日本の再分配は不十分?

小川製作所

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1. 日本人の所得格差は開いてる?

前回は、高齢世代の所得格差と貧困について取り上げてきました。

日本の高齢世代は比較的所得格差が大きく、貧困率が高いという傾向があるようです。

特に、貧困率では、現役世代は当初所得では比較的低い傾向がありましたが、高齢世代は当初所得から高い傾向のようです。再分配後の貧困率も高い国です。

日本は少子高齢化が進み、更に世代間格差もあるという指摘もあります。

再分配は世代内の格差や貧困を改善する効果だけでなく、世代間の調整もするはずですね。

今回は国全体としての、格差や貧困の状況について確認していきましょう。

図1 ジニ係数 日本 全人口
OECD統計データ より

図1が日本の全人口(Total population)の所得格差を表すジニ係数です。

再分配前の市場所得でのジニ係数は拡大傾向が続いていますが、再分配後の可処分所得では一定範囲で推移しています。

可処分所得のジニ係数は0.32~0.34の間くらいです。

現役世代が0.32~0.33、高齢世代が0.34~0.35なので、平均するとこの程度という事になりますね。(参考記事: 所得格差(ジニ係数)って何?  参考記事: 高齢世代の格差と貧困

日本は市場所得での所得格差が拡大しつつも、再分配により一定範囲に抑えている状況と言えそうです。

2. 所得格差の国際比較

続いて、直近のジニ係数を国際比較してみましょう。

図2 ジニ係数 市場所得 全人口 2018年
OECD統計データ より

図2は高齢層の市場所得のジニ係数を比較したグラフです。

日本は0.501で、OECD37か国中12番目、G7で5番目で平均値を上回り、比較的所得格差が大きい方になります。

ジニ係数 市場所得 全人口
2018年 37か国中
1位 0.531 コスタリカ
2位 0.529 フランス
5位 0.513 イギリス
7位 0.511 イタリア
10位 0.506 アメリカ
12位 0.501 日本
15位 0.494 ドイツ
33位 0.427 カナダ
34位 0.402 韓国
平均 0.468

カナダと韓国の所得格差が小さいというのは非常に特徴的ですね。

日本は現役世代のジニ係数は小さいですが、比較的低所得な高齢世代の人口比が大きいため、全体としては比較的大きな数値となるようです。

図3 ジニ係数 可処分所得 全人口 2018年
OECD統計データ より

図3が再分配後の可処分所得のジニ係数になります。

可処分所得は、当初所得から税金などの経常移転負担を差し引き、年金などの経常移転給付を足したもので、再分配後の所得となります。

各国とも再分配によって格差が縮小している様子がわかります。

日本は0.334で、37か国中11番目、G7で3番目で平均値0.318よりも大きく、先進国では再分配後の所得格差が大きい国となります。

ジニ係数 可処分所得 全人口
2018年 37か国中
1位 0.479 コスタリカ
5位 0.393 アメリカ
6位 0.366 イギリス
10位 0.345 韓国
11位 0.334 日本
12位 0.330 イタリア
21位 0.303 カナダ
22位 0.301 フランス
25位 0.289 ドイツ
平均 0.318

G7では特にドイツの所得格差が小さい事が印象的ですね。

世代間のギャップも踏まえて全体としてバランスをとるような再分配をしているように見受けられます。

図4 ジニ係数 再分配効果 全人口 2018年
OECD統計データ より

図4は再分配による所得格差の改善効果を比較したグラフです。

市場所得のジニ係数から箇所運所得のジニ係数を差し引いた数値で、再分配によってどれだけジニ係数が下がったかを表現しています。

日本は0.167で、37か国中17位、G7の中では4位で、平均値0.151を上回ります。

日本は再分配による所得格差改善効果がやや高い国となります。

ジニ係数 再分配効果 全人口
2018年 37か国中
1位 0.240 フィンランド
3位 0.228 フランス
7位 0.205 ドイツ
12位 0.181イタリア
17位 0.167 日本
22位 0.147 イギリス
27位 0.124 カナダ
30位 0.113 アメリカ
34位 0.057 韓国
平均 0.151

所得の再分配を重視するフランス、ドイツと、再分配より成長を重視するアメリカ、韓国で二極化している印象がありますね。

日本は全体で見ればその中間的な立ち位置と言えそうです。

3. 日本の貧困率はどれくらい?

続いて、貧困率についても見ていきましょう。

図5 貧困率 日本 全人口
OECD統計データ より

図5は日本の貧困率をグラフにしたものです。

再分配前の当初所得と、再分配後の貧困率となります。貧困率は、所得中央値の50%である貧困線を下回る人の割合となります。

当初所得では拡大傾向で0.33程度ですが、可処分所得では0.16前後へと大きく改善されています。

4. 日本人の貧困率が高いのか?

続いて、貧困率について国際比較してみましょう。

図6 貧困率 当初所得 全人口 2018年
OECD統計データ より

図6が当初所得での貧困率です。

日本は0.332で、37か国中6番目、G7中3番目、平均0.276を大きく上回り、先進国では貧困率がかなり高い国になります。

貧困率 当初所得 全人口
2018年 37か国中
1位 0.372 フランス
5位 0.337 イタリア
6位 0.332 日本
9位 0.321 ドイツ
17位 0.286 イギリス
20位 0.275 アメリカ
29位 0.244 カナダ
33位 0.199 韓国
平均 0.276

フランスやイタリア、ドイツも貧困率が高いのが特徴的です。一方で、カナダや韓国は全体で見ても貧困率が低いようです。

図7 貧困率 再分配後 全人口 2018年
OECD統計データ より

図7が再分配後の貧困率です。

日本は0.157で、37か国中9番目、G7中2番目で、平均0.117を上回ります。

再分配により貧困率は大きく改善されていますが、それでも先進国ではかなり大きい方になります。

貧困率 再分配後 全人口
2018年 37か国中
1位 0.209 コスタリカ
2位 0.181 アメリカ
5位 0.167 韓国
9位 0.157 日本
12位 0.142 イタリア
17位 0.118 カナダ
18位 0.117 イギリス
22位 0.098 ドイツ
27位 0.085 フランス
平均 0.117

当初所得では最も貧困率の高かったフランスが大きく改善されているのが特徴的です。

日本よりも貧困率の高かったイタリアも再分配によって大きく改善しています。

図8 貧困率 再分配効果 全人口 2018年
OECD統計データ より

図8が再分配による貧困率の改善効果です。

当初所得の貧困率から、再分配後の貧困率を差し引いた数値となります。

フランスが極めて高い水準ですが、ドイツ、イタリアも大きいですね。

日本は0.175で、37か国中17番目、G7中4番目で平均値0.159を上回ります。

貧困率 再分配効果 全人口
2018年 37か国中
1位 0.287 フランス
6位 0.223 ドイツ
11位 0.195 イタリア
17位 0.175 日本
21位 0.169 イギリス
26位 0.126 カナダ
31位 0.094 アメリカ
35位 0.032 韓国
平均 0.159

日本は全体で見ると再分配効果がやや高めの国になります。

図9 貧困ギャップ 平均値 全人口 2018年
OECD統計データ より

図9が「貧困の深さ」を表す貧困ギャップです。

日本は0.364で、37か国中6番目、G7で4番目で平均値を大きく上回ります。

貧困ギャップ 平均値 全人口
2018年 37か国中
1位 0.396 イタリア
3位 0.376 アメリカ
4位 0.368 イギリス
6位 0.364 日本
8位 0.342 韓国
20位 0.298 カナダ
30位 0.256 ドイツ
31位 0.242 フランス
平均 0.299

日本は貧困率が高いだけでなく、極端に低い貧困層が多いという事になりそうです。

ドイツやフランスの数値が極端に低いのも特徴的ですね。

アメリカ、イギリスとドイツ、フランスが対照的な印象を受けます。

5. 再分配が十分に機能していない日本

今回は、国民全体の所得格差と貧困率について着目してみました。

日本は全体としてみれば、先進国の中で再分配後の所得格差がやや大きく、貧困率が高い状況です。どちらも再分配によって改善していますが、それでも十分に機能していない状況がわかります。また、貧困ギャップがかなり高い水準で、極端に所得水準が低く困窮する人が多い事も窺えます。

再分配は必ずしも、高齢者に向けてのものばかりではありませんね。子供を持つ家庭への支援、生活困窮者への給付なども含まれます。

日本は現役世代も高齢世代も所得格差が比較的大きく、貧困率の高い先進国です。再分配の考え方やバランスのとり方に工夫の余地がありそうです。

もう一つ付け加えるならば、日本は失業率が低いながらも、労働者の所得水準が下がっているという大きな課題があります。

失業率の比較的高いフランスが、再分配によって日本よりも格差や貧困率が低くなっているのは興味深いですね。

所得水準、失業率、再分配をどのようにとらえるか、各国の方針や特徴は様々だと思いますが、日本は仕事を比較的得やすい代わりに低所得化が進み、困窮者に厳しい国ともいえるのかもしれません。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年10月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。