ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた惑星海王星の写真を見られた読者は多いだろう。近赤外線カメラが撮影した巨大氷惑星の海王星とその衛星の姿は魅力的で、美しい。当方も米航空宇宙局(NASA)から送られてきた画像を見た時、神秘的な宇宙空間の画像に感動を覚えた一人だ。
ハップル(Hubble)の後継望遠鏡、ジェームズ・ウェップ(James・Webb)宇宙望遠鏡から配信された写真は想像を超えた精密さだ。30年間、約2万人のエンジニア、プランナー、研究者が参加して構築された。ボルチモアの宇宙望遠鏡科学研究所のクラウス・ポントピダン氏は、「天文学の新しい時代が始まろうとしていることに誰もが気づくだろう」とその感動を吐露している(独週刊紙「ツァイト・オンライン」)。
ウェッブの使命は、宇宙の果てまで見ることだ。若い宇宙の真っ暗闇の中で最初の星が発火した瞬間を撮影する、という目的だ。独誌シュピーゲル電子版は、「聖書の創世記第1章『神は光あれと言われた、すると光があった』という瞬間をキャッチすることだ」と説明している。
ところで、NASAは宇宙に別の人類、ないしは生命体が存在している可能性が排除できない場合のシナリオを真剣に考えている。もし宇宙に他の生命体が存在した場合、地球に住むわたしたちの世界観、人生観にどのような影響を及ぼすかという問題は大きなテーマだ。そこでNASAは昨年末、米ニュージャージー州プリンストンの神学的調査センター(CTI)の24人の神学者を雇用したというのだ。
通常の神学者は聖書の天地創造説に基づいて世界がどのように創造され、人類の創造の目的などを研究してきた。その聖典「聖書」66巻の世界観、人生観がその基本となる。そこに地球外の生命体が存在しているとしたら、地球に居住する人類とその宇宙人との関係は、神はその宇宙人も創造したとすれば、その目的は、等々の新たな問題が沸き上がってくる。それらのテーマは宇宙物理学者が担当する分野外だから、専門家の神学者に考えてもらおうというわけだ。
宇宙物理学の急速な発展と宇宙望遠鏡などの開発で宇宙は人類にとっても急速に身近な関心事となってきた。未確認飛行物体(UFO)は今日、米国防総省が報告書を発行するテーマとなっている。大リーグで投打の二刀流として大活躍している大谷翔平選手に対し、大リーガーたちは「彼は地球上の人間ではない」と驚嘆したというニュースが流れていた。すなわち、大リーガーたちを含め、「地球上の人間ではない」といった発想が自然に飛び出すような時代圏にわたしたちは生きているわけだ。
果てしない宇宙空間に人類と同じような生命体(エイリアン)が存在するか、存在するとすれば、人類より発展した存在だろうか。彼らはどのような目的で存在しているか、神と新しい生命体との関係は、等々果てしないテーマが浮かんでくる。
ポーランド出身の天文学者ニコラウス・コペルニクス(1473~1543年)は地球中心説(天動説)を否定し、太陽中心説(地動説)を主張して、ローマ・カトリック教会を震撼させた話は有名だ。それ以来、科学的真理と宗教的真理は対立する概念のように受け取られてきた面がある。科学が進歩すれば、宗教、ひいては神の存在も否定されるという一種の科学至上主義の“信仰”が拡大していった。
看過してならない事実は、神の存在を証明する科学的真理はまだ発見されていないが、否定する科学的真理も見つかっていないということだ。「神は死んだ」と主張したドイツ人哲学者フリードリヒ・ニーチェ(1844~1900年)は「20世紀はニヒリズムが到来する」と予言したが、そのニーチェが死んだが、神はまだ死んでいない、というのが現状だ。
新約聖書の「ヨハネの黙示録」1章には神自身が答えている。「私はアルパであり、オメガだ」という。アルパは最初であるから、宇宙の創造者を意味し、オメガは終わりを意味するから、その完成者という意味かもしれない。同時に、「黙示録」の別の個所には「私は初めであり、終わりである」という表現もある。それ以上、何の説明もないのだ。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は宇宙に新しい生命体を発見するだろうか、ひょっとしたら宇宙の創造主「神」を見出すかもしれない。
参考までに、量子テレポーテーションの実現で世界的に著名なウィーン大学の量子物理学教授・アントン・ツァイリンガー氏(Anton Zeilinger)は、「神は証明できない。説明できないものは多く存在する。例えば、自然法則だ。重力はなぜ存在するのか。誰も知らない。存在するだけだ。無神論者は神はいないと主張するが、彼らはそれを実証できないでいる。偶然でこのような宇宙が生まれるだろうかと問わざるを得ない。物理定数のプランク定数がより小さかったり、より大きかったならば、原子は存在しない。その結果、人間も存在しないことになる」と指摘している。
いずれにしても、NASAに雇用された24人の神学者の研究結果が楽しみだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。