自営業と雇われは何が違うのだろう:現場の第一線で働きつづける理由

テレビニュースで時々お見掛けするスーパーマーケット「アキダイ」の秋葉弘道社長。何気で見ていると何も感じないかもしれませんが、秋葉さんの会社は従業員約150名で事業所が8か所ぐらいありしっかりビジネスをされている方です。しかし、いつもテレビに出る時は前掛けして現場にいるシーンです。

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それだけのスタッフがいるのになぜ、現場の第一線で働いているのか不思議に思う方はいらっしゃるでしょうか?自営業者にとって現場は生命線です。なので好きとか嫌いというレベルではなく、絶対に守る、その為に現場で今何が起きているのか、顧客がどのように野菜を手にするのか、客が価格や品質とどうにらめっこしているのか、更には客との軽いやり取りを通じて数字では見えない顧客行動をさりげなくインプットしているのだと思います。

最近、AIとダイナミックプライシングが普及しているので顧客がいくら払ったかスタッフは分かりにくくなっています。例えばホテルの部屋一つにしてもこのシステムを取り入れていればある人は一泊5000円でも別の人は同じ部屋なのに1万円払っています。が、2倍払っても顧客サービスは同じ。その時、2倍払った客は内心、「俺、こんなに払っているのに」と思うはずですが、サービスを提供する側はそこに気がつくことはありません。これは最新のシステムが生み出した一種のバグでもあります。

同様なのは国際線の航空料金。これほど魑魅魍魎な世界はありません。ほぼすべての人が違う料金という気すらします。しかも多くの航空会社はエリアや国ごとに価格設定があるので例えば北米からアジア線ならば日本に行こうがインドまで飛ぼう似たような料金になります。北米から日本はインドまでの半分の距離だから半額じゃないか、という理論はありません。航空会社の支店長が日本人客を大事にするのは飛行距離当たりの客単価が良いからです。これは業界ではわかっている事実で、航空会社が単価の良い客の待遇をよくしようと努力している例でしょう。

さて、私は20年、サラリーマンをしたのですが、私のケースはかなり特例でした。それは20年通じて現地雇員を別とすれば部下は通算で4人しかいなかったのです。そして確実に言えるのは私は関連会社の社長をしていた期間を含め、20年間ずっと自分の担当実務を自分でこなしていたことです。この癖は今でも変わりません。私は9社の決算のとりまとめをやり、何社分かは会計ソフトに伝票の入力をします。一部の組織は税務申告もします。月2回、約40人分程度の給与計算をするし、顧客との営業活動の実務も普通にこなします。

給与計算、お前がやっているの?と思うでしょう。しかし、私は給与計算の流れを把握しているのでセミオートの極めて簡単で間違いがほとんど出ない給与計算プログラムをITに詳しい人の手助けも得て作り出しました。多くの会社は市販のソフトやPayroll会社に委託するのだと思いますが、私たちは完全にカスタマイズした仕組みなので、自社で対応、かつ応用はいくらでもできます。これは実務の強みなのです。だから給与計算と言っても実際はコンピューターの計算の再確認作業が主なので30分ぐらいしかかからないのです。

お勤めを長くやっていると転勤もあるのですが、私のような特例を除き、必ず部下が増えてきます。すると仕事の一部を部下に任せるわけですが、役職が付くと少しずつこの実務から遠ざかり、管理が主体になります。そして他部署との調整など部内から社内行動に移ります。更に役職が上がると社外行動に転じます。つまり、どんどん業務の範疇が変化していきます。これはこれで意味があることなのですが、現場やラインの業務との距離感がどうしても出てきます。その時、単なる実務のスキルだけではなく、そこに隠された無駄ムリや改善事項、その作業の意味合いなどが見えなくなりやすいのです。

課長、部長となれば部下との年齢差が生まれ感性のギャップも出てきます。これを「君は分かっていない」で片づけるのか、自分からその考え方を理解しようと寄り添う姿勢を見せるかでも大きく違います。私はこの歳になって普通に実務をやりながら若い人と普通にやり取りできる喜びがあります。これは自分の職務分掌はずっと変わらず、360度全方向対応ともいえます。

日本の大臣が国会答弁で問答集の紙をしっかり読み上げ、かつ、官僚がそばで囁いたりします。外国の国会であまり見かけない気がします。他国の大臣は業務に非常に精通している、そんな印象が強いのですが、日本は人事構築の考え方、スキルや知見という点でずいぶん違う気がします。

私が実務に喜びを感じるのは見通せる楽しさでしょうか?仕事の全方向が一点の曇りもなく見えること、そしてずっと改善、改良を加え続け、常にグレードアップを図ることで前線に立つ達成感でしょうか?

そういう意味では戦国時代を例えれば企業の社長は総大将、私は先陣なんです。総大将は最後方で様子を見守り、各方面からの情報を判断するタイプ。私は現場で何がどうなっているのか、自分の目で見たいタイプということでしょう。

どちらが良いという話ではありません。ただ、私はずっと実務がわかるトップでいることで自分の人生を自分で好きなように描けるという点は自由度があると思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月25日の記事より転載させていただきました。