ウィキペディアの信頼性が高まったわけ

しばらく入院していて更新が滞っていましたが、ぼちぼち再開したいと思います。

まずはいつもお世話になるWikipediaの話題です。そのスタートは2001年1月(英語版)で、日本語版はその4ヶ月遅れ。まだ20年あまりしか経っていませんが、もはやインターネット上の必須サイトと言っても過言じゃないでしょう。

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でも、スタート後、しばらくは「誰が書いてるかわからない百科事典など信用できない」「レポートには使うな」といった否定的な考えをあちこちで見かけました。でも、今はもう、そうした考えは薄れたように思います。それは、Wikipediaに集うボランティアユーザーの献身があってのこと。その事例の一つをオンラインマガジンのSlate が長文記事で紹介していましたのでかいつまんで記録しておきます。

それは、米国のケーブルニュースでCNNなどを差し置いて圧倒的な存在となったFox NewsのウェブサイトをWikipediaで「政治的、科学的内容の参考文献として許可すべきかどうか」という問題でした。

許可されなければ、特別な許可が得られない限り、そのリンクはスパムとしてブロックされとのこと。米国一のケーブルニュースのサイトに堂々と立ち向かったわけです。

その議論には、スタンフィード大学の大学院生が管理者となって150人以上のユーザーが2ヶ月にわたって意見を出し合い、平均的な小説の長さに匹敵するという82,000ワードのスレッドが立ったそう。

で、大学院生の主導で、政治や科学に関する情報源としてFox Newsは「わずかに信頼できる」(marginally reliable)という結論に落ち着いたとか。そして、これは頻繁に利用されるソースの信頼性のレベルを一覧にしたリストに掲載されました(ちなみに日本語版もある北朝鮮情報についてのDaily NKもmarginally reliableですが、他の北朝鮮に関するソースの信頼性も低いので「細心の注意を払ってではあるが、ソースとして使用することができる」とあります)。

これはFoxNewsの政治、科学に限ってのことで、それ以外のニュースについては「一般的に信頼できる」(generally reliable)とし、強烈な保守的発言をする多数のホストが売りのtalk showについては「一般的に信頼できない」(generally unreliable)と両極端な評価です。

ライバルのCNNやMSNBCは、NYTやWSJ、WAPOなどの伝統的な一流メディアとともに「一般的に信頼できる」のマークがついていて対照的。

このような評価を下すWikipediaの基本方針は「Verifiability」だとSlateは書きます。検証可能性。なぜなら、「ブリタニカなど従来の著名な百科事典は、各項目の筆者の身元がはっきりしている。ユーザーはそれを信頼している。しかし誰でも項目を立てて編集できるWikipediaにはその筆者を信頼する理由がないから項目内容の検証可能性が重要だ」という考えです。

そこで、検証可能な参考文献、ソースがあれば、無名なボランティアの記事でも信頼性が担保される、というわけです。

だからFox Newsのような著名メディアであろうと、誰かが問題提起すれば、ボランティアがネット上で議論して、引用に適するかサイトかどうかを吟味するということなのですね。

ただし、このリストは英語版だけで、日本のメディアはその英語バージョンを含めて皆無のようなのがちょっと残念。


編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年10月3日の記事より転載させていただきました。