高齢者の新型コロナワクチン接種後の死亡補償金は適切なのか

新型コロナワクチン接種は国民の約8割に達し、累計では3億回近くなった。一方で2022年9月2日までに厚生労働省には有害事象として死亡例が1815名報告され、いわゆるワクチン被害救済制度(正しくは予防接種健康被害救済制度)による新型コロナワクチンでは初の4000万円強の一時金給付が相次いで認定された。しかし本当に適切な給付と言えるのか。ワクチン被害救済制度の趣旨から逸脱してはいないか。一考を促したい。

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筆者は前稿「新型コロナ・ヒステリーをもう止めよう」の執筆中の調査で、7月25日付け読売新聞記事にふと目が留まった。「コロナワクチン接種後に死亡、初の一時金支給」しかし「急性心筋梗塞の91歳女性」とサブタイトルがある。9月9日には時事通信/Yahoo!でも91歳と72歳の高齢者に一時金支給との記事が出た。

一例目については、91歳女性は接種後に急性アレルギー反応と急性心筋梗塞で死亡したという。また元々脳虚血発作や高血圧、心肥大があったという。つまり、高血圧による脳卒中や心不全の既往があったということになる。

二例目の91歳男性は間質性肺炎、72歳男性は血小板減少性紫斑病さらに脳出血により死亡したが、基礎疾患は無かったと報道されている。

彼らが自立して元気だったのか、要介護状態だったのか寝たきりだったのか等は不明であるが、内閣府によれば90代以上では要介護者率は男67.0%女83.0%、ほとんどが要介護状態であるのが事実である。

ワクチン接種は本当に死を招いたのか

因果関係とは行為と結果の関係性が証明できること、この場合は新型コロナワクチンを接種したからこのような理由で死亡した、と証明できることである。

医学研究等では治療や検査など「介入」に対して、期待しない・不都合な事象が発生することを「有害事象」と呼ぶ。ただし、有害事象は因果関係を「意味しない」。

たとえば、ワクチンを接種した後にふざけていたら道路に飛び出し車にはねられて死亡した、これも有害事象とする。自殺でも通り魔に刺殺されても発砲事件に巻き込まれても同様である。海外では落雷死の例もある。

因果関係が医学的に証明あるいは説明可能な場合、薬の有害事象を副作用、ワクチンの有害事象を副反応と呼ぶ。

上記のように有害事象として死亡が発生しても、それが直ちに「ワクチンのせい」とは言えない。因果関係を言うには、ワクチンを接種したことによる身体の反応がどのように起こり得るか、知られている医学的メカニズムで説明可能でなければならない。

救済制度は厳密な因果関係の証明を要求していないため、「否定はできない」と認定した分科会はコメントしているようである。

医療現場で一般的に、花粉や食物でアレルギーを起こしたら心筋梗塞も起こした、などという話は聞かない。健康な人が突然、間質性肺炎を起こしたり脳出血を起こすことも考えにくい。筆者の職域検診の経験や医薬基盤・健康・栄養研究所の報告でも、高血圧でも自覚なく受診していない人は多い。

なので「高齢者だから老化や受診していなくても不具合はあっただろうが、ワクチン接種が全く関係なかったとまでは断言し辛い」程度の意味合いであろうか。ワクチンが死亡と全く無関係と証明することは、状況によっては悪魔の証明にほぼ等しいからである。

補償金の算定根拠は何か

一時金等の金額については予防接種法施行令で定められているものの、算定根拠は不明である。しかし民間生命保険や自動車保険等の死亡保険金等に近い金額であることから、それらに準じた算定が法制定時にされたものと推測できる。

問題は、民法による賠償請求の場合と比してどうかである。すなわち過失等で誰かを死なせた場合の賠償金額は、遺失利益つまり死んだ者が生きていたら本来得たはずの収入から算定される。

それでは91歳で多数の持病を持ち、おそらくは要介護である人の遺失利益はどうなるのであろうか?

この場合、ほとんどの場合労働はしていないと考えられるので、年金収入があればそれを基に算定されることになる。そう考えると、既に男女の平均寿命を超えているから、遺失利益はゼロかごく低い金額になると予測される。

多額の一時金は誰のためなのか正当なのか

ワクチン接種に関連する死亡と認定された場合の一時金は前述のように予防接種法で規定されており、最大4420万円である(他に葬祭費21万円等)。これを生計を共にしていた親族等に頭割りし支給される。

しかし遺失利益が無いか少額かに関わらず、はるかに多額の一時金を被害者本人ではなく(死亡しているから必然とはいえ)遺族に支給することは、誰のためになり、合理的で正当と言えるのだろうか。

そもそもワクチン被害救済制度は誰のための制度か。我が国は戦後多くのVPD(ワクチンで予防可能な感染症)予防ワクチンを開発し、子供たちを病苦から守ろうとしてきた。しかしどんな薬も一定確率で有害事象が発生する。おたふく風邪(MMR)ワクチン接種による無菌性髄膜炎とその後遺症など、ワクチン禍として集団訴訟が起き社会問題化した。救済制度は子供たちが病苦から逃れるはずが、逆に障害を負ってしまったり死亡してしまった場合のための補償なのである。未来を奪われた子供たちやその親への補償は、当然合理的である。

では平均寿命に迫りまたは超えた高齢者への、算定根拠の定かではない高額な補償は、合理的なのだろうか? 補償しても死亡した本人のためにはならない。昨今は引きこもり8050問題などと、親の年金を頼り生活する中高年の存在も知られているから、90代の親の年金に依存している60代70代の家族が居ることもあり得るが、「彼ら自身が命や自己に帰する理由による収入、利益を失ったわけではない」。つまり遺族のタナボタにしかならない。それで良いのだろうか? 補償金の原資は血税である。合理的で正当とは考えにくいのではないか。

近年の医療訴訟や介護事故訴訟では、算定根拠が疑問な高額訴訟判決が目立つ。しかも「過失は無いが賠償せよ」というヤクザもまっ青な判決すらある。高額な老人医療費、介護費と医療介護資源を盲目的延命をして貪り、何かあって死ねば居丈高に責め立ててさらに金をとる。そんなことが横行するような世の中になってしまって、良いのだろうか。

予防接種健康被害救済制度の高齢者へのワクチン接種後死亡の一時金については、本人の利益が無いことを踏まえ、血税の有効活用と制度本来の趣旨を踏まえて、まず立法事実から再考すべきと考える。

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