アメリカは景気後退???

アメリカの4-6月度のGDPが発表になり、事前予想のプラス0.4%には程遠いマイナス0.9%と2期連続のマイナスとなりました。2四半期連続のマイナスはテクニカルリセッションとされますが、どうも高官はこれを認めたくないようです。アメリカならではの強引さも見て取れます。

今回のマイナスは一部では事前にそのような予想もありましたので驚愕という感じでありません。一方、パウエル議長は昨日のFOMCの後の記者会見で「明日のGDPは第一次集計の数字だし…」と、どんな数字が出ても後で修正があるのだから鬼が出ようが、蛇が出ようが驚かないというそぶりを見せました。

イエレン財務長官も今週初めに「雇用創出ペースがやや減速する可能性が高いが、それはリセッションではないだろう。リセッションとは経済が広い範囲で弱くなることだ。現在のところ、そうした状況は目にしていない」(ブルームバーグ)と述べています。

つまり統計上の結果では「R」マークが点灯するもそれは正しくないと火消しに躍起というところに見えます。

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お前はどう思うのか、と言われれば何か経済に特段影響する異変や特異なことが起きない前提ならば景気の高度はブレながらも、引き続き下げトレンドになる可能性がありますが、ドスンとは落ちない、つまり、明白な方向性が出ない踏ん切りの悪い状態に陥ることもあり得るとみています。非常に大きなピクチャーで考えるとアメリカは今日、日本が抱えるような国力の弱体化サイクルの可能性の検証も必要かもしれません。

目先の経済は数日前に述べたように資源食糧価格の高騰、国際輸送のコストと人材不足、及び労働力の3つのエレメントのうち、労働力に於いて労働生産性が下がり、雇用のミスマッチが起きていることが最大のネックだとみています。

国際輸送に関してはここにきて驚くほど改善しており、北米線は私の会社の荷物だけ見ても3か月かかっていたものが2か月以内に収まりつつあり、もう一息で通常ペースという感じになります。物量が減っていることは明らかで、これを消費が落ちているとみるのか、昨年末から年初にかけてコロナ回復後の消費を当て込んだ仕入れ量が多すぎたための調整に入っているかのどちらか、とみています。

資源価格については読みにくいのですが今回は8月初旬に開催されるOPEC+の行方ががぜん注目されます。バイデン氏がわざわざサウジアラビアで増産をお願いし、明白な返事は得られていないもののバイデン氏は感触を感じ取って帰国しています。期待通り、計画より多い増産になれば更なる原油価格の下落が期待でき、現在の90ドル台半ばが80ドル台に落ちることもあり得ます。

ただ、ロシアが欧州向け供給量を減少させているガスが今後の資源価格の最重要指標になりそうです。ガス価格は引き締まっており、本来は夏で注目度が下がるガスが原油より市場では着目されています。ガス需要がひっ迫すれば原油価格は想定ほど落ちず、ある程度の値を保つ可能性はあります。それでも旅行シーズンはあと数週間で終わりですのでガソリン需要もピークアウトとなり、さほど強気になる話でもないとみています。

とすれば最後は労働力です。これが政策的に結果として失敗した気がします。貯蓄率をみると政権が小切手をばら撒いた時に30%以上の貯蓄率になるも激しい変動ののち、21年7月に10.5%を付けた後、漸減、5月で5.4%で近年まれに見る低さです。長期の平均が8.9%ですので消費者が必要以上に使い込んでいるのが見て取れます。これを物価高に伴う一般庶民の赤字キャッシュフローとポストコロナで旅行などに消費が向いている両方ではないかとみています。

一方、この赤字キャッシュフローを埋めるために労働者はコロナ回復で高給が提示された大手のハイテク企業などに雇用先を見つけました。が、問題はその雇用先にありました。いわゆるハイテク企業はコロナ末期の旺盛な需要に対して雇用を増やしすぎたのです。ところがその後、見事に業績が収縮し、それら企業では解雇の嵐となります。つまり多くのハイテク企業やアマゾンのようなEC関連企業が継続するとみた消費欲が続かなかったわけです。併せて企業側の投資欲も減退したというのが私の見方です。

この雇用のミスマッチ解消のため、統計では相殺されたお尻の数字しか見えないものの、雇用の大幅な入れ替えが起きているとみています。賃金の上昇率も明らかにピークアウトしているため、今後は収入増のペースが落ち、物価高や消費欲を吸収できず、家計はタイトな状況が続くとみています。

一方、パウエル議長は想定通りの0.75%の利上げを実施したものの、この先についてはデータ次第とし、予想を避けています。多分、それぐらいこの先の行方が読みにくいのでしょう。「次のFOMCまで8週間あり、その間に消費者物価指数と雇用統計がそれぞれ2回あるし、それ以外の重要な経済統計の発表もあるからそれを見て判断する」と昨日述べているところからすれば春先の強気姿勢は打ち消されています。

現時点で9月の利上げ幅の予想をするのは無意味に近いのですが、私は0.50%か0.25%のどちらかになるとみています。市場は0.75%から0.50%の予想ですが、私は上述の流れから見てもっと弱気な予想としています。7-9月のGDPはプラスに転換すると思いますが、弱々しさが残るような展開を見込んでいます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年7月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。