イラン「デモ参加者は外国の傭兵だ」:デモ参加者に対し長期の懲役刑

テヘランで22歳の女性、マーサー・アミニさん(Mahsa Amini)が宗教警察官に頭のスカーフから髪がはみ出しているとしてイスラム教の服装規則違反で逮捕され、警察署に連行され、尋問中に突然意識を失い病院に運ばれたが、死亡した事件はイラン国内で大きな怒りを呼び起こしている(「イラン国内を揺さぶる『アミニ事件』」2022年9月22日参考)。

抗議デモ参加者とイラン治安関係者が衝突(2022年9月28日、オーストリア国営放送ニュース番組のスクリーンショットから)

事件後、30日で2週間が経過するが、テヘランでは女性たちが路上に飛び出し、女性の権利を蹂躙するイスラム原理根本主義政権(ムッラー政権)を批判する抗議デモを行っている。問題にされているのは、1979年のイスラム革命以降施行されている服装規定だけでなく、女性に対する差別全般だ。多くの若い女性たちは、「数本の髪の毛」のために死ななければならなかったことに憤慨し、「私たちはジェンダー・アパルトへイト体制にうんざりしている」と怒りを吐き出している。

一方、イラン軍はイラク内のクルド系武装勢力に砲撃を加えるなど、イラン側の焦点はクルド系への攻撃にシフトを変えてきている。アミニさんはクルド人のルーツを持ち、家族と一緒にクルディスタン州に住んでいたため、特に多くのクルド人の都市で、暴力的な抗議行動や警察との衝突が起きているからだ。

イラン軍は28日、ロケットとドローンで隣国イラク内のクルド人グループの複数の建物を攻撃した。テヘラン側は「クルド人グループによる以前の攻撃に対する報復だ」として正当化している。保守強硬派のライシ大統領は抗議デモの矛先が最高指導者ハメネイ師や政府に向かってきたことに危機感を強めている。同大統領は、クルド系武装勢力がアミニ事件を理由に活動を強化しているとして、抗議行動を「敵の陰謀」と受け取っている。

当局によると、イラク北部のクルド人自治区アルビルとスレイマニヤ近郊で28日、イラン革命防衛隊(IRGC)による攻撃があり、民間人を含む13人が死亡し、58人が負傷した。ニュースサイトKurdistan24.netが報じたところによると、爆発物を搭載したドローンがイランのクルド民主党(KDPI)の建物を攻撃した。また、少なくとも9機の無人偵察機が、スレイマニヤ県の左翼クルド人政党コマラの建物を攻撃した。

イランのワヒディ内相は、「イランでの反政府デモに一部のクルド人グループが関与している」と非難している。政府によると、クルド人地域のイランのデモ隊にクルド人の武器が手渡されたという。

アミニさんの死後、イランでは毎日のように抗議活動が行われ、当局はこれに対して強権を行使して取り押さえている。死亡者数と逮捕者数に関する正確な情報はないが、イランの国営放送局は、40人以上、その他の情報源によると70人以上が死亡したと報じている。全国で数千人が逮捕されたともいう。その中には、影響力のある元大統領アリ・アクバル・ハシェミ・ラフサンジャニの娘、ファエセ・ハシェミさんが含まれているという情報がある。有名な女性の権利活動家ハシェミさんは何年にもわたってイスラム政権を批判しており、スカーフ着用の義務付けには常に反対してきた。

ライシ大統領は拘束中の若い女性(アミニさん)の死はイスラム共和国のすべての国民を悲しませたと認めたが、アミニさんの死をめぐって広がる暴力的な抗議を通じて混乱を起こすことは受け入れられないと警告している。

イラン警察は28日、デモ参加者への対策を強化すると発表し、「反革命分子や敵対勢力の陰謀に全力で反対する。公の秩序と治安を乱した者に対しては断固として行動する」と表明した(「10年遅れで『イランの春』到来するか」2022年9月24日参考)。

イランではインターネットアクセスも引き続き制限されている。イッサ・サレプール電気通信相は28日、「制限は暴動のために命じられたものであり、必要な限り継続される」と述べた。「イラン学生通信」(ISNA通信)による、ブロックされたアプリの一部は米国からのもので、デモ参加者間の通信手段として使用されたため、ブロックされたという。

イランのアリ・アルガメール司法長官は26日、全国的な抗議デモ中に逮捕されたデモ参加者のための特別法廷を計画していると発表したばかりだ。政府と司法当局はデモ参加者全員を海外からの“雇われデモ傭兵”と受け取っていることもあって、デモ参加者に対して長期の懲役刑が予想されている。なお、特別裁判所には、国家安全保障違反を扱い、厳しい判決で悪名高い革命裁判所が含まれている。

イランの抗議デモはイギリスやカナダなど欧米の多くの都市にも波及し、連帯デモが行われている。国連のグテーレス事務総長は、「女性や子供を含む死亡者数が増加している」と懸念を表明し、イランの治安部隊に対し、不必要な武力を行使しないよう求めている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。