3年ぶりの国連において岸田首相が一般討論演説を行いました。正直、誰の印象にも残らず、しゃべったという記録だけが残る演説内容です。これはスピーチライターがよくないと思います。岸田氏の性格を上塗りしたような表面さらいの浅い話をいくつか展開し、何が言いたいかよくわからないそんな内容でした。
ただ、その中で「国連憲章の理念と原則に立ち戻るための安全保障理事会を含む国連の改革、そして、軍縮・不拡散も含めた国連自身の機能強化」を訴えています。これは他のスピーカーも同様の主張をしており、国連改革の機運が出てくるとみています。
なぜ、国連はダメだと言われているのか、その最大のイシューは常任理事国の拒否権であります。世界が二分している中にあり、ロシアと中国が重要な案件で違う判断をすることが多く、国連としての決議や行動が出来ない訳です。ゼレンスキー大統領も今回、拒否権の見直しを強く主張していますし、バイデン大統領は理事国の増加を主張しています。私は増やすより拒否権の乱用を制限する仕組みづくりが重要だと考えています。
そのことはアメリカの大統領が一番わかっていることです。議会決議を大統領令で覆すという権力顕示が頻繁に起きている中で誰が何を決める権利を有するのか、本当の民主主義とは何か、一権力者が多くの民意を覆すことはどこまで許されるのか、アメリカ自身が答えを出すべきでしょう。私から見ればアメリカは理想的な民主主義とはかけ離れ、権威主義的要素もあり、強権的な動きは普通に起きていると考えています。
さて、ロシアは誰と戦っているのか、と考えると私にはウクライナへの侵攻はトリガー(引き金)であって実際には冷戦時代の米ソの対立軸の関係を本質的には背負ったものではないかと考えています。つまり、ウクライナを利用した西側諸国への挑戦とも見えなくはありません。
プーチン大統領は先般のウズベキスタンとカザフスタンでの会議、及び習近平氏とインドのモディ氏との会談で孤独感を強く味わう結果となりました。中国はロシアとは経済問題以外は深入りせず、モディ氏は「今は戦争の時ではない」と直接苦言を呈しています。これを受けてプーチン氏はより頑なになり、東部ウクライナの支配を絶対的なものにするために現地の住民投票、及び予備役兵30万人の投入を矢継ぎ早に決めました。また、「目には目を」ならぬ「核には核を」ととれる記者会見を行い独善的な姿勢がより強まったように見えます。
住民投票については西側諸国から厳しい糾弾が続いていますが、それは既に結果がどうなるか明白ともいえ、プーチン氏の意図する形になりそうです。プーチン氏ほど支配下における選挙のコントロールに長けた人はいません。それにウクライナ東部は「新ロシア」と呼ばれるほどロシア人や親ロシア派が多く、逆に親ウクライナ派は西部に撤退している人も多いはずです。一方、プーチン氏は親ロシア派でロシアに逃げた人にはロシア国内で投票させる仕組みを取り入れています。
予備役兵30万人の投入は長く伸びるウクライナ戦線においてロシアの引く新たな境界線を守らせるのが主務だとみています。攻撃というより防衛ライン確保ではないでしょうか?仮にそこで一進一退の攻防になればどこかで休戦協定となるかもしれませんが、東部ウクライナはロシアの意図したとおり、実効支配と相成る気がします。
この支配手段は「住民を盾に取る」のではなく、「住民が盾になる」点で西側諸国もやりにくいと思います。このやり方が仮にまかり通るなら世の中の国境はあちらこちらで崩れてしまうことが起こり得ます。例えば竹島や北方領土には韓国人やロシア人が常駐/居住しているので日本は手を出しようがない状態にあります。仮に尖閣に中国人が上陸し住んでしまえば中国は自国民保護を理由に好き勝手し放題が出来ます。その点では沖縄県は島が多いこともあり、要注意で中国にしてみればその気になればいつでもできるぐらいの感じだろうと思います。
暴走列車プーチン号を止められるのは誰でしょうか?私は習近平氏に期待をしましたが、共産党大会を控えた今、沈黙状態です。モディ氏は持ちつ持たれつの関係を維持するために強くは出ません。西側諸国の国家元首の話は聞く耳を持ちません。一番効果があるのは国内の反乱です。今回の徴兵でロシアからの脱出を図る人が続出していると報じられていますが、今時分、「赤紙」はいくら兵役義務をこなした人でも現実的ではありません。アメリカがベトナム戦争の時、国内から厳しい反戦運動が起きました。そのような内部から動き、そして軍部すら取り締まりできないような国民機運がプーチン列車を止められる唯一の方法かもしれません。
プーチン氏が仮に核のボタンに手をかければそれは国内世論がプーチン氏を取り囲むしかありません。この争いはあと2-3年続くという論評もありますが、プーチン氏のメンタルがそこまで持つのか、私には想像できません。
では今日はこのぐらいで。。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月23日の記事より転載させていただきました。