生稲晃子さんに期待する「1年生議員の心得」とは

改めて振り返る、タレント出身議員の系譜

7月10日に投開票が行われた参議院議員選挙。私が住んでいる東京選挙区は、実に6議席中、3名。生稲晃子さん、山本太郎さん、そして蓮舫さんがタレント出身候補として選ばれました。

他の3人を見ると朝日健太郎さんはアスリート出身、竹谷とし子さんは公認会計士、山添拓さんは弁護士と共に士業ですが、選挙の前後をめぐってはとりわけ生稲さんへの風当たりが厳しいと感じます。

歴史をひも解くと、参院選では宝庫といってよいほど多くのタレント出身候補が有権者によって選ばれてきました。現在参議院議長を務める山東昭子さんに2期目の当選を果たした石井苗子さん、今井絵里子さんをはじめ、変わったところでは次のような面々も有権者によって選ばれています。

  • 下村泰
  • 西川潔
  • 西川玲子
  • 林寛子
  • 松岡克由
  • 山田勇

本名だけではピンと来ないかも知れないので、通称を併記してみましょう。このような顔ぶれです。

  • 下村泰(コロムビア・トップ)
  • 西川潔(西川きよし)
  • 西川玲子(松あきら)
  • 林寛子(扇千景)
  • 松岡克由(立川談志)
  • 山田勇(横山ノック)

現在の参議院は通称でも認められているようですが、かつては本名の使用が定められていました。憲政史上初の女性参院議長となった扇千景さんもタレント出身、そうした系譜は過去のアゴラ拙稿でも記したとおりです。

元モー娘。市井紗耶香氏の出馬:タレント議員は是か非か
7月4日に公示予定の参議院選挙。立憲民主党が公認を決めた元「モーニング娘。」市井紗耶香氏の出馬是非をめぐり、デイリー新潮の記事が話題となっています。 奇しくも同記事では尾崎財団の森山真弓・前理事長を比較対象として引用しているこ...

それゆえ2019年に元モーニング娘の市井紗耶香さんが挑んだ時も、また今回れいわ新選組の比例区から水道橋博士さんが、日本維新の会から中条きよしさんが当選したことも、さほどの驚きはない訳です。さすがにNHK党のガーシー氏には驚きましたが、こうした流れを見ても今回の生稲さん叩きは、候補者の資質を問う以上に、著名人に対する怨嗟というか「元おニャン子のくせに」そうした嫉妬の念が感じられてならないのです。

生稲晃子氏 同氏Twitterより 安倍元首相はなにを思う

そもそも「政治家の条件」とは何なのか

ならば、どのような人物が政治家として名乗りを上げるにふさわしいのか。改めて考えさせられます。旧帝大や米ハーバードなどの著名な大学を卒業していることか。それとも法曹や医師などの国家資格や中央省庁への奉職経験、大学教授などの見映えする肩書や経歴を有していることか。

国政に挑むにあたっての素養や勉強があるに越したことはありませんが、それを決めるのはあくまでも有権者による民意です。少なくともマスメディアが大上段から語るのは見当違いというか、思い上がりも甚だしい。私はそう思います。

さる5月15日、当財団の理事を務める石田尊昭が『政治家の条件』という書籍を上梓しました。その中には次のような一節が書かれています。

民主政治は厳しい制度である。政党や政治家に対する批判は、そのまま有権者に跳ね返ってくる。政治家は、鏡に映った有権者の姿にほかならない。

政治家のあり方を問うということは、選ぶ側の姿勢も問われるということ。政治家に求められる条件、能力や姿勢は、政治家を選ぶ有権者こそが常に意識しておかなければならないものだ。政治家の条件とは、すなわち「有権者の心得」である。(以上、同書20ページ)

生稲さんに願いたい「1年生議員の心得」

さて、本稿のタイトルでもある生稲晃子さん。私自身は一票を投じておりませんが、619,792人の負託を受けて公人となるからには、いくつかの期待を寄せたいと思います。

まず、ご自身の専門分野と思われる医療福祉や臨床心理の問題ばかりでなく、外交と安全保障の2分野は国会議員の必修科目として大いに学んでいただきたい。地方議会においては必ずしも議論されませんが、国会ならではのイシューとして、諸外国を相手とする両分野は不勉強ではいけません。生稲さんに限らず、われわれ尾崎財団はすべての当選者にそう願います。

そのためにも「雑巾がけ」は厭わないでほしいと願います。具体的には、所属する自民党内で連日開催される「部会」への参加出席を欠かさず、知見を積み重ねていただきたい。そう期待します。

今回2期目の再選を果たした青山繁晴さんも評していますが、自民党が他党に比べてもっとも充実しているのは「部会」の存在であると言います。毎朝の参加を欠かさず続け、問題意識を醸成できれば知見も指数関数的に広がるでしょう。

また部会を重視するか、それとも軽視するかは、初当選議員にとって一番こわい「先生病」への罹患、その分かれ道にもなります。私も少なからぬ議員の方々とご縁を頂いていますが、実力を発揮する議員は部会を重視し、逆に不祥事が目立つ議員の大半は部会を軽んじる傾向にあります。その点、水道橋博士さんのれいわや中条きよしさんの維新などは党内部会の充実ぶりを伺えておらず、当選後の勉強という意味ではハンデがあるかも知れません。

そして、これは生稲さん本人ばかりに求めるものではありません。岸田総裁はじめ、生稲さんの後見役を務める方々は、政党として公認した責任をもって育て上げていただきたいと願います。

初の女性参議院議長を務めた扇千景さんは、福田赳夫総裁や大平正芳幹事長といった歴代の宰相たちに出馬を乞われ、彼らによって育て上げられました。現議長の山東昭子さんもまた、田中角栄総理の薫陶を受けました。出馬を求めからには、責任をもって育て上げる。生稲さんの場合は岸田さんや、当選後の写真を見るかぎり下村博文さんでしょうか。

同様のことは3年前の市井紗耶香さんにも、当時の枝野幸男代表が責任をもって育て上げるかどうかに注目していました。今回は市井さんも出馬せず、また枝野さんも代表の座を退いていますが、こうした勉強の機会や育成責任は今回議席を減らした野党に共通する課題と言えるでしょう。

奇しくも先月は、憲政記念館が代替施設への移転再開となりました。参議院でなく衆議院の施設ではありますが、今回初当選をされた方々もぜひ訪れ、憲政の歴史の一端に触れていただきたい。そう願ってやみません。