ハウステンボス売却:本体の財務的危機を脱出するため家宝を差し出す

日経のオピニオン欄に社会文化研究家の方が「日本はまたも失敗するかもしれないーハウステンボスはどうなっていく?」と寄稿されています。ん、と思い、内容を拝見させていただいたのですが、主論は日本の成果物がまた海外企業(この場合は香港企業)に売却されていくことに憤懣やるせないという気持ちがアリアリと出ており、それが「日本の失敗」というタイトルに繋がっているように感じました。

ハウステンボスを再生させた澤田秀雄HIS会長の立場から見るとどうなるのでしょうか?一経営者としてHISを育て、倒産したハウステンボスを再生させた手腕は私は素晴らしいの一言だと思います。ただ、コロナという予期せぬ事態で本業が詰まり、苦渋の選択でハウステンボスというお宝を売却することになったわけです。

ハウステンボスHPより

逆に言えばハウステンボスがなければHISの行方はもっと険しかったとも言えるわけで澤田会長の腕前で会社を救ったとも言えます。売却額は667億円、特別利益は647億円です。つまり、簿価20億円が12年で33倍以上に膨れ上がったのです。これは一般的な事業売却としてはそこら辺の投資会社の成績をはるかに凌駕しています。これを大成功と言わずしてなんと言いましょうか?但し、世間一般はそうはとりません。HIS本体が厳しいから売ったんでしょう、と。これが私はネガティブだと思うのです。

澤田会長が野武士であれば「経営者として良い金額で売却出来たし、次をまた仕込もうじゃないか」と思うでしょう。それでよいのです。

澤田 秀雄氏 株式会社エイチ・アイ・エス 代表取締役会長、 グループ最高経営責任者(CEO)HIS HPより

ソフトバンクGの孫氏が虎の子のアリババ株を着実に売却しています。今回の売却で持ち分は約9%ポイント下がり、14.6%となりますが、4.6兆円の売却益を出します。この構図はHISの澤田氏の判断と瓜二つであります。つまり、本体の赤字、財務的危機を脱出するために家宝を差し出すわけです。もっともソフトバンクGの持つアリババ株が家宝として今でも輝きがあったかどうかは別です。かつては確かにあったものの中国政府に頭を抑えられ、ジャックマー氏が経営から退いた今、ソフトバンクがアリババ株を持ち続ける理由もなくなったとも言えます。

ハウステンボスの話に戻すと香港企業に売却されたことで中国や東南アジアなど海外からの客の誘致を戦略的に取り込むことになるでしょう。ハウステンボスに行ったことがある方ならお分かりだと思いますが、正直、僻地にあります。よくもこんなところに作ったな、というのが飾らない感想です。福岡や長崎からはもちろん、長崎空港からも遠いのです。仮にここに海外からの観光客を誘致できるなら地元が潤うのみならず、派生的に福岡か長崎へ観光客が確実に流れるわけで地元経済にとってはさほど悪くない話なのではないかと思います。つまり、日本企業が売却というネガティブな部分だけをフォーカスするのではなく、どんな良いことが生まれるのかと期待する手もあると思うのです。

冒頭の記事、「日本はまた失敗するかもしれない」という考え方は私はしっくりきません。お前はいつもこのブログで日本批判をしているじゃないか、とご指摘はあると思います。私は批判というよりこうした方がよいと提言してきたつもりです。「また失敗」という表現はそもそも出来が悪い奴に「お前またやったな」といった具合で良いところが一つもないようなニュアンスがあるのです。

日本には良いところはたくさんあります。人はまじめだし、忠誠的だし、人を敬う心もあります。メディアは過激な日本人の姿を報じますが、普段の日本人は皆、穏やかです。給与は安いけれど一生懸命仕事をします。社会文化方面でも世界に誇る才能を持った人は数多く生まれています。企業の業績はそれなりに黒字を計上し、会社としての体を保っています。

ただ、いつも後手なのです。だから世界が注目しなくなったのです。創造力と発信力がちょっと足りないだけ。目立つと叩かれるから周りを見ながら注意深く、というのが大方のスタイルです。「仁義を切る」というのは日本独特で「虚を突く」と反則技のようにすら思われてしまいます。「横並び社会」ともいわれるこの運命共同体的体制が少しずつ変わってくればまた日本もよくなることでしょう。

経営の話に絞って言えば「失敗こそ成功へのエキスなり」なのです。澤田会長ないし、HISという組織がポストコロナをにらんでどのような社会が生まれるのか、その中で会社として将来性があり、うまみがあるものは何だろう、と次の策を練っていることでしょう。失敗しない経営者などいないのです。それは言わないか、認めないかのどちらかです。失敗してもそれが命取りにならなければ経営者としては本質的な失敗ではないのです。

どうすればよくなるのか、考えること、それと若い人の登用通じて新陳代謝をはかりながらチャレンジすればよいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月9日の記事より転載させていただきました。