追い込まれるプーチン
鬩ぎ合うウクライナ戦争は、現下ロシア劣勢の流れとなっている。
プーチンとしては、東部2州とクリミアへの回廊となる南部2州を併合(10月4日実行)し、戦線を絞り言わば将棋の穴熊囲いの構えを取り、下記のような図式で持久戦に勝機を見出そうとしていた感があった。
【 ウクライナ + NATO vs. ロシア + 冬将軍 】
だが、ロシアは併合したはずの地域まで複数奪回されている。また上記で言う「冬将軍」には、食糧・エネルギー輸出を人質に取ってEU諸国の首根っこを掴み厭戦気分の醸成で停戦交渉に持ち込む事も含まれていたはずたが、9月末の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1・2」の破裂によりそれも儘ならなくなった。
パイプライン破裂は、何やら第一次大戦時のUボートによる商船撃沈作戦も連想させ、ほぼ人為的破壊と見られているが、その実行者はロシア自身、米英、その他の名が挙げられており真相は藪の中となっている。
EUは果たして冬を越せるのかが懸念されるが、パイプラインは計4本中1本は辛うじて残った。なお前後して、ノルウェーからデンマーク経由でポーランドへ北海ガスを輸送する「バルティック・パイプ外部サイトへの開通記念式典が行われた。また米国は液化天然ガスをエネルギーに瀕したドイツ等に供給するようである。
破壊はロシア自身によるギリギリの自作自演かも知れないが、だとすると背水の陣としてもかなり倒錯した世界ではある。
イーロン・マスクの和平案
さて、そんな中、10月4日に実業家のイーロン・マスクがTwitterのアンケート機能を使い、下記のような和平案を提示した。
- 国連の監視下で、併合地域の選挙をやり直す。ロシアは、それが民意であるならば、離脱する
- クリミアは1783年からニキータ・フルシチョフの過ち、つまりウクライナへのクリミア半島割譲まで正式にロシアの一部だった
- クリミアへの水の供給は保証される
- ウクライナは中立を保つ
これに対して、ウクライナ側は当然反発した一方、ロシア側は歓迎を示した。
この波紋が消える間もなく、イーロン・マスクは今度はフィナンシャル・タイムズが10月7日に報じたインタビューの中で、台中問題について「合理的に受け入れ可能だが、おそらく誰もが喜ぶわけではない台湾の特別行政区を検討してはどうか」とし、「香港よりも寛大な取り決めがおそらくできると思う」と語った。
歴史的にも中国共産党政府は台湾を支配した事が無い上に、香港での人権弾圧を見れば荒唐無稽な事に加えて能天気で危険な発言だが、自身のテスラ社が上海に工場を構え広大な中国市場も狙っているため、中国へのビジネス上のリップサービスの要素も強いのだろう。
こう考えると、先のウクライナ和平案は、台湾特区案の単なる前振りに過ぎなかったのかも知れない。
だが、ウクライナ戦争は核戦争、第三次世界大戦に発展しかねない。(参考拙稿:手負いの熊が核を放つ日)
10月8日には、クリミア半島とロシア本土とを結ぶクリミア大橋で大爆発が発生し、プーチンはウクライナへの報復を指示し、10日朝時点で、首都を含む複数の都市がロシアのミサイル攻撃を受け、民間人の死傷者が出たほか、電力や水、暖房などのインフラも一部破壊されている。
イーロン・マスクの提案は自身の台中発言で随分軽くなった感もある。だが何らかのウクライナ和平案が各国を巻き込んで早急に形成されるべき事に変わりはない。