国際会議など外交の動きでビジネスの課題を解決するために:グローバルヘルスの例

2023年のG7サミットは大きな政策変化がありうる

政策が大きく変わるタイミングには、政権与党の選挙公約、官邸の強い意志、議連などの働きかけ、大きな事件の発生、裁判の判決などがあげられますが、大きな国際会議や首脳会談なども大きな政策変更のきっかけとなりえます。

会談や国際会議の場は、参加するほかの国が驚くような新規性のある政策を示し、日本の国際的な立場を高めるためにも使われるからです。例えば安倍首相が首相を務めていた2013年に開催された第 5 回アフリカ開発会議(TICADⅤ)で日本はABEイニシティブを発表しました。これは、アフリカの若者を日本に留学させ、大学院での教育や日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラムでした。この政策決定を受けて、JICAなどがアフリカ人材を日本企業や大学で受け入れるための支援を行いました。

これから予定されている大きな政策変更の可能性がある国際会議が2023年5月19日(金)~5月21日(日)に広島で行われるG7広島サミットです。G7サミットはアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダそして日本の首相などが参加する国際会議です。首相間の会議のほか、各省大臣間の協議も行われるので、個別の政策テーマについても議論されます。

G7ではグローバルヘルスに関連する政策についても特筆すべき政策が打ち出されることも多く、2016年のG7伊勢志摩サミットでは「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」が発表され、安倍首相から公衆衛生危機対応,感染症対策やUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の達成に向けた保健システムの強化等の観点から、今後新たに約11億ドルの支援を行うことが宣言されました。

先ほど触れたように、国際会議の場は日本の存在感を示す場なので、日本が何も新しい政策を打ち出さないというわけにはいきません。さらに2023年のG7広島サミットは日本が議長国であることもあいまって(しかも岸田首相のおひざ元です!)、新規性のある政策発表が期待されます。グローバルヘルスに限りませんが、国際的に取り組む価値のある政策を実現したい場合は、2023年5月のG7に狙いを定めた政策提案を今すぐ始める必要があります。

これから想定される分かりやすい例を挙げてみましょう。グローバルヘルスの文脈で2023年のG7広島サミットで議論されそうなテーマとして、薬剤耐性問題があります。骨太の方針2022では、下記の記載がされています。

「薬剤耐性対策において市場インセンティブなどの薬剤耐性菌の治療薬を確保するための具体的な手法を包括的に検討した上で結論を出し、国際的な議論において主導的な役割を果たす。」

※ 薬剤耐性はAMR(Antimicrobial Resistance)と呼ばれ、細菌が経年変化することで徐々に抗菌薬の効果がなくなっていくことを指します。抗菌薬の開発には多額の費用が必要となる一方、薬剤耐性の対策の一つが、安易な抗菌薬の使用抑制でもあることから、単純に使用量や販売量に応じた収益の期待ができません。そのため、売り上げとは別に製薬企業が収益を得られるようなインセンティブの必要性が近年主張されています。
参考:AMR Alliance Japan【政策提言】抗菌薬市場におけるプル型インセンティブ制度の導入に向けて(2021年3月24日)

2023年のG7広島サミットは、骨太の方針に記載されている「国際的な議論において主導的な役割を果たす」ための絶好の場でしょうから、薬剤耐性問題については、2023年5月に向けて政府内で急ピッチの政策議論が進められていくことが予想されます。

重要な国際会議などの外交の場が、国内の政策にも大きく影響を与えることが、お分かりいただけましたでしょうか。

2022年のG7エルマウ・サミット 首相官邸HPより

国際機関での医薬品等調達強化も2022年の重要テーマ

グローバルヘルスの文脈では、2022年に新たに、国際機関での医薬品等の調達参入支援の予算が作られたのも注目すべきです。

日本は現在世界第3位の医薬品市場ではあるものの、ここ数年の薬剤費総額をみると、前年度比でマイナスになる年も増えてきています。国内市場が縮小する中で、日系製薬企業が成長するためには、海外で更に販路を拡大する必要があります。

そんな中で日本政府が注目したのが、WHOやユニセフなどの国際機関を通じて我が国の医薬品等を新興国や途上国に届けることができる「国際機関における医薬品等の調達の枠組み」です。厚労省の予算資料によると、医療分野の国連調達市場は年間3000億円規模ですが、日本のシェアはわずか0.1%であり、米16%、仏7%、独2%、英2%には遠く及ばず、韓国5%、中国0.7%にも大きく後塵を拝しています。日本企業の医薬品売上規模はグローバル市場全体の約7%であることを考えると、寂しい数字となっている状況です。

そこで2022年度予算では、約5800万円を確保し、調達参入を目指す企業に対し、厚労省が委託したコンサル等が公共調達参入に向けた伴走支援を行う事業を計画しています。

そのほか2022年6月7日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、7月中に内閣官房に海外ビジネス投資支援室を設置し、海外ビジネス投資のための司令塔機能を持たせることも明らかにされています。スケジュール上は、年末までに海外ビジネス支援ツール拡充策を取りまとめ、達成状況を踏まえて政策につなげていくことを想定しているようです。

今ある支援制度や人をまずは活用しよう。

2023年G7広島サミットや2022年度予算から、グローバルヘルス関連の政策にモメンタムがあること、そこに日本企業が積極的に関わることを政府も期待していることが見えています。これまで海外展開を積極的に行っていなかった企業もこれを機に視野を広げてみるのもよさそうです。

一方で、海外でビジネスを始めるための準備を個社でやりぬくのはハードルが高いものです。現地の制度や商慣習など事前に把握しておかなければならないことがたくさんあり、海外進出を断念されている方も多いのではないでしょうか。

あまり知られていませんが、政府は日本企業が海外で活躍できるよう様々な政策を実施し、また官庁の人材を大使館に配置したりしています。西川はJICA で千正は大使館で、それぞれ日本企業が海外でビジネスを進めるための支援も仕事の一つとして経験してきました。その経験から、意外と知られていない制度や仕組みを皆さんにご紹介します。使える手段を有効活用して、海外展開を進めてもらえればと思います。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年7月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。