アマゾンも栄枯盛衰の罠にはまったのか?

日経の中山淳史本社コメンテーターが「Amazonも『S字カーブ』か 指数関数で育つ企業つくれ」と題して記事を入稿しています。とてもよくかけている記事でさすが中山さんだと思います。私がこの記事で着目したのが「今年は傾きがなだらかになり、成長鈍化が鮮明になりそうだ」とし、「池の中の弱肉強食」の構図を引き合いに出し、「指数関数での成長ゆえに『捕食』のペースも速く、20年余りで伸びしろは限界に達したということだ」と述べた点です。

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20年に囚われすぎてはいけないのですが、どのような業種や企業もそれなりの栄枯盛衰はあり、指数関数的成長を遂げたところはその行き詰まりも早いことは私も長くビジネスをし、投資をしてきた中で体得している事実です。

例えば上場企業の株価で「テンバガー」と称する短期間で株価が10倍になる企業はその株価の落ち方も概して早いものです。話題の飲食店が開店すれば当初は大行列になるものの半年もすれば下火になることも多いでしょう。ビットコインがあれだけ急騰しても今では暗号資産への強烈なバッシングでずいぶん安値に追い込まれました。ではアマゾンはどうだったのでしょうか?

私はだいぶ前からアマゾンは売りと申し上げてきました。特にベソス氏が引いてからはその思いを強くしました。アマゾンはネット販売事業とAWS(アマゾンウェブサービス)の事業が2本柱ですが、ここではAWSは横に置いておきます。「ネットショッピングは楽しいか?」。これが私の立てた仮説です。私の結論はかつては「へぇ、こんなものも手に入るんだ」「安くてすぐに届く」「持ち運ばなくてもいい」などいいことづくめでした。これは心理的にプラス要因として強い肯定意識になります。

ところがこれが生活の中に十分浸透してくると興奮感はなくなります。当たり前になるからです。当たり前になると無理して購入することはなくなります。「必要な時に必要なだけ」です。これは会社の魅力が巨大なる破壊的創造者から社会インフラ企業への鞍替えであり、会社の価値は証券アナリストが好むバリュエーションで算出される以上の何物でもなく、投資家も離反していきます。ではアマゾンは何か新しい画期的事業を生み出せるか、これが今、経営陣に叩きけられている投資家や市場、顧客からの質問状であります。

メタ(旧フェイスブック)はその点、面白い比較対照になります。フェイスブックが破竹の勢いで地球上に広まった時、ザッカーバーグ氏は「さて、フェイスブックの広告収入という一本足打法で食っていけるのか」と考えました。彼がそこでつなぎに使ったのがインスタグラムです。ソーシャルメディアとしてのインスタは今では圧倒的影響力があり、おなじ広告収入でもとりあえず顔かたちをかえてつないだわけです。そして、今、メタバースという新たな挑戦に挑むわけで個人的にはザッカーバーグ氏には創業者として常に矢面に立たされているが故の底チカラはあるように見えます。

テスラの場合には課金制度を持ち込んだことがユニークでした。一般の自動車販売は販売後は自動車ローンで稼ぐか、車両のメンテサービスが継続的な収益源となりますが、同社はソフトウェアアップグレードを通じて様々な課金制度を取り込みました。「繋がるクルマ」の能力を最大限引き出している点がすさまじいわけです。

アップルの場合はiPhoneという旗艦商品と付随商品群を取り揃えながら一定期間ごとに買い替えを促進させるビジネスモデルが成功したと言えます。このビジネスモデルは一種のリースと同様で契約期間が終わるとちょうどそこに新しいモデルがあり、欲しくなる仕組みなのです。iPhoneのデータ移管も簡単で古い機種から新しい機種に変わる際の移行もほぼシームレスであるため、一度iPhoneを使うと他に変えられないのは顧客とのつながりを常に維持していることなのだと思います。

つまり、アマゾンはメタ、テスラ、アップルに比べて顧客密着度は明らかに薄いと言わざるを得ません。これがアマゾンの評価が今一つ伸びない点だと考えています。こういっては何ですが、アマゾンは所詮、どこにでもある製品を販売する媒介手段であり、一度売ってしまえば一旦は顧客と縁が切れるビジネスモデルです。継続してお金を落としてもらうビジネス、これがやはり経営の本質的には強い形態ではないかと思っています。

このブログで昔、パソコンのプリンター業界はインクカートリッジで儲ける、という話をしました。パソコンのプリンターは1万円でもそれなりのモノが買えますが、カートリッジがとても高いわけです。これは本体を安くしてお客様に継続してお金を使ってもらうビジネスモデルの成功例として紹介されたのです。ですが、それが今では成功ではなくなりました。市場が「プリント」することにSDGs的に無駄を感じるようになり、プリントが激減したからです。

会社業務でもそうです。例えば私は契約書との奮闘が業務の大きな部分を占めるのですが、ほぼ全部、ドキュサイン(DocuSign)かPDFでクラウド保存となり、紙に印刷するのはよほどそれが必要な時以外なくなりました。これはSDGsもありますが、書類を置いておく保存スペースに金がかかることもあるからでしょう。こう考えると高いカートリッジを売りつける目論見が、世間から全く違う反抗で失敗したとも言えます。

こう考えると継続的にお金をもらえるビジネス形態やサブスクはよさげですが、時代の流れを読み間違えるとそれすら振り落とされる時代だともいえるのです。

ビジネスの賞味期限はどんどん短くなっていきます。かつては20年放置しても客はそれでも来てくれましたが、今ではとにかく投資をし続けてビジネスそのものをアップグレードしていかないと廃れることが目に見える時代なのです。個人的には一つのはやりは3年程度だと思っています。つまり流行りビジネスに乗るならその間に資金回収できるのか、ということですが、逆に赤字でもその流れに乗っていかないと先頭集団には永久に追いつけなくなるともいえるのです。

私も様々な事業を展開する中でこの熾烈な戦いの中で余裕しゃくしゃくなどという日は1日すら訪れない日々であります。いかんともしがたいわけで経営者は楽ではありません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月19日の記事より転載させていただきました。