10式戦車は将来の戦場では生き残れないでしょう。
そもそも戦後の日本の戦車は61式戦車以来、殆ど近代化が行われていません。これは90式も同じです。
10式もそうなるでしょう。採用されて10年以上経ちますが、近代化の話はありません。仮に企画しても無理でしょう。既存の10式を近代化する予算を陸幕は捻出できないでしょう。そして例によって冗長性を考えずに作られております。特に本体40トンを実現するために車体が小型化されて、内部ボリュームにも余裕がありません。
10式のコンセプトは本来40トン、最大でも44トン、増加装甲と燃料弾薬を下ろせば、40トントレーラーで移動できる、だから通れる橋梁も多く、北海道以外で90式より多くの地域に進出できる、ということです。これが売りだったし、他国がやっているように第3世代の90式を近代化せずに新型戦車を開発する大義名分になっていたわけです。
これは過去何度も指摘してきた話です。
防衛大綱で敵の機甲部隊が大部隊で上陸してくる可能性は低いとしているのに、機甲戦を主体とした10式の開発、配備は必要なかったはずです。
10式は重量が増加する近代化はできない、できるであれば何でまだ使える90式の近代化で乗り切らなかったのか、と批判されるでしょう。
そもそも10式は、安普請で他国の3.5世代戦車よりも生存性が低い。開発時にこれまた90式より同等か、安くしないと認められないという事情がありました。であれば高価な複合材料を多用したり、多くの試験をして新たな対戦車システムを開発する予算もなかったでしょう。それが外見からでもわかる端的な例が側面スカートです。ただの数ミリの鋼製で、90式と同じです。現在のミサイルには無力でしょう。
そして陸幕は90式の期限が切れた消化器の更新すらしないほどカネがないし、生存性に無頓着です。それは実戦を想定していないからです。
そもそも我が国の戦車は90式まで他国の戦車の3倍程度の単価でしたが、それが10式で旧に90式とほぼ同じ、他国の戦車より圧倒的に安くなるということ自体、いかがわしい話だと疑うべきでしょう。
前から指摘していましたが、今回のウクライナ侵攻でも注目されましたが、戦車に対してトップアタック、砲兵や迫撃砲の精密誘導砲弾、ドローンによる索敵や攻撃、目標指示などが改めて認識されました。
そうであれば、増加装甲などによる、装甲強化、赤外線シグニチャーの低減、ドローンや敵の歩兵に対するRWS、敵に先んじて情報を取るためのドローンの装備、APS(積極防衛システム)の導入、歩兵とより緊密に連絡できる通信システムなどが必要です。
更に申せば、気温40度、特にNBC環境化における活動を可能とするためのクーラーの導入、これらシステムを動かすためのエンジンの出力強化、あるいは補助動力装置の強化が必要です。それにはハイブリッド駆動が有利です。ハイブリッド駆動は電気で走行する場合は静粛性、赤外線シグニチャーの低減も可能となります。実際に仏国防省は次期戦車ではハイブリッド駆動を検討しており、研究も進めています。ちなみに5月30日のJDW誌のハイブリッド駆動の記事では、チャレンジャー2の現行のエンジンは7.4トンで5.7㎥だが、ハイブリッド駆動ならば5.5トン、4.8㎥まで減らせると紹介しています。
これらの装備を導入すると多くの場合、かなり重量がかさむし、費用もかかります。既存の10式まで改修するとなると更に費用はかさみます。当然ながら重量もかさみます。一つ手段はゴム製履帯の導入です。これで1トンほど軽量化できます。ただ今年の段階で装備庁は既存車両にゴム製履帯を導入する計画はまったくないと断言しています。
基本重量40トンを超えれば、導入理由が崩れます。仮にそれを無視しても、より大型の戦車トランスポーターが必要となりますが、そもそもトランスポーターは今でも不足しています。十分なトランスポーターとその乗員が揃わないと、本土での10式の活躍は画餅ですが、現状その絵に描いた餅状態です。それで更にトランスポーターに投資し、乗員、その整備員などを確保できるでしょうか。
将来の戦車はどうなるでしょうか。
6月に開催されたユーロサトリでラインメタルとMW+ネクスター・システムズが次世代戦車のコンセプトモデルを発表しました。これらは130ミリ及び140ミリ砲の搭載を検討されています。これらだと装弾数は120ミリ砲の戦車の半分あるいはそれ以下となります。
ぼくは、それは難しいと思います。それで徹甲弾、榴弾などの複数の弾種を搭載して、不足ないかといえば大変不安でしょう。弾数の多さも戦車の重要な要素です。特に都市戦で歩兵相手ではなおさらです。幾ら威力があっても弾がなければ戦車はただの鉄の棺桶です。かと言って、装弾数を増やせば戦闘重量が相当重たくなります。将来の冗長性を考えれば60トン以下には納めたところでしょう。
重量を考えれば、2名搭乗する砲塔は難しいでしょう。重量を軽減するためには無人砲塔が選択されることになるのではないでしょうか。乗員はRWSやドローン、UGVその他システムを操作することを考えれば4名となるケースも多いでしょう。現在はレオパルト2のように装填手が担当していますが、自動装填装置があっても4名という定員になる可能性もあるでしょう。
また重量軽減を第一に考えれば無人戦車という選択もあります。戦車あるいは装甲車から無人戦車や対戦車ミサイルと搭載したNGVを運用することも考えられるでしょう。
それに加えてウクライナでの戦訓が反映されるでしょうから、現状どうなるかわかりません。恐らくは今の戦車と全く違ったものになるでしょう。
ただ、いずれにして自爆ドローンを含めたドローン、UGV対策、トップアタック対策は必要でしょう。10式の近代化は必要不可欠のはずですが、陸幕にその気はないようです。恐らくあと20年近く既に旧式化して防御力も弱い10式の調達を延々と続けていくのでしょうか。
それは戦争を想定しておらず、10式戦車の調達自体が目的だから何の問題もないのでしょう。それは我々納税の納めた税金をドブに捨てているだけのこととなります。
【本日の市ヶ谷の噂】
次期装輪装甲車などで三菱重工の仕事が確保でき、大量の90式戦車を廃棄でないので、陸幕は10式戦車の調達は近く打ち切りを検討中、との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年8月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。