、「バイデン大統領が中国からの輸入品に対する関税の一部を近く引き下げる見込み」とし、「火曜日早朝の欧州株の上昇につながるだろう」などと報じた(5日のMorningstar紙)。

バイデン大統領 同大統領Fbより fatido/iStock

「ロイター」も5日、G20外相会合でのブリンケン・王毅会談を報じる記事で、「バイデン大統領はインフレ抑制のために中国製品に対する関税の撤廃を検討」と書き、イエレン財務長官が4日、劉鶴副首相とオンラインで会談し、サリバン大統領補佐官も先月、楊潔篪党政治局員と会談したとして、今後、米中首脳会談が実施される可能性を伝えた。

記事はまた、G20でのラブロフ外相とブリンケンの会談予定はないとし、2月24日のロシアのウクライナ侵攻以降、両氏は会談していないと報じた。記事からは、米国がウクライナ侵攻中のロシアを直接説得する気がない代わりに、中国の不公正な貿易慣行を正すべくトランプが始めた対中貿易戦争の終結には熱心であることが読み取れる。

関税引き下げの目的とされるインフレ対応に関し、前掲Morningstar紙は、関税撤廃がインフレに劇的な影響を与えることはないだろうとのエコノミストの話をとして、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のミーガン・ホーガンとイーリン・ワン両アナリストの発言をこう紹介している。

中国からの輸入品に対する関税を撤廃した場合、まずは消費者物価指数のインフレ率をわずか0.26ポイント低下させると試算されるが、米国企業が輸入品に対抗するために利ざやを削減すれば、最終的にインフレ率を1%ポイント低下させるかもしれない。

「ロイター」は6月21日、「G7までにバイデンが中国の関税について動くことはないだろう、との情報」と題する記事で、「トランプ大統領の北京との貿易戦争がエスカレートする中で、18年と19年に関税をかけられた多数の消費財(約3200億ドル)の関税を撤廃する可能性がある」と報じていた。

この記事も、「関税の緩和はインフレへの影響が限定的で、完全に効果が出るまで約8ヵ月かかる可能性」があるので、「経済的には意味がないが、高インフレの心理的影響に対抗するのに役立つだろう」との元米通商担当官の指摘を載せている。

この問題では前出のPIIEが6月22日、「トランプ大統領の貿易戦争年表 アップトゥデートガイド」(以下、「年表」)を公表しているので、おさらいの意味で中国に係る部分を要約して紹介する。著者はチャド・P・バウンとメリーナ・コルブの両アナリスト。

年表

始まりは太陽光パネル(以下、パネル)と洗濯機の輸入が米国産業に損害を与えたとの米国際貿易委員会の17年10月末の認定。同業界は「74年通商法第201条」に基づく請願を行い、トランプは18年1月、パネル85億ドル、洗濯機18億ドルの輸入へのグローバルセーフガード関税を承認。

バイデン政権は今年2月、輸入パネルに対する201条関税を4年延長する一方、6月にはカンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムからのパネル輸入関税を2年間免除。国防生産法発動下での国内製造が強化されるまでの「橋渡し」(ウイグル産のポリシリコンは昨年6月から輸入制限)。

パネルと洗濯機に先立つ17年8月、米通商代表部(USTR)は、「中国の法律、政策、慣行、行動で、不合理または差別的で、米国の知的財産権、イノベーション、技術開発を害する可能性があるか調査するかどうか検討せよ」とのトランプの指示を受け、301条に基づく調査を開始。

18年3月22日、トランプ政権は報告書を公表、600億ドルの中国製品への関税、WTO紛争、投資に関する新ルールなどの救済措置を近々行うとし、4月3日に25%の関税を検討する1,333品目のうち、462億ドルを対象とする500億ドルのリストを公表。

打撃を受ける上位セクターは、機械、機械器具、電気機器。関税の対象となる輸入品のおよそ85%は中間財と資本財であり、米国企業のサプライチェーン内のコストを引き上げる。

報復として中国が翌4日、近々25%の関税を課す対米輸入品500億ドル、106品目のリスト(車両、航空機、船舶、大豆など)を公表すると、トランプも翌5日、米国の対中輸入品1000億ドルを新たに関税の対象とすべきか検討するよう貿易当局に指示。

18年6月15日、USTRは7月6日から2段階に分けて25%の関税を課す予定の500億ドルの改訂リストを発表。新リストの対象となる製品の95%(4月3日案では85%)は、対中輸入に依存している米系企業が主に使用する中間財や資本財。

同日、中国も500億ドルの25%関税の報復リストを更新、7月6日から2段階で大豆や自動車を含む340億ドルの米国製品が対象。残りの160億ドル分は、6月15日に発表されたトランプ政権の第2段階の関税案を待つとされた。

6月15日の中国による報復に対抗して、トランプはUSTRに2000億ドル相当の中国製品を10%の割合で追加関税の対象とするよう指示。これは6月15日の500億ドルへの上乗せで、中国が再び報復すれば更に2000億ドルを追加するとした。

斯くて18年7月6日、米中双方の500億ドルの第一段階として、340億ドルに対する25%の関税が相次いで発効。

7月10日、USTRは10%(8月1日にトランプは25%を指示)の関税を課す2000億ドルのリストを公表、47%はコンピュータ部品や自動車部品など中間財、消費財はスマホ、コンピュータ、家具、ランプなど。6月15日の500億ドルと合わせ、17年の対中輸入額約5040億ドルの約5割をカバー。

トランプは7月20日のインタビューで、中国からの全輸入品(17年実績で5040億ドル)に関税を課す用意があると発言。これは301条調査に基づかない2620億ドルも対象で、既対象の中間財に加え、資本財やスマホ、ノートPC、衣料品などの消費財が含まれる。

併せてトランプ政権は7月24日、大恐慌時に農家を支援した法律を使い、関税賦課により輸出売上が減少した分、最大120億ドルを米農家に補助すると発表。大豆、トウモロコシ、ナッツ、果物、牛肉など、合計270億ドルの米国農産物輸出が影響を受けているとされる。

一連のトランプ発言を受け中国は18年8月3日、新たに600億ドルの米国製品に5~25%の関税を追加する可能性を警告。6月15日の500億ドルと合わせ追加関税品は1100億ドルとなり、残りの対米製輸入は530億ドル(17年の貿易額は、中⇒米5040億ドルvs米⇒中1630億ドル)。

8月7日、トランプ政権は500億ドルの第2段階として160億ドルに25%の関税率を適用し、8月23日に発効すると発表。翌8日、中国も6月15日に発表した25%関税を課す500億ドルの第2段リスト(原油を削除)を8月23日に発効する予定と。

9月17日、トランプ政権は対中輸入品2000億ドルにつき、9月24日に発効する10%の関税の対象リストを最終決定し、19年1月1日からは25%にUPすると発表。新たに対象となる輸入品のうち50%はコンピュータ部品や自動車部品などの中間財で24%は消費財。

翌9月18日、中国はトランプの2000億ドルに対抗し、600億ドルの対米輸入品に関税をかける計画を発表。対象は主に中間財と資本財で、税率は当初発表の5~25%を12%に修正し、24日からの米国の10%と同時期に発効。

12月初めのG20の後、トランプと習は1月の税率UP(10%⇒25%)を停止する合意を発表するも共同声明がなく、両国の声明にも食い違いがあった。米国は、19年3月1日までに合意に至らなければ25%にすると声明しつつ、トランプが2月24日に延期をツイートし、米中は交渉入りする。

(後編に続く)