岸田首相と林外相はともに通産官僚の息子

保守派の人々から、岸田文雄首相や林芳正外相は「官僚の言いなり」とか、「中国や韓国に弱腰」などと批判されている。私は必ずしもそう思わないのだが、批判も分からないでもない。

この2人は、驚くほど似たタイプの政治家だ。今春、出版した拙著『家系図でわかる日本の上流階級 この国を動かす「名家」「名門」のすべて』(清談社)で、両家のことを系図付きで詳しく書いたので、それをもとにして、出自や経歴から彼らの思考回路を分析してみよう。

林外相 外務省HPより 岸田首相 首相官邸HPより

岸田家と林家はともに、地元名門経済人で政治家も兼ねてきた。岸田家は東広島市の富農だったが、曾祖父が台湾で成功し、祖父の正記氏は事業家としては、大連で百貨店を経営した。京都帝国大学を出て衆院議員も少しだが務めた。

林家は江戸時代から下関の豪商で、高祖父は下関を代表する近代的な経営者となり、代議士から貴族院議員となった。祖父の佳介氏は婿養子だが、東京帝国大学を出て衆院議員となり、ガス会社やバス会社を経営した。

そして、父である岸田文武氏と林義郎氏はいずれも通産官僚(現・経産官僚)から政治家になった。

二人とも紳士として人望が厚かった。文武氏は中小企業庁長官まで勤めてから出馬し、早死にしたので大臣にはなっていない。出馬には親戚の宮沢喜一氏を助ける意味合いもあった。

林義郎氏は課長クラスで政界に転じて、安倍晋太郎氏と同じ選挙区で苦労したが、当選回数を重ね、蔵相も経験している。

閨閥も第一級である。岸田首相の妹は宮澤喜一元首相の弟である宮沢弘元法相の夫人でその子が宮沢洋一元経産相。ノーベル賞をとったカナダ在住のサーロー女史も一族だ。

林外相の母親は宇部興産オーナー、俵田家の出身で、弟が木戸侯爵家(=木戸孝允の家)を嗣いでいる。叔母は広瀬道貞大分県知事の夫人。

岸田首相は小学生時代に米国にいて開成高校から早稲田大学政経学部卒。林外相は地元の高校から東京大学法学部から米国留学。それぞれ、銀行や民間企業で修業したのち父親の秘書となった。選挙地盤は安定しているので、厳しいどぶ板選挙の経験はない。

しかも、2人とも頭がいいので「政界のプリンス」として扱われ、聞き上手で自分の意見をあまり言わず、党内や各省庁とりまとめに重宝されてきた。だから、官僚の間での評判もすこぶるいい。

ただ、問題は、安倍晋三元首相などと違って、政治家として何をやりたいのか、いま一つ分からない。人々を惹きつけるような政策を掲げることもなく、難局突破のために先頭に立って戦うわけでもない。日本が安定した環境にあるならそれでいいのだが、そこがまったく物足りない。それが国葬問題でもおっかなびっくりの態度で問題をこじらせた。

岸田派で経産省出身の小鑓隆史参院議員は「2人とも機が熟したとみたら、果敢に決断し攻めていく人ですよ」という。原発政策の転換などヒットだと思うので、国政選挙のない「黄金の3年間」に、安倍氏の悲願である憲法改正を前進させるなど、大変革を実現してくれると期待したい。

安倍首相の憲法改正や皇位継承への思いと、それを成し遂げてくれることを期待して、岸田氏を育ててきた経緯は、「安倍さんはなぜリベラルに憎まれるのか」(ワニブックス)で詳しく書いたとことだ。

*本記事は夕刊フジ掲載のものに大幅に加筆した。