世界の目が中央アジアに注がれる時:中露首脳が連携工作をする可能性

「外交の世界」では偶然ということは余りないが、皆無ではない。たまたま、国際会議での休憩時間に会話を交わしたことが契機となって、難問の外交テーマの解決に糸口が見つかる、ということがあっても可笑しくはない。プロトコールに基づいた会談より、ティータイムの時の会話のほうが内容のある充実した話し合いができる、ということだってあるはずだ。

さて、本題に入る。

カザフスタンのトカエフ大統領と会談するフランシスコ教皇(2022年9月13日、カザフスタン大統領府公式サイトから)

カザフスタンのトカエフ大統領と会談するフランシスコ教皇(2022年9月13日、カザフスタン大統領府公式サイトから)

①ローマ・カトリック教会の最高指導者フランシスコ教皇は13日から15日の間、中央アジアのカザフスタンを訪問、カザフの首都ヌルスルタンで開催される第7回世界宗教指導者会議に参加中だ。同会議は2003年以来、ほぼ3年ごとにカザフスタンで開催されてきた。バチカンニュースによると、世界50カ国余りの国々からさまざまな宗教の指導者が集まる「第7回指導者会議」では、「人間存在の揺るぎない原則としての平和、調和、寛容の再確認」と、「紛争や敵意をエスカレートさせるために人々の宗教的感情を利用する問題について」などを討論する。

バチカンが公表したカザフ訪問の日程によると、教皇は首都ヌルスルタンにずっと滞在する。この大都市は、2019年3月までアスタナと呼ばれていた。イシム川のほとりに位置し、さまざまな国籍、多くの宗教が存在する。

②中国外務省は12日、習近平国家主席が14~16日に隣国カザフスタンとウズベキスタンの中央アジア2カ国を公式訪問すると発表した。15、16の両日にウズベクのサマルカンドで開かれる上海協力機構(SCO)首脳会議に出席する。習氏は新型コロナウイルスの感染拡大以降は国外へ出ておらず、2020年1月のミャンマー訪問以来2年8カ月ぶりの外遊だ。

③ロシア大統領府は13日、プーチン大統領と中国の習近平国家主席との首脳会談が15日、ウズベキスタンで開かれると発表した。ロシア大統領府によると、プーチン大統領と習近平主席との首脳会談が対面で会合するのはウクライナ戦争勃発後初めて。両首脳は上海協力機構の首脳会談に合わせて会談する。

①、②、③の外交日程で共通する点は、フランシスコ教皇、習近平主席、そしてプーチン大統領の3トップが「中央アジア」で開かれる会合に参加することだ。この期間、世界の耳目は「中央アジア」(カザフとウズベク)に注がれることになる。

フランシスコ教皇の日程は13日から15日、習近平主席は14日から16日、そしてウクライナと戦争中で忙しいプーチン大統領は15日の1日だけだ。3首脳で重なる日程は「15日」だが、会談する場所はカザフとウズベクで異なるため、3首脳が会議の休憩時間に偶然にかち合うことは物理的に考えられない。

興味深い点は、3首脳間には会って話し合うべき重要なテーマがあることだ。フランシスコ教皇と習近平主席との間では2018年に締結した司教任命権に関する「暫定合意」の再延長問題がある。バチカンと中国は外交関係を樹立していない。教皇とプーチン大統領の間ではウクライナ戦争の解決問題がある。ちなみに、世界宗教指導者会合でフランシスコ教皇はロシア正教会最高指導者でプーチン大統領の精神的支持者、キリル1世と会合するのではないかと憶測されたが、キリル1世は先月、カザフの宗教者会議に参加しない旨を明らかにしている。

そして習近平主席とプーチン大統領の中露首脳会談では、経済問題から軍事問題まで話し合うべき問題が山積している。ロシア軍がウクライナ戦争で後退を余儀なくされてきたという情報がある時だけに、プーチン大統領は習近平氏に経済的、軍事的支援を要請するのではないか、と予想される。

一方、習近平主席は10月に開催される共産党大会で3選を目指すだけに、この期間は非常に重要だ。プーチン氏と台湾問題について連帯を模索する可能性も排除できない。中国とロシアにとって最大の敵、米国がさまざまな制裁を実施して圧力をかけてきているだけに、両首脳が結束して連携工作をするシナリオも十分考えられる。

世界に13億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会の最高指導者ローマ教皇、約14億人の人口を誇る大国・中国の国家主席、そして米国に並ぶ核大国・ロシアの大統領、その3首脳が一つのテーブルで会談するという場面はあり得ないが、3首脳が中央アジアを訪問し、世界の情勢について話し合うということは非常に珍しいだけに、その成り行きが注目される。フランシスコ教皇は「カザフは対話のシルクロードだ」と表現している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。