民間人を標的にするロシア軍の"業":残虐行為はウクライナ以前から

ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、「ロシア軍は軍事施設ではないのを知りながら攻撃している。明らかに民間人を標的にしているのだ」と強調し、ロシア軍が戦争犯罪を繰り返していると述べた。

上海協力機構(SCO)首脳会議に参加したプーチン大統領(クレムリン公式サイトから、2022年9月16日)

兵隊と民間人の区別なく砲撃するロシア軍の無差別攻撃はよく知られている。ウクライナ南東部の湾岸都市マリウポリ市の廃墟化、首都キーウ近郊のブジャの虐殺が報じられると、欧米諸国はショックを受けた。ゼレンスキー大統領は今回のウクライナ東部ハルキウ州イジュムでの虐殺を挙げて、怒りを抑えきれないといった表情で、「戦争犯罪だ」と激しく批判したわけだ。

16日のウクライナ側の発表によると、イジュムでは少なくとも440体の遺体が見つかっている。ほとんどが軍服などを着ていない民間人だったという。遺体の中には拘束中、虐待された痕跡があったという。ロシア軍の撤退後、救済された1人の中年の男性は、「自分は拘束され、尋問を受け、『嘘を言っている』として電気ショックを何度もやられた」と証言していた。国際人権高等弁務官事務所は調査団をイジュムに派遣するという。

ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻して以来、軍事施設だけではなく、民間施設を砲撃してきた。例えば、6月27日、ウクライナ中部ポルタワ州クレメンチュグの大型商業施設がロシア軍のミサイル攻撃で大破して炎上した。現地メディアによると、少なくとも20人が死亡し、40人以上が行方不明になった。ウクライナ国民の国防への士気を崩し、長期化する戦争で国民に怒りと不満を与える狙いだ。そのために民間人が集まるショッピングモールを空爆したのだ。狙いは可能な限り多くの民間人を殺害することにあったはずだ。ゼレンスキー大統領は当時、「ロシア軍の計算されたテロ行為だ」と激怒している。

ウクライナ戦争が勃発して以来、ロシア軍のマリウポリ市への執拗な攻撃は国際社会に大きな衝撃を投じた。米民間人工衛星が撮影したマリウポリ市の写真を見ると、市内はほぼ壊滅状況だ。ロシア軍は3月16日、1000人以上の市民が避難していた劇場を空爆した。同市当局は後日、「300人以上が亡くなった」と発表した。

ロシア軍の侵攻前は約43万人の都市だったが、ロシア軍は住居から病院まで全て破壊した。水道、電気は不通。同市民の一部はロシアに強制拉致されている。マリウポリ市は文字通り、地図上から消滅したような状況だ。

軍事関連施設と病院、学校など民間公共施設の区別なく、兵士と民間人の区別もなく無差別攻撃を繰り返すロシア軍にとって、歴史的、文化的遺産と高層アパートメントの区別を要求しても無駄だろう。パリに本部を置くユネスコ(国連教育科学文化機関)が6月23日発表したところによると、「戦争が始まって以来、ウクライナで152カ所の文化的遺跡が部分的または完全に破壊された」という。その数は急増している。

グテレス国連事務総長は4月28日、ロシア軍の攻撃を受けて廃墟化した首都キーウ近郊のボロディアンカとブチャ、イルピンを訪問し、「21世紀にあって戦争は絶対に受け入れられない」と強調したが、その戦争は今なお続いているのだ、そして今回、イジュムの住民がロシア軍によって大量虐殺されたことが明らかになった。イジュムが最後ではないだろう。第2のマリウポリ、第2のブチャ、第2のイジュムが出てくることは残念ながら間違いない状況だ。

敬虔なロシア正教徒と言われるプーチン氏は今年4月の復活祭にキリル1世宛てのイースター祝賀書簡の中で、「キリスト教の最大の祝日は、正教徒を含むすべての国民を結束させ、偉大で道徳的な理想と価値観へのキリストの復活を祝います。キリストの復活は人々の最も明るい感情を呼び起こし、人生の勝利、善と正義への信念を目覚めさせます」と述べている。

民間人を大量に殺害するロシア軍の最高司令官プーチン氏はこの祝賀メッセージを何の矛盾も葛藤も感じることなく語れるのだ。欧米側はそのような人物と戦っていることを一瞬たりとも忘れてはならない。残念ながら、ロシアとの戦いはどのような結果になろうと多くの犠牲者が出るのは避けられない。

付け加えると、ロシア軍の残虐な戦闘行為はウクライナ戦争が初めてではない。ロシア軍は中東のシリア内戦では開発した新しい武器の実験場としてあらゆる武器を戦闘に投入した。7年間続いたシリア内戦で廃墟化したアレッポの悲劇はその後のマリウポリ市に引き継がれていったわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。