ドナルド・トランプ氏 76歳。2024年の大統領選出馬を虎視眈々と狙っています。一方、包囲網も厳しく、その行方を想像をするのは現時点では誰も不可能でしょう。唯一いえることはトランプ氏は窮地から何度も這い上がってきた男だけに現状の包囲網など何とも思っていないという点です。
不動産王、あるいは事業家として成功するも、倒産し、借金まみれになり、それでも復活させた粘りは一経営者として一目を置きます。しかし、自己満足へのどん欲なまでの固執は少なくとも私の理解を超えています。アメリカ人が彼をどう評価するのか、そしてそれでもトランプ氏が圧倒的人気を誇るのはなぜなのか、少し考えてみたいと思います。
トランプ氏を巡り、現在司法的に4つの包囲網が展開されています。1つ目が21年1月6日の議会占拠事件でトランプ氏がどこまで関与していたかという点、2つ目が一族企業の脱税疑惑です。既に「トランプ オーガニゼーション」の最高財務経理責任者のワイセルバーグ氏が起訴され、トランプ氏は証言を拒否するという事態となっています。3つ目が機密資料持ち出し疑惑で4つ目が20年11月のジョージア州の地方選挙の選挙結果転覆疑惑であります。
どれも調査が進んでいるため、この秋にも新展開が見られると思いますが、最終的にガーランド司法長官がどのような判断をするか次第です。仮に起訴となれば荒れることが予想され、国を二分するほどの大騒動になるかもしれません。既にガーランド司法長官には脅迫めいたこともあるとされ、身の危険が起きる状態にあります。
4つの疑惑のうち、脱税疑惑とジョージア州の地方選挙の件は注目度が低いと思います。脱税は仮にクロでもそれがトランプ人気を覆すものではなく、あくまでもトランプ氏自身の問題で帰着します。選挙結果転覆疑惑はそもそも転覆できなかったのですから判断が出てどうなるものではありません。一方、他の2つ、議会占拠事件と機密文書の持ち出し疑惑については司法的な重罪でもありますが、それ以上にアメリカ国民への影響も大きいものと察します。
議会占拠事件がクロと判断されればトランプ氏と共和党との関係に影響が鮮明に出るものと思われます。現在ある程度明らかになっている事実関係からはトランプ氏が議会選挙後も数時間放置したことが大統領としての資質を問うことになり、共和党はトランプ氏をそれでも支援すると言えるのか、であります。
また機密資料持ち出し疑惑については個人的には仮に事実であれば、極めて悪質で意図的行為であり、情状酌量の余地はないとみています。特にインテリジェンス関係の資料が重要で、これがリークするような事態になればアメリカの外交関係を根本から揺るがすスキャンダルになりかねず、絶対にあってはならぬことでした。これは国家レベルでの重罪で4つの中では一番重い罪だと考えています。
それでも共和党支持層の過半数を大きく上回る人々がトランプ支持に廻るのはなぜなのでしょうか?こういう言葉が適切がどうかわかりませんが、一種の宗教化ではないかと察しています。
アメリカはこの30年、すっかり不思議の国になりました。クリントンのモニカ・ルインスキー・スキャンダルあたりから私の知る良きアメリカから変わりました。ブッシュ(子)の不人気と911、オバマ氏の幻想ワールド、トランプ氏のあとはパンチのないバイデン政権という流れで古い世代と新しい世代の端境期にありアメリカ自身がどう変化するのか、試行錯誤を繰り返しているように見えるのです。
その中でトランプ氏は知名度と古き良きアメリカの理解者として懐古主義的保守層が「アメリカよ、もう一度。そのリーダーシップは強き者でなくてはいけない」と考えている節が見えるのです。一方、若い層はトランプ氏がアトランティックシティでカジノを持とうが、NYのプラザホテルの栄華がどんなものであったにせよ、そんなのは関係なく「GAFAMの時代に何を言うのか」という層との二極化なのかなという気もします。
もう一つは高学歴者や高所得者と普通の人との二極化でしょうか?特に物価高で暮らしにくくなった一般大衆にとって生活への不満は相当あるはずでこの地響きが聞こえるような盛り上がりがトランプ氏人気を支えているのだろうとみています。とすれば上記司法問題がどんな結果になろうとも当人は24年の選挙戦に出るし、共和党候補の一人として有力視されることは確実なのでしょう。しかも有罪者が大統領になれないという明確な法律はないのです。
では共和党はそれでも良いのか、という存在意義が当然出てきます。下手すれば二大政党のアメリカがついに崩れるきっかけにすらなりえるのです。(個人的にはアメリカの二大政党はもう、崩れるべきだと思っています。世の中の切り口はもはやそんなに単純なものではありません。)
私は二大政党というぐらいなら共和党にいくらでも大統領の資質をもった他の候補者はいるのだろうと考えています。フロリダのデサンティス氏はトランプ陣営にべったりですので、むしろリズ・チェイニー氏のリベンジがあるのか注目しています。
少なくとも秋の中間選挙に関して世論は変わってきています。共和党は勢いを欠き、このところガソリン価格の低下、学生ローンの支援などスマッシュヒットを飛ばしたバイデン政権の政策を受けて民主党が支持率を上回っています。つまりつい数カ月前に囁かれた上院下院共に共和党というシナリオは今はありません。
今、アメリカで起きていることはトランプ流という濃厚なエキスを薄めようとバイデン氏をはじめ、他のリーダー層が動きだしている点です。英語でいうdilution (希釈化)であり、アメリカに選択肢が生まれるかもしれません。共和党は支持者に選択肢をもう少し提供することが共和党に課された使命のように思えます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月8日の記事より転載させていただきました。