半月ほど前、New York Times(NYT)のサイトで、「TikTokはZ世代の新検索エンジンだ」という記事を見かけました。
TikTokは中国発のソーシャルメディアで、ダンスビデオやポップミュージックで有名だったことはなんとなく知っていましたし、Z世代というのは大体18歳から25歳を指すというので、いずれも当方には遠い遠い存在。なので、その際はこの記事にも食指が動きませんでした。
が、今朝、Facebook仲間の投稿で、「若者」より「大人」が対象なはずのWall Street Journal(WSJ)がTikTokに進出したと、WSJのMatt Murray編集局長自らがEditor & Publisherに寄稿しているのを知りました。おまけに日本語訳もついてます。
早速読むと、WSJの狙いは「これは、ジャーナルをより若い、より多様なオーディエンスに紹介する上での最新のステップです」とあります。まあ、NYTに次ぐデジタル版の有料購読者を有し、成功しているにもかかわらず、将来を睨んだ取組と見えます。
でも、その中身は? とTikTokサイト内のWSJのページを覗いて見ました。始まったばかりとあって、アップされている動画はまだ11本。そのうち10本の出演者は若い女性。名前はありませんが、先の編集局長の一文には「編集局でお馴染みの面々が取材や専門知識を披露する予定」とあるので女性記者なのでしょう。
そのうち、最もハートマーク、多分「いいね」数が最も多い4800件ほどに達している「remember you can negotiate more than just your salary! 」=給料だけじゃなく交渉できること」とあるのを見ました。長さはたったの7秒。これで中身を説明できるわけもないと思いますが、画面には「基本給」「ボーナスの割合」「リモートワーク」「保険」など10項目が浮かんでいます。
年寄りには辛くても、若者なら自在に画面を止めて読み取るのでしょう。たった7秒だから、要点を早口で喋る内容も何度でも聞き返しOK。長ったらしい説明抜きでササっと頭に入る。これが若者向きのサーチエンジンという意味がなんだかわかったような気分です。
この短さを売り物にして、3年余り前に始まったWashington Post(WaPo)のTikTokを、このブログで言及したことを思い出しました。こっちは15秒以内が原則。ページの最初の動画では、「OPECプラスの原油減産とウクライナ侵攻への影響」を記者が一人でコミカルに演じています。長さは17秒。フォロワーは140万人で、この作品への「いいね」は最新のせいかまだ1万人に達していませんが、他のクリップはだいたい2〜3万人に達しているようです。
WaPo、WSJとくればNYTもと思って検索しましたが、こっちは儲かる仕事が次々登場させているせいか、まだTikTokには取り組んでいないようです。しかしAxiosのSara Fischerさんのまとめによると、メディア業界からのTikTokへの参入がめざましく、フォロワーが100万人以上は10指に余るそう。これについてFischerさんは「TikTok がZ世代にとってニュースを入手するための中心的な場所になったことを示すもの」と指摘しています。しかも、これは半年前の記事ですから、今はさらに増殖していることでしょう。
そこで、日本のメディアではどうかと見ると、どうやら毎日新聞が先行しているようで、フォロワー数は94万人とあります。しかし、日本ではまだ「検索エンジン」的な使われ方が少ないのか、「いいね」数は2桁のものも少なくないようです。また、テレビではテレ朝ニュースのフォロワー数が240万人と巨大ですが、米国のESPやCBS、ABCnewsなどの「いいね」数には遠く及びません。
米国で若者に受けているのは事実でも、全世代で見れば信頼度はどうなのか。最近の英・ロイタージャーナリズム研の調査では、やはり、検索の本家本元Googleの信頼度は高く、TikTokは最も低かったとのこと。またインターネット上の誤情報を監視するサイト「NewsGuard」の最新の調査では、「TikTokの検索結果のうち、5つに1つは誤情報を含んでいることがわかった」とも報じられています。
まあ、しかし、インターネットのコンテンツは数が充実する中で洗練されるもの。そうなったら米国だけでなく、日本でも若者に受けるかな。でも、TikTokの記事は見てくれても、本紙や自社サイトの記事を読んでくれないとなあ・・・
編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年10月7日の記事より転載させていただきました。