先週は夕刊フジで「逃げるな岸田政権」という連載をした。
第一回は岸田首相は統一教会問題についての攻撃から党員を守るのも岸田氏の仕事だという話。第二回は安倍氏は統一教会問題でまったく批判される所以はないという話。第三回は岸田首相と林外相がいずれも通産官僚の息子で驚くほどよく似た背景を持っているという話。第四回は、ダイナミックな外交政策の必要性、そして、第五回は日本の拡大に広く前向きの姿勢で取り組むべきだということだ。そのうち、本日は、第五回に加筆して紹介する。
岸田文雄首相は8月末、「次世代型原発の開発・建設検討」や、「既存原発の運転期間延長」について、年末に具体的な結論を出すと明言した。東京電力福島第1原発事故で、新増設を凍結した方針の大転換だが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、世界的なエネルギー高騰が直撃して、世論の風向きが変わったことでの後追いだから、効果が実際に出てくるのは遠い先になる。
新型コロナ対策では、オミクロン株対応のワクチンの接種を前倒しすると8月31日に表明した。菅義偉前内閣が、ワクチン接種の拡大を進めたのに対し、岸田内閣は堀内詔子氏のような軽量級の担当相を当てて、希望者に接種するが、希望しない人への接種は強く呼びかけなかった。ワクチン接種者への特典も設けることに消極的で、子どもへの接種もおっかなびっくりだった。
これが「第7波」で死者が多く出た原因の1つとされる。薬剤師などにワクチンを接種を認めないので、流行期に医師がワクチン接種業務で忙しく、治療にあたる医師が不足する原因になった。諸外国で問題なく行われている薬剤師などによる接種を認めれば色んな問題が解決する。
それに、コロナ患者に接したくない医師がワクチン接種業務をすることで、「私もコロナ対策で頑張ってます」と言い訳するのにも使われている。
日本の経済社会は、明治維新ですべてぶっ壊して欧米最新モデルに置き換えられた。教育でも藩校や寺子屋などすべて毀して最新式の西洋式になった。
そのあと、戦時体制と戦後改革で刷新されたが、あとは常に微修正だ。アベノミクスもやらないよりはいいが、金融・財政という政府の小手先でできることに頼って経済成長しようとする安直に流れたことは、『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか』でも書いた。
私は日本経済の成長を阻んでいるのは、広い意味における第三の矢に当たる「少子化」「教育改革の遅れによる国際化やIT化に必要な人材供給不足」「後ろ向きのインフラ投資」「医学部への優秀な人材の集中」「東京一極集中」「人生や生活についての向上心低下」「起業や転職意欲の不足」などだと思う。
安倍晋三元内閣はこうした問題についても改革意欲はあったが、例えば、大学入学共通テストに、英語4技能(読む、聞く、話す、書く)を重視した民間試験を導入することすら腰砕けになった。英会話が苦手な教師が失業の危機と反対して、それを「教育界の守旧派」が天王山と位置付けてスクラムを組んだ。これを突破口に、子供たち本位でなく、教える方の都合本位の教育が否定されるのが嫌なのだ。
私は最近、『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス)という豊臣秀吉の伝記を執筆した。令和の日本の「改革」には、織田信長的な「破壊」でも、徳川家康的な「守成」でもなく、秀吉のような新しい世の中を設計し、断固実現する勇気こそ必要だと知ってもらうのが狙いだ。それは、西洋で言えばナポレオンが大成功を収め近世社会の骨格をつくったのだが、秀吉は二世紀も先にそれにほぼ成功している。
岸田首相は昨年10月の所信表明演説で、「早く行きたければ1人で進め。遠くまで行きたければ、みんなで進め」と語ったが、本人に遠くまで行く断固としたビジョンと意思がなければ、1人で行こうが、みんなで行こうが遠くまで行くことなど不可能なのである。
第2次岸田改造内閣の布陣は、テレビなどにほとんど出ずに、補佐役に徹して最大派閥・安倍派との調整も担う松野博一官房長官を中心に安定感がある。安倍派は、萩生田政調会長と西村経済産業省がとりあえずは、次の宰相候補といわれるが(萩生田氏が統一教会で躓いたので西村氏が頭ひとつ出る)、まとめ役としては松野氏が鍵を握る存在である。
高市早苗氏と河野太郎氏という、突破力がある政治家に経済安全保障とデジタルを担当させるなど、よく工夫されている。お手並み拝見が成果に繋がれば、岸田内閣にとっても次を狙う彼らにとってもいいことだ。
いずれにせよ、正しい姿勢を見えるだけでなく、目に見える成果を期待したい。