貧困率の高い日本の現役世代

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1. 貧困率って何?

前回は、先進国各国の現役世代(18~65歳)について、所得格差を表すジニ係数に着目してみました。

日本は再分配前の当初所得ではジニ係数が小さく格差の小さい国と言えます。再分配後の可処分所得では格差は縮小しているものの、先進国の中では比較的格差の大きな国である事がわかりました。

今回は、貧困率について改めて着目してみたいと思います。

貧困率は、「中央値の50%となる貧困線を下回る所得しか得られない人の割合」を表します。
OECDのデータでは、貧困率は当初所得と再分配後の可処分所得について計算されています。

まずは日本の貧困率についてデータを見てみましょう。

図1 貧困率 日本 18~65歳
OECD統計データ より

図1が日本の貧困率となります。

当初所得(before taxes and transfers)と再分配後(after taxes and transfers)のデータです。

当初所得は市場所得、再分配後の所得は可処分所得になると思いますが、明記されていなかったためこのような表現としています。

1985年に当初所得で0.105、再分配後で0.106でしたが、2012年にかけて徐々に拡大していき、その後やや減少しています。

2018年では、当初所得で0.165、再分配後で0.127となります。最近ではやや減少傾向ながら、1980年代に比べると貧困率が増大している事になります。

2. 日本の貧困率は低い?高い?

それでは、OECD各国で直近の貧困率を比較してみましょう。

まずは当初所得からです。

図2 貧困率 当初所得 18~65歳 2018年
OECD統計データ より

図2がOECD各国の貧困率を比較したグラフです。

日本は0.164で37か国中29番目で、先進国の中では貧困率の低い国となります。

対照的に、フランス(0.255)やイタリア(0.221)は貧困率が高いですね。

貧困率 当初所得
18~65歳 2018年 37か国中
1位 0.255 フランス
8位 0.221 イタリア
16位 0.204 アメリカ
17位 0.193 イギリス
18位 0.189 カナダ
23位 0.178 ドイツ
29位 0.164 日本
35位 0.130 韓国
平均 0.190

日本の数値が図1と異なるのは、OECDの所得の定義が2018年に改訂された結果を受けて、図2の方は新しい定義(New income definition))の数値を用いているためです。

図1は推移のグラフなので、従来定義(Current definition)の数値です。

図3 貧困率 再分配後 18~65歳 2018年
OECD統計データ より

図3が再分配後の貧困率です。

日本は0.130で当初所得よりは貧困率が改善されていますが、他国と比較すると高い方になるようです。37か国中9番目、G7で3番目でOECDの平均値(0.104)を上回ります。

貧困率 再分配後
18~65歳 2018年 37か国中
2位 0.158 アメリカ
4位 0.142 イタリア
9位 0.130 日本
13位 0.118 カナダ
14位 0.118 韓国
18位 0.106 イギリス
20位 0.097 ドイツ
26位 0.086 フランス
平均 0.104

当初所得で最も貧困率の高かったフランスは、再分配後には0.086で平均値を下回り、貧困率の小さい国となっているのが印象的です。

フランスは再分配による貧困や格差是正に積極的な国のようです。

図4 貧困率 再分配効果 18~65歳 2018年
OECD統計データ より

図4が貧困率の再分配による改善効果を表したグラフです。

再分配効果は、当初所得の貧困率と再分配後の貧困率の差分として計算しています。

貧困率 再分配効果
18~65歳 2018年 37か国中
2位 0.169 フランス
17位 0.087 イギリス
21位 0.081 ドイツ
22位 0.079 イタリア
25位 0.071 カナダ
30位 0.046 アメリカ
32位 0.034 日本
36位 0.012 韓国
平均 0.082

日本は0.034で、37か国中32位という低位で、平均値の半分未満、G7最下位です。

日本は当初所得での貧困率は低い方ですが、再分配効果が低く、再分配後の貧困率が高くなっているという特徴があります。

日本は失業率が低く、皆が仕事を得やすい国ですが、再分配後の貧困率が高いという皮肉な状況です。

一方で、失業率が高いフランスでは、当初所得の貧困率が高いですが、再分配後の貧困率が低いという真逆の特徴があります。

3. 貧困の深さという課題

貧困に関しては、貧困ギャップ(Poverty gap ratio)という指標もあります。

貧困ギャップは、貧困層の収入がどの程度貧困線を下回っているかという、貧困の程度を表す指標です。

貧困率が貧困線以下の水準の人の割合を示すのに対して、貧困ギャップは「貧困の深さ」を表す指標となるそうです。

図5 貧困ギャップ 平均値 18~65歳 2018年
OECD統計データ より

図5が貧困ギャップの比較となります。

貧困ギャップ 平均値
18~65歳 2018年 37か国中
1位 0.434 イギリス
2位 0.429 イタリア
4位 0.389 アメリカ
7位 0.381 日本
13位 0.356 カナダ
19位 0.324 韓国
28位 0.287 ドイツ
32位 0.267 フランス
平均 0.325

上位にイタリアやアメリカが入っていますが、意外にもイギリスが1位となっています。

日本は0.381で37か国中7番目、平均値を上回り、貧困ギャップの大きな国となります。

4. 日本は再分配後の貧困率が高い国

今回は、現役世代の貧困率についてフォーカスしてみました。

日本は、失業率が低く、当初所得の格差や貧困率も小さい国ですが、再分配後の格差や貧困率は当初所得より改善されているものの、他国と比較して大きいという特徴があるようです。

経常移転による再分配が、他国ほど十分に機能していない事を窺わせます。

再分配後の貧困率が高いことに加えて、貧困の深さも深いという特徴があるようです。

さらにそもそもの所得水準が低下していて、先進国では既に低位となっている事も深刻ですね。(参考記事: 給与以外の収入も少ない日本

日本の現役世代が困窮しているという事情が、国際比較を通して明確になってきたように思います。

皆さんはどのように考えますか?