エリザベス女王に於かれましては96歳までの70年間、終生の公務のお勤め、心よりお疲れさまでした。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。このニュースの第一報は私が朝、仕事をしている時にローカルメディアから次々とコンピューターの画面に速報が入り、事務所の大型TVはその後、ほぼ終日そのニュースを映し出していました。カナダに22回訪問され、英国王室と密接に繋がっており、カナダでも深い悲しみを共有しています。カナダも国家として喪に服すスケジュールを調整しているところです。私はこの突然の訃報で否が応でも連想してしまうことがあります。そちらは本文の方で。
では今週のつぶやきをお送りいたします。
覚醒した株式市場
ジャクソンホールでのパウエル議長の発言以降ぐずっていた株式市場が今週になり世界的に覚醒しました。特に日本では木曜日に634円も上昇、金曜日も150円ほど上昇し、チャート的には水曜日の27268円がボトムとなりました。北米市場も景気よく価格が飛んでおり、これに歩調を合わせたのか、ビットコインも大幅な上昇になっています。何が起きたのでしょうか?
ズバリ、腹が据わったのだとみています。水曜日にカナダ中銀は前回の1.00%の引き上げに次ぎ、0.75%の利上げを行いました。翌木曜日には欧州中央銀行が過去最高の上げ幅となる0.75%の利上げを行いました。これで心理的に2つのハードルをクリアしたとみています。1つは大幅な利上げは9月が最後になるだろう、もう1つはFRBが今月利上げをしても最大0.75%で、今後も小幅な利上げが続いたとしても市場との対話が中心となり、いわゆる「キャッチアップ利上げ」は終わったとみたのです。
では本当に物価は今後、鎮静化するのかですが、私はすると確信を持っています。何度も言うように今回の物価高は資源高、物流とサプライチェーンの混乱、人件費高騰の3つの要因にポストコロナによる消費行動のイレギュラーな動きの組み合わせだとみています。うち、資源と物流コストは大きく下がっています。サプライチェーンもコロナ規制からの脱却がだいぶ進みました。残りは人件費ですが、北米では人材のシャッフルが起きており、「しょうがなくて」ホスピタリティ産業に戻る人も出てきています。つまりコロナからの覚醒です。このシナリオを市場が読み込めば物価だけ見れば中期的にはプラスですが、9月を「苦月」という人もいるぐらい別の切り口の雷には引き続きご用心です。
国葬議論、第二幕
このタイミングでエリザベス女王がお亡くなりになり、安倍氏の国葬の影が急に薄くなっています。日本でここまで議論が起きるのは何故なのか、もう一度考えてみたのですが、国葬にふさわしく国民一般が喪に服せる気持ちになるのかが疑義なのでしょう。たまたま今週号の日経ビジネスの特集が「稲盛和夫氏」なのですが、そこに氏が説いた「六つの精進」が記されています。これを安倍氏に当てはめると個人的には半分ぐらいしかYESと言えない気がするのです。そのポイントは「徳」があるのかどうかなのだと思います。
どれだけ成功した政治家や実業家でも人心がなく慢心で自己満足の追求ならば人々を満足させるのは難しいでしょう。国葬に関する海外の考え方は一様ではありません。アメリカは大統領経験者は国葬の対象のようですが、英国ではサッチャー氏ですら準国葬でした。また国葬は必ずしも国家の長の経験者や王室関係者ばかりではありません。台湾ではテレサ テン氏、ブラジルではアイルトン セナ氏、ジャマイカではレゲエ歌手のボブ マレー氏、インドではマザー テレサ氏など国民/市民から広く愛された人も対象になっています。
あと2つ気になっていることがあります。1つは国葬なら天皇陛下が参列されてもおかしくないのですが、陛下はエリザベス女王の国葬にはお出になる方針と伝えられ、我が国の国葬には出席の意向は不明です。もう1つは外国からの国葬参列予定者に大物が揃わないことがあります。G7ではカナダのトルドー首相のみというのは何なのでしょうか?国葬は壮大なる外交舞台でもあるのですが、岸田首相の足元を見透かされているとすれば国葬を一大イベントとしてぶち上げた割に寂しい結果となりやしないでしょうか?コーディネートはやっぱり天下の電通さまにお願いした方が良かったかも、と英国風の皮肉で締めさせて頂きます。
みんなでクルマをつくっていない日野自動車
日野自動車、トラックやバスでは大手の一角で50.1%の株式をトヨタ自動車が所有します。その日野が耐久性能と燃費測定に不正があったと公表したのが3月。その時、株価は4割ほど暴落しましたが、さほど話題にもならなかったのはトヨタグループという後ろ盾と現社長の小木曽氏がトヨタ自動車出身で3代目プリウスのチーフエンジニア経験者として活躍された方だけにどうにか対応するだろうという甘い期待がありました。が、8月に公表された特別調査書には新たに国交省への虚偽説明となる「2016年問題」が指摘され、現在国内生産の6割が停止状態です。
これに怒り心頭なのが豊田社長で8月24日に商用車の共同開発をトヨタ、いすゞ、日野で進めるCJPTについて日野を除名処分とし、日野は10%程度の出資分をトヨタ自動車に返納(譲渡)する事態になっています。なぜこうなったのか、トヨタの自主性を尊重する放任主義があだになったともいわれますが、私には強すぎる結束力故に離脱できない焦りが軋轢を生んだのではないかと感じています。以前、三菱グループでの不祥事が相次いだ際も、同グループの最高決定機関「金曜会」の存在とそのプライドが邪魔をした気がするのです。日野もトヨタグループ16社の一角であり、トヨタから経営幹部を送り込まれていた事実があります。
日本の製造業では大きな不祥事が毎年のように起こります。それが日本の特徴的欠点であるとすれば拝むことも出来ない巨大企業のトップ経営陣と従業員の温度差であります。日野の調査報告書には最大の問題の一つとして「みんなでクルマをつくっていないこと」とあります。この意味は組織が縦割りでセクショナリズムということなのですが、子供でも「どういうこと?」と疑問符をつけるこの平易な言い回しこそ、日本の製造業全体が抱える真の意味での頭痛の種ではないでしょうか?
後記
外国人が戻ってきたことを肌身で感じています。日本のシェアハウスや外国人向けサービスアパートメント事業への問い合わせが急増、もう少しで満室です。この2週間で決まった分だけでもアメリカ、イタリア、アルゼンチン、その少し前にはウズベキスタンの方と世界中から人が再び集まってきています。また、外国人が創業し経営して外国人を採用する日本の会社が増えている点にも注目しています。明らかに非伝統的スタイルで日本市場に入ってきているプロの外国人経営者が増えていることは要注目です。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月10日の記事より転載させていただきました。