成功者が自滅する2つの理由

黒坂岳央です。

社会的に成功者とされる人は、時に周囲から見て理解が難しい「自滅」をすることがある。有名人が薬物に手を染めたり、ビジネスで高額な所得を得ている経営者が、浮気や離婚をしたり、怪しいビジネスに手を出して大きな損失を出してしまうと言ったケースである。

「うまくいっている人がなぜ、自滅するようなことをするのか?」、筆者は昔から不思議に思っていた。しかし、起業して実例をいくつか見たことでその理由がわかった気がする。本稿では自戒を込め、その理由を言語化することに挑戦したい。

Warchi/iStock

安易に資産運用に手を出す

ビジネスで成功をおさめるような人物は、不断の努力を惜しまない行動力に溢れる気質の持ち主ばかりだ。それ故に、現状維持や退化を何より嫌い、その結果としてあふれる行動力を発揮する。しかし、皮肉なことにその行動力が原因で、過剰なリスクに足元をすくわれるケースがある。その1つに資産運用の投資に手を出して失敗するパターンがあげられるだろう。

知人の経営者は本業のビジネスで大きな成功を収めた。しかし、ビジネスで得た利益は本業への事業投資に使うのではなく、株式などの金融市場に積極投資をした。その結果、巨額の損失を出してしまったのだ。

ビジネスと投資では求められる資質は共通している点もあるが、異なる点も当然ある。たとえば金融投資で優位に戦うには、現状の環境認識をした上で、自身にとってリスクリワードのよい局面が来るまでひたすら待つ必要がある。下手にガチャガチャトレードをせず、忍耐強く優位性のある相場までじっとタイミングを待つべきである。

しかし、ビジネスにおいては「待ち」ではなく、ほとんどの局面において常に行動することに優位性を持つ。ビジネスでも経済リセッション局面など、「攻めより守り」に優位性が生じるタイミングはあるものの、ビジネスの場合は攻めから守りに転じる場合においても、新たに戦略を再構築するなどの行動力が武器になる。このビジネスでポジティブに働くことの多い「行動力」が、資産運用ではネガティブに働いてしまうというわけだ。

それ故にビジネスマンとしてうまくいっても、投資家としてうまくいくケースはかなり稀だと言える。本来、資産運用で成果を出すには、年単位で全身全霊を持ってゼロから学ぶ姿勢で取り組む覚悟が求められる。にも関わらず、ビジネスでうまくいった一部の経営者は、良くも悪くもオーバーポジティブ気味で「ビジネスで成功した自分ならいけるはずだ」と軽い気持ちで資産運用に手を出し、損失を出してしまう。

承認欲求をこじらせる

次に「承認欲求を爆発させて失敗するパターン」をあげたい。

筆者の知っている人物に、地元で名のしれた男性経営者がいた。彼は高齢ながらビジネスで大きな成功を収めた。高級車に乗り、高級ブランド品に全身を包み、地元の経営者を連れて夜の飲み会に繰り出していた。そして夜な夜な、コンパニオンが出てくるお店にも顔を出していた。

周囲から見れば、彼は完全な成功者であり、順風満帆という雰囲気を出していた。しかし、最近になって実はビジネスがうまくいっておらず、さらにパパ活で素人相手に本気で入れ込み、家庭や職場で大きな不和をもたらしたという話を聞いた(本稿ではパパ活の是非を問う意図は一切ない)。

ここからは想像だが、彼はビジネスをする中で徐々に歯車が噛み合わなくなり、自ら作り出した「周囲から成功者に見られたい」という虚像と精神的安定性を保つために、自身を肯定・称賛してくれる相手を求めた。その結果、承認欲求を保つためのミエのコストで自滅したと推測する。

経営者は孤独だ。時に辛い局面はあるものの、孤独に耐える気質の持ち主にしか務まらないだろう。自慢をこらえ、不安を封じ、自らの力で前に進み続ける強いメンタルが必要なのだ。

「勝って兜の緒を締めよ」という言葉がある。これは本質を突いたとても良い言葉といつも思う。崩壊は成功への慢心と失敗への不感が過ぎた時に、静かにやってくるものだ。

「成功者」の定義は年収や資産の多寡ではなく、うまくいっている状態をどれだけ維持できるか?にかかっている。つまり、一度だけ勝つのではなく、勝ち続ける必要がある。勝ち続けるためには、他者との競争に勝つこと以上に「勝手に自滅してしまわない」ことにあるのではないだろうか。

 

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。