海外の夢:なぜ、大企業の駐在員が減るのか?

先日、ある集まりでとても気を引く青年に出会いました。歳の頃は30歳ぐらいだと思いますが、見た目から幸せオーラがあふれ出ています。「何をされているの?」と聞くと「投資をする会社を作りました」と。ん、と思い、もう少し聞くと親や身内のお金を預かりそれを北米株式市場で運用するビジネスをしているというのです。

私はそれが適法かどうかは知りませんが、一種のファミリーオフィス(身内など個人資産の運用を行う身内のための会社)なのだろうと察しています。イーロンマスク氏など現役の富裕層はファミリーオフィスを持っている人も多く、1年ほど前はアルケゴスというファミリーオフィスの破綻で野村證券が巨額の損失を計上したこともあります。

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「で、運用成績は?」と聞けば嬉しそうに「1年で30倍になりました!」と。何やら中国の自動車株の一本勝負で運用成績を上げたというのですが、何処まで信じるかは別として立派な成績を残したわけです。もちろん、そんな運用、普通は出来ないし、たまたまのまぐれ当たりなのでしょうが、カナダに来る前は日本で証券会社に勤めていたそうなので「日本のサラリーマンと雲泥の差」を実践したわけです。

ここバンクーバーは語学留学のメッカでコロナが下火になった頃から再び日本人を含む語学留学ラッシュです。先日ある学校関係の方と話をしていたら生徒が溢れんばかりの状態とのことです。語学系と技術やノウハウなどを取得する専門学校系と2系統あるそうですが、後者は就学中及び卒業後、短期間ながらも一定の制限内で就労できるビザがもらえることもあり、学校に通った内容を実践できて非常に人気が高いプログラムです。

またこのところ、感覚的に思うのは男子が増えているのです。かつて民主党政権の頃、日本の就職事情が厳しく、特に女子は凍り付くような氷河期だったこともあり、当地は女子のワーホリや学生で溢れかえっていたのですが、男子はほとんどお見掛けしませんでした。「海外に行っている余裕なく、日本でしがみつかないと就職を失う」という理由でした。今、なぜ男子が増えたのか、これは明らかに日本脱出と海外で一旗揚げるという人が出てきた可能性があるとみています。

実は男子が本国にしがみつかなくなったのは韓国の方が先でした。同国も成長しているといっても特定分野や特定企業に限られるため、「ソウル大学すら出ても…」という寒風が吹き荒れ、閉塞感が漂います。そこで国内を諦め、海外でその活路を見出そうとする人が急増したのです。ある意味、人材の流出といってもよいでしょう。

日本は盤石なのでしょうか?最近、気になるのが駐在員が更に減っているようなのです。先日、当地の駐在員が集まる団体の方と話をしていたら恒例の月例ゴルフに数組程度しか人が集まらないというのです。かつて私も所属していたこの団体のゴルフはいつも10数組から15組ほどの人の集まりでした。数組とは衝撃的な減少です。

なぜ、駐在員が減るのか、2つ理由があると思います。1つは駐在員のコストが円安もあり、非常に高くなり、国内同年齢者と比較すると2-3倍以上の差がつくため、最小限にしてあとは人材の現地調達に変えているのだと思います。それともう1つは駐在員の生産性。そこにいることでどれだけの成果を生んでいるのかという疑問でしょう。突然知らない国に赴任してきて部長や役員クラスとして現地の人を使い、判断しなくてはなりません。右も左もわからない上に日本で判断したことすらない方に経営しろというのは無理難題なのです。

この構図は大企業から駐在員が減る一方、バイタリティある若者が海外で挑戦を挑むという新たな変化です。もちろん、私は海外の仕事がたやすいとは微塵にも思っていません。ですが、踏み出さないことにはできない、そして海外にはニッチマーケットがいくらでもあるので成功できるチャンスはごまんとあるのです。

とはいえ、何でもよいわけでもありません。数か月前に日本から私に近い年齢のご夫婦が訪ねてきました。「会社を退職したので第二の人生をバンクーバーで旗揚げしたい」と。「で、何をされるのですか?」と伺ったところ「豆腐や」。私は唸ってしまいました。うまい豆腐を皆さんに食べて頂きたいという気持ちはわかるのですが、豆腐にもある程度国籍があり、日本の豆腐は日本料理には向くのですが、中華には中華料理用の堅い豆腐が好まれます。韓国料理も豆腐を多用するので豆腐メーカーは多いのです。ここに退職金をぶち込むのはあまりにもリスクがあり過ぎます。私はやんわりと「もっと周辺調査をしてそれでやっていけるのか確認した方がいい」と申し上げました。それから2カ月ほどして日本からメールがあり、「諦めました」と。

海外でビジネスをするなら若いうちに出ないと厳しいと思います。私は「風を感じるかどうか」だと思っています。若いうちで自分があまり固まっていなければ海外に出ると影響の受け方は大きくなり、当然、吸収力も高くなります。ある女性はイスラム系の方とお付き合いして人生観がすっかり変わってしまったケースもあります。ネガティブな意味ではなく、という意味です。

一方、ある程度の年齢から移住すると日本をそのままここに持ってきてしまう方もいます。海外に同化するというより「俺は日本から来たんだ」という自負が勝ってしまっているのでしょう。正直申し上げますが、感覚としては日本が世界でちやほやされることはまずありません。その他大勢と同じです。だからこそ、一生懸命やらないと勝てないのです。

先日フランスでジャパンエキスポが開催され、4日間で25万人動員と報じられています。これを見ると日本はまだまだいけるのではないか、と思います。ですが、そのような潜在市場には言葉のハンディもあり手が出ず、というのが実態ではないかと思います。私どもは来週、当地最大のアニメフェスに3日間、初出店します。私も張り付きます。日本ですら品切れで入手困難なアニメ系商品も取り揃え、たぶん、日系からは唯一の出店者なので「リアルジャパン」を売り込んでみたいと思っています。

海外は甘いもしょっぱいもいろいろです。ですが、5年ぐらい仕事をするとようやく馴染んできます。10年で商売が面白くなります。そんな長期的な視野に立てば海外の夢は叶うと思います。日本の若者が当地で増えたことは喜ぶべきなのか、悲しむべきか微妙ではありますが、若者が生きる喜び、働く喜びを感じてもらえるなら海外での人生も大いにありでよいのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月20日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。