物価高騰の裏に潜む大転換の兆し

私は3ヶ月に一度、雑誌『経済界』にコラム「視点」を寄稿しております。本投稿では以下、その第9回を皆様と共有致しておきます。

干支学で言うと2022年は「壬寅」(じんいん・みずのえとら)である。年頭所感で私は「10年後に振り返った時、大きな分岐・転換になった年と位置付けられると思う」と社員へ語った。今年は全世界が物価高騰に悩まされているが、その背景に壬寅の年ならではの大きな「転換」の兆候が見える。

一つは米FRBによる急激な利上げだ。リーマンショックとコロナ禍で行われた量的緩和により、2007年頃に9千億ドル程度だったFRB総資産は既に約9兆ドルに膨らんだ。過去に類を見ない金融緩和が物価を押し上げているのは言うまでもない。「インフレは一時的」との見解に固執していたパウエル議長も態度を一変させ、6月・7月と連続して0.75%の大幅利上げを決定した。いよいよ金融大緩和時代の終焉となる転換の年になりそうだ。日本も遅かれ早かれ金利を上げていかざるを得ないだろう。

もう一つの「転換」は米中対立の行方だ。米政府は知財侵害を理由に中国製品に制裁関税を課し、人権侵害や国家安全保障等の懸念から多くの中国ハイテク企業への締め付けを強めた。また、米国当局の監視強化などを背景に、米上場の中国企業約200社が上場廃止になる懸念も高まっている。米中対立により世界の工場である中国を中心とした国際分業体制も揺らぎ、サプライチェーンの寸断が物価上昇を助長している。インフレに苦しむ米バイデン政権は最近になって漸く対中関税の引き下げに重い腰を上げるかに見えたが、ペロシ米下院議長の訪台を機に米中緊張が一層強まった。いずれにせよ、米中対立の構図の行方は今後の大きな分岐点となっていくだろう。

三つ目はロシアによるウクライナ侵攻だ。その影響で世界のエネルギーや食料等の価格高騰に拍車がかかった。また、米主導の軍事同盟であるNATOは北欧2国の加盟実現により一層存在感が増し、加盟国は揃って国防費を増やす方向で動いている。一方、ヨーロッパ主導の経済連合であるEUは参加国の85%に相当する23か国がNATOと重複することもあり、経済よりも軍事を前面に出さざるを得ない欧州の現況は第二次世界大戦以来の転換期となるかもしれない。

最後に、5月の選挙で敗北を喫した豪モリソン首相、相次ぐ不祥事で7月に辞任した英ジョンソン首相、そして10月の大統領選で劣勢の続く伯ボルソナロ大統領など、トランプ前大統領と同様に自国第一主義を掲げて人気を集めた各国の指導者が相次いで交代していく年になりそうだ。そして、約7年半と憲政史上最も長く首相を務めた安倍晋三氏が銃撃されたことも記憶に新しい。7月の参院選では憲法改正に前向きな自民、公明、維新、国民の4党で3分の2議席を超えるなど、安倍氏の悲願であった憲法改正が現実のものとなるかもしれない。これは日本にとって歴史的にも、経済的にも、もちろん政治的にもさまざまな意味で象徴的な出来事になっていくだろう。

年初の予見通り、世界が大きく揺れ動く大変革の年になりつつある。変化が多くかつその程度が激しいという認識を常に持って行動していきたい。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。