10年遅れで「イランの春」到来するか:アミニ事件への抗議が高まる

22歳のイラン女性マーサー・アミニさんがテヘランで、イスラム教の服装規則を遵守せずヘジャブ(ヘッドスカーフ)を正しく着用していなかったという理由で宗教警察に逮捕され、警察署内で尋問中、死去した事件はイラン全土で激しい抗議デモを呼び起こしている。

▲テヘランで開催されたイラン軍パレード(2022年9月22日、IRNA通信)

アミニ事件とは

アミニ事件の経緯を簡単にまとめる。

テヘランのホセイン・ラヒミ警察署長は19日、「彼女は非イスラム的行動で宗教警察に逮捕され、警察署に連行された。警察官は彼女に何も暴力を振るっていない。拷問したという情報は根拠がない」と反論。警察側の説明によると、クルド系女性のアミニさんは警察署で急性心臓病を発病し、昏睡状態に陥り、運ばれた病院で16日、死亡が確認されたという。

一方、クルド系のRudawメディア・ネットワークは、「彼女はヘッドスカーフが原因で警察官に殴打された。彼女の父親は娘の体に拷問の痕跡があったと主張している。彼女が以前に病気を患っていたという情報についても、父親は『娘は完全に健康だった』と述べた」と報じた。また、彼女の治療にあたったクリニック関係者は、「彼女は13日に入院した時に既に脳死状態だった」と証言したという。

アミニさんの死亡が報じられると、テヘランでは若い世代を中心に政府への批判の声が高まった。ファールス通信社によると、数百人のデモ参加者が19日夜、テヘランのケシャワール中心部の大通りで抗議した。警察は時折、群衆に対して放水銃や警棒を使用した。デモ参加者は、ゴミ箱に火をつけたり、石を投げた。イラン西部のクルディスタン州でも多くの人々が街頭に繰り出したという。メディア報道によると、治安部隊とデモ参加者の間で衝突があった。未確認情報だが、同州の主要都市ディワンダレ市では発砲があったという。

イランの国営メディアによると、イランの約15の都市で抗議活動が行われたというが、人権活動家は 「実際は30以上の都市で抗議デモが広がっている。オンラインに投稿されたビデオには、抗議者たちがヘッドスカーフを脱いで燃やしたり、歓声を上げる群衆の前で髪を切ったりしている様子が映っている。イスファハンでは、抗議者たちがイランの精神的指導者であるアヤトラ・アリ・ハメネイの写真が描かれた横断幕を引き裂いた」というのだ。

イランの国営テレビは、16日に抗議行動が勃発して以来、17人が死亡したと報じた。それに対し、オスロに本拠を置くイラン人権団体 (IHR)は22日、宗教警察に逮捕されたアミニさんの死亡以来、少なくとも31人の民間人が抗議デモ中に死亡したという。イラン当局はさらにインターネットへのアクセスを制限し、オンラインネットワークのWhatsAppとInstagramをブロックしている。

服装規定だけではない女性差別

問題は、1979年のイスラム革命以降施行されている服装規定だけでなく、女性に対する差別全般だ。多くの若い女性たちは、「数本の髪の毛」のために死ななければならなかったことに憤慨し、「私たちはジェンダー・アパルトへイト体制にうんざりしている」と怒りを吐き出している。

国連総会に出席するためにニューヨーク入りしたイランのライシ大統領は22日、アミニさんの死についてのジャーナリストの質問に答え、「公式の検死結果は出ているが、内務省に経験豊富な警察官と法医学の専門家からなる特別チームがその結果を調査する」と説明している。それに先立ち、同大統領は18日、アミニさんの家族に自ら電話をかけ、「問題が明らかになるまで調査を続ける」と約束したという。

なお、CNNのジャーナリスト、クリスティアン・アマンプール女史はツイッターで、イラン大統領の顧問が21日、ニューヨークでライシ大統領とのインタビューの際はヘッドスカーフを着用するように頼んできたが、その要請を拒否したことを明らかにした。イラン系英国人の同ジャーナリストは、「イラン国外のインタビューでイランの国家元首が女性記者にそれを要求したことは一度もない」と説明した。その結果、長い間準備していたインタビューはキャンセルされたという。

イランの春は到来するか

2011年初頭から中東・北アフリカ諸国で民主化を求める運動が広がり、チュニジア、エジプト、リビアでは政権交代が行われた。その民主化運動はメディアでは「アラブの春」と呼ばれた。一方、イランではイスラム教聖職者支配体制が今日まで続いてきた。

アミニ事件はイラン国民、特に女性たちを立ち上がらせ、ムッラー政権の崩壊、イランの民主化運動を引き起こすかもしれない、といった期待の声が西側では聞かれ出した。“アラブの春”より約10年遅れだが、“ペルシャの春”は到来するだろうか。

 


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。