安倍元首相襲撃事件と統一教会

野口 修司

「もちろんだ。共産主義と極左は世界を悪くする。どんな手段を使っても阻止しないといけない」

穏やかな言い方だが、口調には命をかけた過去数十年に渡る決意が滲み出ていた。

シングローブ将軍(右)と筆者
筆者提供

ジョン・シングローブ将軍。友人はみな、ジャックという。筆者は2回長時間対談した。これまで数十人の軍・諜報作戦に従事した米国人から話を直接聞いた。やったことは、似たような経験をした他のプロが敵わないくらい凄まじいが、話し方だけは、非常に人当たりが良い人のトップ5人の1人に位置する。心底、怖い人だ。

彼の軍歴と諜報活動は、世界史の重要な一コマである。隠密作戦が多いため目立たないが、大きな役割を果たしてきた。シングローブ将軍はUCLAにいる時、戦争が激化し勉学を中断。まずは欧州戦線で参戦した。パラシュートを使い数人で主に夜間に動く隠密作戦が得意。ドイツ占領下のフランス国内に降下、史上最大の作戦「Dデイ」につながる連合国勝利にも貢献した。

ドイツの敗北を自分の目で見届ける前に、今度は太平洋戦線に転戦。ナチスに匹敵する強敵。大日本帝国軍との戦いに参戦した。やはり中国国内に落下傘で数人で降下。連合国の戦争捕虜救出などの隠密作戦で、日本帝国主義に勝利した。

シングローブ将軍は戦略情報局(OSS)での中枢メンバー、数々の秘密作戦を実施した。ドンパチだけでなく、情報戦、宣伝戦も得意で、敵国政府の転覆も任務の1つだった。OSSメンバーは米国の中枢で良家、上流階級、高学歴が多く、”Oh So Social” = OSSと揶揄された。太平洋戦線で、命を賭けて日本軍の攻撃を自ら撮影した有名な映画監督ジョン・フォードも工作員だった。

シングローブ将軍も中央情報局CIAの創立メンバーの1人で、影響力を行使、大きな貢献もした。より大きな予算と人員を得て、OSSはCIAに発展的に変身。共通のメンバーもいたフリーメイソンとの関係もかなり強かった。

そのOSSとCIAで継続してシングローブ将軍は、まずは日本「軍国主義」と戦った。日本降伏後の1940年代後半くらいから「共産主義」「極左」との戦いが始まった。愛国者の彼は、これらは全て「反米」勢力、徹底的に殲滅すべき敵で、その使命と仕事に自分の命と人生を捧げた。

中国の共産革命でも、シングローブ将軍は、満州などのCIA責任者として活躍。朝鮮戦争とべトナム戦争でも活躍した。ラオスに伸びるホーチンミン・ルートに関する彼の隠密作戦は有名だ。

ウエストモーランド将軍(右)と筆者
筆者提供

筆者はベトナム戦争の責任者、ウエストモーランド将軍にも2回、長時間対談した。将軍は、シングローブ将軍を「勇敢な愛国者で本当の軍事的なプロ」だと誉めた。

その後、共産主義との戦いが激化したレーガン政権の時、シングローブ将軍はイラン、エルサルバドル、二カラグアで共産主義や反米勢力と戦うため、非合法とも言える兵器提供などの隠密活動を支援した。シングローブ将軍の友人がケーシーCIA長官、実際に動き忠実な部下と言われるのがオリバー・ノース中佐だ。何でも追求する米議会における彼の証言は、宣誓シーンと共に、日本でも大きく報道された。

ここで少し横道に逸れる。シングローブ将軍と同時期、中国など太平洋戦線でOSSとして活動した陸軍諜報員のメンバーが3人いる。

当時はやはり日本軍国主義と戦った後、共産主義との戦いに従事。米国の敵には強く対応するべきと信じ、J・F・ケネデイ大統領のキューバ、ベトナム政策が生温いと考えた。この3人は結託して、1人の男を動かした。元海兵隊員で銃に慣れており、共産主義のシンパで、上手く唆し動かせば狙撃もすると考えた。この男、オズワルドは予定通り、テキサスでJFKを狙撃、射殺に成功した。筆者はこの3人の名前を公表した。決定的な証拠はまだ精査中だ。

言えることは、今回の安倍元首相銃撃事件の山上とオズワルドとの共通点があること。両者とも、軍で銃の経験があり、知能程度も高い。放置しても根底に自らの政治家を殺す動機がある。異常なほど強い個人的な私怨を抱えるので、環境を整えてやれば、自ら勝手に動いて、凶行をやり遂げる。完璧な「使い捨てのコマ」だ。

筆者は山上の凶行は、一匹狼的、単独犯だと現時点では思っているが、米国の場合、ケネディ死後、ベトナム戦争など共産主義対策が変わった。安倍に比べて少々ハト的な顔をもつ岸田総理。可能性は非常に小さいが、今回も安倍元首相亡きあと、対中政策など安倍路線が大きく変わるなら、検討要素となるかも知れない。

話を戻す。シングローブ将軍はアジアでの共産主義との戦いで、地元アジア人によるネットワークが必須と考えた。そこで目を付けたのが、基本は反共。キリスト教の原理主義的な原罪思想などを利用。民衆を動かし易い宗教団体。その1つが文鮮明率いる世界基督教統一心霊協会・統一教会だ。

マッカーサー大使(左)と筆者
筆者提供

連合軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥の甥で、1957〜61年まで駐日大使を努めたマッカーサー大使は、その前後かなり長期間、日本との関係を深めて影響力を維持した。

外交官なので距離感があり、各種議論もあったが、一部は似たような考えをもつため、シングローブ将軍はマッカーサー大使とも協力、ワシントンの保守勢力・反共組織の協力も得た。当時は冷戦真っ只中なので、比較的簡単に米国中枢の協力を得られた。

50年代の日本は廃墟から立ち直り、国の再建が優先事項だった。敗戦までは、日本当局の弾圧で、抑圧された日本の左翼勢力も、言論・思想の自由を促進する米国のお陰で息を吹き返した。1960年の安保反対運動が良い例だが、思い込みが多い当時の無知な日本人の一部が、東側に扇動されて、日本全体が左翼化するという仮説を、シングローブ将軍やマッカーサー大使は恐れた。

当時の米国は日本がなんとか自国の自由主義陣営の一部になることを願い、各種の働きかけをした。例えば、日本への「原発」導入だ。議会などワシントンの一部は、日本が兵器化するという懸念から猛反対した。だが、筆者はその当事者の1人から直接聞いた。エネルギーが少ない日本を豊かにすれば、左翼化は避けられる。プルトニウムの追跡・管理ができれば、日本に原発を使わせようという考えが、原子力の平和利用実現への方向に向かった。

筆者はスートランドの旧館から含めてカレッジパークの国立公文書館・新館や、国家安全保障アーカイブなどに100回近くは通って、数々の公文書を実際に検証した。その1つがCIAの正力ファイルだ。明記はしていないし、正力本人の原発を欲した強い意思がそもそもあるが、米国の占領政策の一部が反映していたことも読み取れる。広島、長崎の原爆、ビキニの水爆が原因の「第五福竜丸」事件などで、一部日本人がもつ反原子力、反原発、反米の考えを覆すため、米国は原子力の平和利用実現に向けて積極的に動き、正力を利用した。

その時期、日本で大きな影響力をもっていたのが、吉田茂を筆頭に、安倍の祖父の岸信介、水面下で動く、笹川良一、児玉誉士夫らだった。1954年アジア太平洋反共連盟が大韓民国にできた。その発展的国際組織が66年の世界反共連盟(WACL)。シングローブ将軍が会長に就任、10年以上活躍、統一協会が主力工作機関になった。さらにKCIAと岸信介が動き、笹川が名誉会長になったといわれる。

その後、同じ組織といえる国際勝共連合トップの文鮮明が脱税で摘発された。文鮮明・個人の名義で、所得申告を怠ったという容疑だった。通常の宗教団体ではあまりない嫌疑で、自分の身にもそれが及ぶという懸念から、ある程度の数の各宗教団体も文鮮明支持に回った。その釈放を求めて、岸とマッカサー大使が意見書を米大統領に送ったという話もある。

筆者はまだ別の塒があるが、ヴァージニア州ロザリン駅近くにアパを長期間借りていた。「ワシントン・タイムズ(WT)」紙が、文鮮明らが1982年に創刊したことを覚えている。

いまだによく読む「ワシントン・ポスト(WP)」紙が、それまでで地元主要紙としては唯一の新聞だった。民主党支持、リベラルで、国民の立場に立つ良い報道をしてきた。筆者の友人エルスバーグが暴露したペンタゴン・ペーパーズを、NYTと共に報道したことでも知られる米国良質紙で、統一教会の活動もかなり批判してきた。WT紙はそれに対抗するために文鮮明らが作ったといわれる。それまで唯一の保守系新聞が廃刊した翌年にできた。もちろん、保守寄り、右派で、かなりの数の記者が統一教会信者といわれる。

覚えているのは、WT紙は当時米国ではまずなかった1面フルカラー印刷。最初に手に取った時、経営陣は金持ちだなと思った記憶がある。調査報道取材で何度も通ったWP紙は見た目の派手さはない。内容で勝負、政治的には比較的リベラルだが、国民・読者のために「中立」と思える。そこの部分がかなり違う。

しかし、WT紙は経営難にも陥らず、いまだに元気だ。理由はやはり、統一教会の資金力のみならず、米国の中枢、保守層の心を掴む報道をしているからと思える。反共、反米勢力との戦いだけでなく、トランプも利用したキリスト教の原理主義的、原罪を中心とした考えが、米国人の心に受け入れられており、いまだに影響力が残る。

米国では統一教会信者を「ムーニー」という。Moon は月。一部には普通ではない異常な精神状態。お月様と関係があるという笑い話もあった。だが教祖の文鮮明の名前、「Moon」に従うという意味で、「Moonies」ということが多い。

筆者が最初にムーニーを取材したのは40年近く前。日本から来た可哀想な女子高校生の信者が、教団に言われてイースターエッグ販売のため、無差別個別訪問をした時、凶暴な男に、性的暴行を受けて殺害された事件だ。当時は教団は一切取材拒否。いまも口は堅い。「取材には自宅住所を使うな、PO Box (私書箱)を使え。自分の家族になにがあるか分からない」と、仲間の米人調査報道記者に、フリーの筆者は言われた。ムーニー取材は簡単でないだけでなく、危険なものだと、その時思い知った。

米国のムーニーは日本と大きく違う点がある。まずは日本のように多額の献金などしない。多様性を誇り、いろいろな価値観があるのは間違いない。だが一般的な米国人の気質からいうと、日本のように、自分が抱える悩みや問題の解決、先祖を救うためなどという理由で、巨額の献金を強要しても、言う事など聞かないのが多い。

信頼できる歴史研究家によると、不思議なことに韓国発祥の宗教団体なのに、日本での献金は全体の7割を占めるという。1970年代半ばから10年間で、日本から米国に送られた資金は800 million 米ドル(現在の価値で12億円弱)といわれる。

ロン・パクエッテイという元統一教会の幹部によると、NYのマンハッタン・センターにある協会の本部に現金で運び込まれるのが普通だった。現金はなかなか足取りを追うのが難しい。まるで麻薬組織のようだ。この巨額の現金はどこからか?と聞くと、その答えは「Father (父)からだ」という。文鮮明は「父」とも呼ばれていた。

以前ムーニーの信者で活動をしていたが疑問を持ち脱会。著作もあり、現在は精神衛生カウンセラーもやっている元信者のステイーブ・ハッサン氏。彼によると、文鮮明の宗教学では、韓国は地球を支配することが決まっている人類の故郷で聖書でいう「アダム」。日本は「イヴ」でアダムに従属する。イヴがサタン(悪魔)と性的関係を持ったため、人類が堕落した。文鮮明がそれを救済するようになったという。さらに、文鮮明は北朝鮮の金日成主席と親密な関係にあった。

米国の反共活動の影響があったものの、どうして日本人が世界で一番という多額の寄付をして、韓国人に従うようになったのか、不思議だと筆者は常々考える。

今回、統一協会の会合で安倍元首相がお披露目したビデオ演説を、山上が見た(誰かに見せられた?)ことが、銃撃のキッカケになったといわれる。

ビデオメッセージを寄せる安倍元首相
FNNプライムオンラインより

反共意識やキリスト教原理的な部分への肯定論が多い米国では、あの種の会合で政治家や著名人が、演説することは珍しくない。多額の謝礼金が支払われることが多い。今回は安倍元首相とトランプ元大統領だが、古くは90年代にも、ブッシュ父、フォード大統領、ゴルバチョフ、ビル・コスビーなどが似たようなことをやっている。統一協会側は謝礼金を払っても、有名人に支援の演説をしてもらえば、元がとれるという考えと思われる。

今回の安倍元首相への謝礼金の有無や額は全く不明だ。ムーニー側は一切取材拒否だ。`

昔、米紙が批判的な報道をしたことがあり、悪く思ったのか、ブッシュ父が謝礼金を慈善団体に寄付した。その額は8万ドル(いまの1100万円)だった。参考になるだろう。

日本人ではあまり知られていないことがある。主に文鮮明死去後、組織は名称変更、関連団体が作られるなど、いろいろな変化があった。現在の中心的な組織は世界平和統一家庭連合という名称になっている。財閥組織という見方もあるが、欧米では相変わらずカルト宗教として扱われている。

安倍元首相が昨年9月のビデオ演説で持ち上げた文鮮明の妻、韓鶴子が実質的な教祖と言われる。息子の1人韓国系米国人通称ショーンは、独立心と権力に興味があり、母から離れてサンクチュアリ教会を立ち上げた。ショーンは熱烈なトランプ支持者で、突撃銃AR-15を重要視する組織を率いる。現在米国で問題になっているトランプが扇動、クーデター未遂ともいわれる21年1月の議会襲撃事件にも参加したといわれる。

もう1人の息子、通称ジャスティンはペンシルバニア州に銃器製造会社を所有する。文鮮明に言われて、日本でも組織の法的立場を守る努力をしたともいわれる。それもあり「本物の息子」と呼ばれる。

報道によると、兄弟2人とも、米国の警察など、外敵が攻撃的なことをする。自衛のために銃も必要だ、自分も国も守る、このようにとれる発言をしている。だから、銃器メーカーであり、突撃銃重視でもあるといえる。

自衛のために武装する。筆者が昔、愛国主義者が多い、準軍事組織ミリシアや白人史上主義者を取材した時に、よく聞いた言葉だ。

いままでの情報によれば、今回の事件は銃撃犯の山上が家族絡みの理由で、統一教会を恨み、教祖を殺そうとした。母親の自己責任もかなりあるが、協会への恨みは本物のようだ。そして殺しにくい教祖ではなく、比較的やり易かった安倍元首相を襲撃した。教祖の代わりだったのか、実は最初から主要な攻撃目標だったのか、ここの部分はまだ検証が必要だ。代わりだとすると、安倍元首相絡みの政治的な要素が重要でなくなる。

日本の報道の多くは統一教会の負の部分。霊感商法や貢がせるカルト宗教団体。餓死者まで出る信者の搾取が多いようだ。それはもちろん、自己責任もあるが、山上母の問題、そして山上が殺意を持ったという説明では有効だ。だが、本当に教祖が攻撃しにくかったため、ビデオ演説をした安倍元首相殺害まで一気に行けるか、取材が必要だ。

繰り返しだが、私怨を持って自殺未遂までして、自分の人生は終わったと思い込んだ青年を利用して、安倍政治を変えようとした勢力はないのかという点を調べる必要がある。付随的なことだが、政治政党が利用すること。宗教団体の選挙関連の動員力はもちろん、寄付金などお金の問題、安倍元首相自身がビデオ演説以上になにか特別ことをやったとか、特別な関係があったのか、幾つか検証する必要がある。

以下に整理する。

① 山上が演説中の安倍元首相を銃撃して殺害した。

② 本人によるとだが、母が統一教会の信者になり、問題が起きて家庭が破壊された。組織に恨みをもち、組織の教祖を殺害する意思を持った。

③ 献金問題など統一教会の信者が多数問題を抱えている。

④ 昨年9月に安倍元首相が組織のためにビデオ演説をして持ち上げた。理由の1つは、安倍元首相の祖父、岸信介が組織と関係があった。裏には米国の反共活動があった。

岸信介からの影響で、安倍元首相は最近まで組織と関係があり、①〜④までの部分はほぼ間違いない。

しかし、以下2点は明らかではないものの注視する必要がある。

⑤ 山上は統一教会トップを狙おうとしたが、難しいので安倍元首相にしたというのが本当か?山上の気持ちを知り、ビデオ演説をみせたり、利用して安倍元首相を攻撃させようとした人間はいないのか?

⑥ 安倍元首相と統一教会との関係は、演説するくらいで、他にはないのか?より深い関係はないのか?

この事件は単純な一匹狼の個人的犯罪で終わる可能性が高い。だが安倍元首相の政治信条や政策が絡む政治テロが証明された場合、大変なことになる。