日本の中小企業の行方:消費者が「より取りみどり」の時代はやがて終わる

日本に中小企業はいくつあるのか、最新の統計資料がないのですが類推すれば概ね300万社程度で減少を辿っています。日本企業の99.7%が中小企業と言われていますが、この比率も少しずつ、変わっていくのでしょう。なぜ、中小企業が減っていくのか考えてみたいと思います。

私にとって日本に於ける中小企業とは戦後日本経済の復興の原動力であったものの、現在はその衰退期が長く続いている、これが一言で述べる実態です。復興初期は大手企業だけでは労働力を吸収できなかった一方、人口が増える中で地域といった狭いエリアに於いてあらゆる需要が爆発的に増大していました。つまり大企業がカバーできない主に個人向けや小ロットの法人向け需要を中小企業、零細企業が補うとともに重層な下請け構造がより強固な形として発展したわけです。これは大企業と中小企業が持ちつ持たれつの良好な関係であったとも言えます。

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中小企業、特に資本金1000万円で従業員5名以下程度とされる零細企業はその資本力から小売業や飲食業といったBtoCの事業を主軸としました。現在でも会社数のうち個人経営が190万程あるわけですが、あくまでも地域が経済主体だった名残ともいえましょう。それゆえに商店街が街の中心的存在であったわけです。

ところが大店舗法ができ、チェーンストアが出来、少しずつ企業規模が大きくなり、フランチャイズになり、ブランドネームが押し出されるようになります。併せて、消費者も商品により安心安全を求めるようになります。大手はパッケージングや商品管理に重点を置くことで消費者のハートを取り込みます。中小企業は大手の傘下や大手がカバーしきれないエリアで生き残りを目指し、目立たない存在となっていきます。当然、事業継承となれば「オヤジの仕事、俺、嫌だよ」となり、ピカピカの高層ビルでスーツを着たサラリーマンに憧れます。これは実にナチュラルな展開です。

ここにきて事業はより難しくなります。一つは事業を新たに起こすにも継続するにも投資が必要になったからです。店舗をよく見せる、商品やメニューに工夫を凝らす、マーケティングなるものを零細企業も考えねばならない、ウェブサイトも必要、POSで商品管理…となれば比較的高齢になった経営者にはとてもついて行けません。更に銀行は貸し渋ります。何故か、といえば借入金は10年といった単位ですが、銀行も含め、10年後のビジネスが予見できないからです。つまり、貸金に対するコミットがしにくくなったとうのが正直なところでしょう。

零細企業では経理の概念を理解していない経営者も多いと思います。銀行への返済は売り上げから返す、経費も仕入れ代金も払う、そして残った分が自分の取り分という引き算のキャッシュフロー管理である「ざる勘定」かと思います。本来では貸借対照表とPLを併せて管理すべきですが、零細企業の経営者に言わせれば「収入も支払いも現金なら貸借対照表にヒットしないじゃないか」と。確かに売り掛けも買い掛けもなければ数字上は概ね正しそうな数字になるのですが、それでは今の会社は経営できません。

また、世代交代が進む中で今から零細企業→小規模事業→中規模企業…というプロセスをへて事業を立ち上げたいと思う人がどれだけいるのでしょうか?人口は毎年50万人以上減少しています。出生数が年間80万人を割り込むような時代で15歳以下の若者は今後、極端に減ります。となればあらゆる方面での需要の先細りは確実です。金持ち高齢者がいるだろう、とおっしゃるかもしれませんが、高齢者はたくさん食べられないし、物欲も減退します。「馬子にも衣裳」ならぬ「孫に衣裳」でも孫がいないとなれば現在のシナリオは中小企業数は現在の300万社から10年後に200万社程度に減っていくとみています。

そうすれば皆さんの生活で何が変わるでしょうか?まず、過当競争が沈静化します。かつては新聞折り込み広告がどっさり入り、消費者は「より取りみどり」でしたが、店舗数が減ることで企業は目玉商品を繰り出さなくてもある程度売れる時代が来ます。いや、むしろ、皆さんの家の周りからコンビニが消失し買い物難民になる人も出てくるでしょう。

飲食店数はこの10年で4%弱の減少にとどまっています。訪日外国人とチェーン店が増えたことが支えとなっていますが、今後は多くの個店は当然淘汰に向かわざるを得ません。私が日本で滞在するところは山手線の駅近くなのにラーメン屋すらほとんどなく、行くたびに一つ、また一つと飲食店が消えていきます。特にチェーン店は一定の売り上げがないとあっさり店をたたみますので本当にびっくりするぐらい外食に困るのです。

飲食店事業は多店舗展開に勝利の方程式があったのですが、これは崩れるとみています。

シュリンクする経済と人口ピラミッドが極端にアンバランスである日本に於いてこれから10-15年程度で高齢者の数も大きく減少トレンドに入る中で、年間人口減が100万人という水準も現実的になり得ます。となればあらゆる業種は生き残りを賭けた展開になります。

その中で生き残る方法は当然ありますが、それはまたの機会にお話ししたいと思います。少なくとも中小企業はよほど工夫をしないと存亡の危機にあると考えています。これから10年間が勝負になるのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月10日の記事より転載させていただきました。