私が大学生の頃には大学の周りから雀荘は既に消えていました。まだ都内の一部の大学の周りには存在していましたが、衰退は確実に進んでいたと思います。当時言われたのは「麻雀するよりもっと面白いことがある」でした。そのきっかけが田中康夫氏の「なんとなくクリスタル」という小説でしょう。私はそのモデルとなった大学に在学していました。パーティーや学生起業、趣味の活動、さらにはチャラ男が増え始めたのもこの頃です。硬派と軟派は「ナンパ」の部分だけが社会に浸透していきました。
私がゴルフ場の仕事をしながらなぜ、ゴルフを止めたか、といえば時間が無駄だと思ったからでしょう。どんなに早く回っても4時間半。ゴルフ場までの往復時間や「19番ホール」を考えればバンクーバーですら半日は軽く潰れます。楽しさより時間の犠牲というマイナス面が私には大きかったことが決定打でした。
ではなぜ、それほど忙しいのでしょうか?私は「時間に対してケチ」という考え方が出来た初期の頃の人間だと思います。大学在学中はクラブ活動があり、バイトをし、ゼミの勉強のために図書館にこもり、海外には7回出かけ、大学の授業は好きで欠席はほとんどせず、成績も悪くはなかったと思います。さらっと書いていますが、どれも時間のコミットが必要なので無駄な時間を省くしかなかったのです。大学生なら「サテンに行こうぜ」が合言葉でしたが私は「ごめん、バイトがある」でした。それは発見に次ぐ発見で何をやっても楽しかった時代背景や年齢であったこともあります。何のためにこの時間があるのか、を考える癖は高校受験の頃、つまり中学生から身に着け始めていたように思います。
このような傾向は現代社会に於いて更に進化しました。例えば私の仕事机のパソコンの画面は4つあります。それはウインドウをいちいち立ち上げず、4つが同時に見られるからです。同時にいくつかの作業を並行して行うのは今や当たり前です。そうしないと一日の仕事は終わらないのです。
2週間ぐらい前の日経一面に「倍速ニッポン(上)『タイパ』重視、楽曲イントロ半減 時間争奪戦、企業も揺らす」とあります。タイパとはタイムパフォーマンスのことです。つまり時間効率。これが社会の潮流として記事になる時代です。昔、私はテレビドラマは一旦録画してコマーシャルを早送りして見るのが当たり前でした。今ならユーチューブを1.25倍とか1.5倍速で見る人は多いでしょう。塾で速読の練習があり、子供に1.5倍から2倍で読み聞かせをします。理由は時間効率だけではなく、集中力が高まるからです。
2000年代初頭、レバレッジという言葉が流行りました。「てこ」という意味ですが、10の力で30とか50の仕事をこなすことでもっと自分の時間を有効に使うという発想です。実業家の本田直之さんがその提唱をしていました。彼とは当時、何度か会ったのですが、ハワイ、サーフィン、グルメ、ソムリエ、トライアスロンといった趣味の世界をどれだけ自分に取り込めるかとの力説に私もずいぶん影響を受けたと思います。
日経の記事には音楽からイントロが消えたと報じています。すぐに歌を聴きたい、つまり導入部分はいらないという現代社会の意向が音楽も変えたというのです。小説の読み方や映画の観方も変わりました。結論から先なのです。結論を知ったうえでそれを読んだり、見たりする価値があるか、判断するのです。最近の女性に特に多い気がします。さすがの私もそれはしないです。それをすれば小説も映画も価値は半減です。
レストラン選びでもまず、評価点やコメントチェックで評判がイマイチの店には行く行かないというより時間とお金の無駄と考える人が増えています。つまりベストだけを拾い集める感じでしょうか?では、時間にケチなおまえはどうしているのか、といえば昼食はレストランで注文の品が来るのが待てないから行きません。だから昼は家に帰ってさっと食べるし、それが叶わなければ弁当を作っていきます。夜、飲みにいけばほぼカウンター席です。なぜなら店員がそこにいるから対応が早いのです。
なぜ、こんなに忙しい時代になったのか、といえば情報が多すぎるのだと思います。なのであれもこれも目移りします。その中で明白になったのは物欲はほぼゼロだけど知識欲や経験欲、知らない世界を覗くことには強い好奇心があります。そういう意味では料理への興味は非常に高いのです。以前、私はラーメン屋にはいかないと申し上げたのはラーメンぐらい自分で作れるからです。それもスープから作りますが、インスタントラーメン並みのスピードでまずまず食べられるレベルにするのは難しくありません。そういう意味では自分で何でもできるようになったことも忙しくなった背景かもしれません。
私は断捨離の第2弾をしなくてはいけないと思っています。第1弾はモノの断捨離でしたが、第2弾は多すぎる興味や趣味や知識欲を少し整理しなくてはいけないと思っています。仕事以外にコミットしていることも多すぎると思っています。この辺りは少し整理すべきなのでしょう。
忙しい現代人の先頭を走ってきた私ですが、余力ということも頭では意識しています。つまり80%を活動に充て、20%の余裕を残すことです。これはもう10年以上言い続けていますが、達成できていません。時間の管理という意味では24時間のうち、活動時間が16時間としてその2割なら約3時間。これを好きに使えるようにするためにはうーん、どう考えてもあと更に10年はかかりそうです。遠い道のりです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月26日の記事より転載させていただきました。