30年も掛けて装甲車や小銃を調達する軍隊が有事に備えられるのか

防衛省の来年度概算要求ですが有事に備えて、稼働率の向上とか、弾薬の備蓄とかいう文言が並んでいます。これをまともにやるのから賛成ですが、これまでの経緯からみると単にやってますアピールで終わるのでは無いでしょうか。

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有事に戦える能力というわりには、軍事に不向きな電波の割当をどうするのか。無人機にしても外国で使えるものが日本では使えない。そういう現実を無視して、無人機を増やそうとしています。つまりは今まで通り、正面装備は置物、ということです。

これは内局官僚が無能だからです。

防衛庁時代は内閣の外局で自衛隊の管理だけが仕事でしたが、今は防衛省であり、積極的に政策に関わるべき立場にあります。ところが小泉内閣以後は自衛隊を縛る法整備を怠っています。イージス艦が停泊地にいる場合、レーダーを使って迎撃できません。腕を組んで見ているしか無い。

ネットワークの根幹である電波の割当の問題は法整備というより総務省との話し合いですが、それをしない、あるいはできる能力がない。ですから各幕僚監部は「置物」を買うしかない。

そして装甲車や小火器は30年も調達にかかる。それでも計画があればまだましですが、事実上計画がない。毎度申し上げておりますが、普通の国では何が、いくつ、いつまでに必要(すなわち戦力化)で、予算はいくらかを議会にはかって予算化されますが、それができない。

これに政治も、防衛省も疑問を抱かない。

他国では5〜7年程度で調達する装備を30年掛けて漫然と調達する。他国ではできるだけ早期の装備化を目指します。無論国内であれば生産ラインやメーカーの仕事が途切れないように配慮する必要がありますが、それでもできるだけ早くします。そうしないと戦争が起こった場合、大変だし、調達途中で陳腐化が始まるし、調達コストも跳ね上がるからです。

例えば20式小銃を調達開始後5年で戦争になったとしましょう。その状態では多数派の部隊では89式を使っています。前線では89式と20式の混合となります。そして89式は生産が終わっていますから追加できるのは20式だけです。多くの部隊では旧式の89式を使う必要があり、装備を失えば支給されるのは20式です。

そして我が国の生産ラインはリーンですから、戦時に何倍も生産を増やせるわけではない。これが装甲車になるともっと大変です。新旧でまったく操作も整備も違う別物となります。

新型が少ないために部隊では旧式装甲車で戦わざるを得ない。これだけでも大変に不利です。火器のタイプや口径も違うでしょう。戦時にクルーが車種転換の訓練を受けている暇があるでしょうか。

そして30年も調達にかなるならば、生産途中で旧式化しています。自衛隊ではほとんど近代化をしませんから、価値が下がった旧型になった装備を、大金をかけて調達しています。仮に他国の3倍の値段の装備が、バリューを考えた場合、5倍10倍のお値段になるわけです。5年前のPCが今いくらでうれますか? みたいない話です。

であれば零細規模のメーカーを統合して、国内の生産ラインを減らして調達年数を減らす必要があるが大臣がそれを明言できない。

つまり事業の統廃合は予算の前提にはなっていない、ということです。次期装輪装甲車も予算要求されていますが、これも途中で旧式化することになるでしょう。

そして戦時を想定するならば兵器を国産化するのでなく、国際共同開発、輸入を軸にすべきでしょう。

高度化して値段も高くなった装備、弾薬を目一杯買えるわけも、保管できるわけもない。保管中に陳腐化します。むしろ、平時から他国と、例えば米軍、英・仏・豪軍あたりと戦時の融通の取り決めをしておくべきです。

それとオーストラリアあたりに訓練基地と弾薬庫を作るべきです。米国と違って時差がない。訓練装備は部隊用途別に調達し、戦時の予備とする。弾薬庫にしても国内に作るよりも遥かに安価に建設維持ができるでしょう。

ところが概算要求をよみ、質問した限りは大金を使ってクズを延々と調達している現状を変えるつもりはないです。これは自衛隊というよりも防衛省、すなわち内局の問題でしょう。調達の大本のシステムを作り変えるのは彼らしかできず、それを放置してきたわけです。これは自民党の国防部会や防衛記者会も同罪です。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

軍拡路線追認する新聞に問う その1 | "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

【本日の市ヶ谷の噂】
防衛省、自衛隊の衛生関連の会議では本「本日の市ヶ谷の噂」の暴露を恐れて、会議資料、人事資料等を全て会議終了後回収している、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。