苦渋の選択、首相の原発再稼働指示

物価上昇の一因は燃料価格の上昇にあります。その背景はロシアのウクライナ侵攻と言われますが、本質的にはSDGsの流れで環境問題が注目され、化石燃料が大きく否定された影響がより大きいとみています。つまり、ロシアはSDGsトレンドに便乗する形でウクライナ侵攻を仕掛ければどうなるかという計算をしていたとみた方が正解ではないかと思います。

足元を見ると原油価格は大きく下がっています。ニューヨークマーカンタイルで今日は一時91㌦程度をつけるまで下落したのでピークからは25%ほど下がりました。(終値は96㌦台に回復してます。)しかし、足元のガソリン価格が下がらないのは備蓄が減っていることと日本の場合は大きく円安に振れた為替がその原油価格の下落を帳消しにしていると言えます。(日本は補助金が出ているのでリアルの価格が分かりにくくなっています。)韓国が利上げを継続していますが、その理由の一つは資源価格の高騰と為替のダブルパンチに対応するためとしており、日銀の放置プレーはますます支持されにくくなってくるかと思います。

岸田首相 同首相HPより GoranQ/iStock

そのような中、数週間前の酷暑の際の電力危機、プーチン大統領によるサハリン2のロシア企業への移管とそれに伴うLNGの日本への輸出が止まる懸念が生まれました。さらには日本への資源供給の観点ではあまり影響はないもののサハリン1も同様の「没収」が取りざたされていることからエネルギー対策は喫緊の課題でした。

あまりニュースにはなっていませんが、13日にクワッドのエネルギー大臣会議がオーストラリアで初めて開催されたのですが、参加した萩生田光一経済産業相の目的はむしろ、アメリカとオーストラリアにLNGの供給を増やしてほしいという懇願でありました。日本政府の危機感はそれほど高まっているということです。

今般、岸田首相が今年の冬のエネルギー対策として原発9基の稼働を指示しました。現在5基動いているので4基を追加で動かすということです。

そのリストは現在稼働中が関電3号機、四国電力伊予3号機、九州電力玄海4号機、九州電力川内1、2号機の5基です。再稼働見込みの4基は朝日新聞によれば関西電力管轄の大飯4号機、美浜3号機、高浜3、4号機ではないかとみられています。このリストを見てお分かりの通り、今夏電力が危機的状況に陥った東京をカバーする東電や名古屋地区をカバーする中部電力が入っていません。

つまり、再稼働見込みの原発予想が正しければ、関西電力管轄ではこの冬は5基も動くかもしれず、また稼働するのは関電から西日本のみという非常にいびつな形になります。では懸案の東電管轄柏崎原発はどうなのか、といえば13日に原子力規制員会から柏崎6、7号機についてテロ対策合格の審査となり、8月にも正式合格の通知が来るとみられています。但し、同原発のテロ対策などで重大な不備を受けて検査は続いており、これが終わらないと審査上の再稼働はありません。

個人的には柏崎は首相の9原発稼働の指示とは別枠で一定条件を満たしたなら再稼働させるとみています。もう一案として茨城にある日本原子力発電の東海第二が検査合格済みなのでこちらがバックアップになる公算もあるとみています。結局、エネルギー対策でもっとも重点に置かねばならない首都機能の維持のために東電管轄の電力供給は死守せざるを得ないのでしょう。

原発再稼働については様々な意見があるのは承知しています。本質論を述べてしまえば、電力源のどれも否定されてしまう訳でそれぞれの短所を踏まえながら我々の生活に必要な電源を確保する知恵を出さねばならないのです。その点、ロシアのサハリン2がこのような事態になろうとは誰も想像していませんでした。「外国には頼れない」「一つにエネルギー源に頼るとしっぺ返しを食らう」「同盟、連携国との今後の更なる密なる関係を通じて資源の融通を確保する」ことは70年代の石油ショックの時以来の発想でありますが、平和でグローバル化の中でその緊張感が緩んでいたともいえそうです。

個人的には気候変動による異常気象、特に酷暑の傾向は今後、当たり前のようになるとみており、電力危機の話題は年中行事のようになることは大いにあり得ます。それに対して古い原発に頼り続けるわけにもいかないわけですから現在一番実用化に向けた準備が進む小型原発の導入は中期的ビジョンとして取り込まねばならないでしょう。

化石燃料を供給する国は限られています。それらの国がずっと安泰かという保証もないのです。国家の政変やテロ、戦争はロシアのケースを見ても誰も予想だにしない形で起きるのです。そのためにはエネルギーの自給という発想に切り替える必要があります。地震国である日本に於いてそれをどう展開するのか、政府の課題は大変重いものであり、国民生活に直結した最優先事項となることでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月14日の記事より転載させていただきました。