「できない人に合わせる文化」はもうやめよう

黒坂岳央です。

日本はかつて「ハイテク国家」と言われていた。いや、今でも優れた技術で他国を圧倒する分野ももちろんある。だが、驚くほどアナログなオペレーションを続けるケースは依然として多いと言って良い。現金支払い、FAX使用、ITシステムやセキュリティなど、数々の問題があってもなかなか改善の兆しは見られない。近年においては、企業の労働生産性を大きく落とす要因にもなっている。対応は急務だ。

ハイテク技術を有していた我が国をアナログに留める真犯人は誰なのか?結論を先に言えば「できない人に合わせる」という文化だと思っている。

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企業はできない人に合わせるのをやめるべき

良くも悪くも、我が国には「できない人に合わせる」という文化がある。これは「できるだけドロップアウトする人を出さないように」という、優しさの感じる日本的配慮だ。学校でも会社でも、できるだけ落第者を出さないようにと徹底的な配慮がなされる。義務教育ではまだしも、企業でこれは良くないと思っている。「できる人にキャッチアップしなければ」という気概や努力をスポイルするからだ。

だがこの点において、昨今のahamoやセルフレジの導入は良い兆候だと感じる。少しずつだが、「できる人に向けたサービス」が始まりつつあるのを感じるからだ。過去記事「ahamo顧客サポート有料化に企業が続くべき理由」にも書いたが、手のかかる人を過剰に保護するのを辞め、企業は彼らをドンドン有料での対応に移行するべきだと思う。厳しい意見に感じるかもしれないがこれは普通のことだ。企業は幼稚園ではなく、利益を追求するための組織体という本質があるためだ。

筆者は米国、マレーシアやシンガポールにあるIT業界の企業とビジネスのコミュニケーションを取っているが、日本のようにきめ細かい対応をしてくれるところはほとんどない(一部に、日本人向けに教育を受けたカスタマーサポートを提供できる企業もあるが)。会社によってはサポートセンター自体がなく、技術的な問題はFAQとコミュニティで自力で解決しろというスタンスのところもある。

それに比べると、日本のサポートはよくいえば優しすぎ、厳しく言えば甘やかしすぎに思える。日本は今後は少子高齢化でますます労働力不足が深刻化する。できない人が主役で、自主的に頑張る人が割を食うような状況を続ける余裕はどの企業にもないはずだ。

少子高齢化が日本をローテクにしている

ここまで読んだ時点でもう言いたいことはおわかり頂けたと思う。つまるところ、日本の少子高齢化こそが、我が国をローテクに留める真犯人だということだ(お断りしておくと「少子高齢化=老人がダメ」と言っているわけではない)。筆者が言及しているのは個別の人間に対してではなく、社会経済的なaging現象についてである。

日本の人口ピラミッドを見れば一目瞭然なのだが、我が国の最も分厚い年代層はシニアである。シニアが長きにわたって身をおいたビジネスやエンタメはアナログだ。連絡は電話やFAXで、支払いは現金である。社会的に最も多数派で、「できなければ、旧来のオペレーションで対応しますよ」という文化圏に身をおいている。さらに企業はお金を持っているシニア層にビジネスを仕掛ける。だから即改善というのは難しい。

このような状況を俯瞰すると「自身のテクノロジーレベルを高めなければ」と意欲的に考えて、自主的な努力をしようとは思わない。人は実利で動くため、何も損をしない状況が続けばわざわざ時間やコストを割いて新たな学びをしようと考えない。これが社会全体をアナログに留めている真犯人なのではないだろうか。つまるところ、現代社会に残るアナログさは少子高齢化現象なのだろう。

色々と話したが、個人的にはこの日本的な温情対応は好きだ。筆者も昔はあらゆる局面で「できない人」の側だったので、周囲が優しく懇切丁寧にサポートしてくれた甘い記憶がある。だが、日本が国際競争に打ち勝ち豊かさを維持するには、アナログからの脱却は急務でそろそろ変化への対応が必要な時が来ている。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。