感染研が示した超過死亡をめぐる見解に対する疑問

国立感染症研究所
厚生労働省HPより

10月4日に、「国立感染研は超過死亡の原因についての見解を改めて示すべきだ」というタイトルの論考をアゴラに投稿したが、タイミングよく10月8日に、感染研から今年の1月〜6月の超過死亡は、1万7千人〜4万6千人に達することが発表された。

図1に示すように、超過死亡は主に2月から3月にかけて生じており、コロナワクチンの3回目接種回数の推移と一致する。

図1 ワクチン接種回数の推移と超過死亡

ところで、感染研の発表する超過死亡は、観測された死亡数と予測される死亡数の上限値と下限値の差で示しているので、3万人の幅があり、死因別や海外の超過死亡と比較しづらい。そこで、この論考では観測された死亡数と感染研の発表する予測死亡数との差を超過死亡とした。

全国では、2月と3月に限っても30,734人の超過死亡が観察されている。この期間のコロナ感染による死亡例は9,221人なので、2万人に達するコロナ感染死以外の原因による超過死亡が存在することになる。

分析にあたった感染研の鈴木基感染症疫学センター長の見解は、

超過死亡の要因は、社会的要因を含めて広い意味で新型コロナの流行拡大の影響と言える。

と漠然としたものであった。

昨年、鈴木センター長は観察された超過死亡に対して、

新型コロナの流行が原因の1つとみられ、特に超過死亡が多い地域では医療のひっ迫した可能性がある。

と述べている。

一方で鈴木センター長は、今年の2月に「超過死亡がワクチン接種数の増加に先立って発生していることや海外からもワクチン接種との因果関係を裏付ける報告がない」ことを理由に、ワクチンの関与を明確に否定している。

多くのメデイアは、鈴木センター長の見解をそのまま伝えているが、なかには、

超過死亡の要因として、医療ひっ迫の影響で医療機関にアクセスできず新型コロナ以外の疾患で亡くなったケース、経済的な困窮によって自殺したケースなど間接的な影響も考えられる。

と解説を加えた報道も見られる。

今年の2月から3月にかけて、昨年を上回る超過死亡が見られたこと、超過死亡の原因としてコロナ感染死だけでは説明がつかないという点については、異論を挟む余地はないであろう。問題は、2万人に達するコロナ感染以外による死亡の原因について漠然とした理由しか述べられていないことである。医療のひっ迫や自殺の増加が超過死亡の原因として挙げられているが、それを裏付ける根拠は示されていない。

感染研のダッシュボードを使えば、各都道府県における死因別の超過死亡の検索が可能である。死因としては、新型コロナウイルス感染症以外の疾患、循環器系疾患、呼吸器系疾患、老衰、がん、自殺が含まれている。全死亡による超過死亡がみられた時期に一致して、“新型コロナウイルス感染症以外の疾患”で超過死亡が観察されていることから、感染研も、コロナによる感染死以外にも超過死亡の原因があることを認めていることになる。

以前、アドバイザリーボードはコロナ感染による404例の死因を報告しているが、死因を新型コロナウイルス感染症と記載してあるのは、221例(55%)に過ぎず、心不全、急性呼吸不全、老衰なども含まれている。一方、今年の5月13日に開催された厚生科学審議会・予防接種ワクチン分科会から報告された1,690例のワクチン接種後の死因も、心筋梗塞、肺炎、脳出血が上位を占める。

ワクチン接種後の死因で最も多いのは状態悪化であるが、死亡診断書には老衰として記載されている例も多いと想像される。このことから、循環器系疾患、呼吸器系疾患、老衰による超過死亡には、新型コロナウイルス感染やワクチンに関連する死亡が含まれていると考えられる。

新型コロナウイルス感染やワクチンに関連する死亡を含まず、医療のひっ迫による影響で必要とする医療を受けられずに超過死亡が生じた可能性のある疾患としてがんを選んだ。がんは死因のなかでは最多であることから、医療ひっ迫の影響で医療機関にアクセスできずに超過死亡が生じるとしたら最も反映されやすい疾患と考えられる。

なお、10月9日時点における3回目コロナワクチンの接種率は、全国では65.5%、沖縄についで接種率の低い大阪府でも58.7%で都道府県間に大きな差は見られない。大阪府の2月と3月をあわせたコロナ感染による死者数は1,546人で全国最多であり、医療ひっ迫の影響を最も受けた都道府県と考えられる。一方、島根県、鳥取県のコロナ感染による死者数はそれぞれ5人、7人に過ぎず、医療のひっ迫があったとは考え難い。

コロナ感染死が一桁にすぎない島根県や鳥取県でも超過死亡は131人、190人観察されておりコロナ感染死の26.2倍、27.1倍にも達する。一方、大阪府、全国の超過死亡はコロナ感染死の2.4倍、3.3倍であった。コロナ感染死の全超過死亡に占める割合は、大阪府、全国では、30%、42%であるが、島根県、鳥取県ではともに4%にすぎない。人口10万人あたりの超過死亡は、全国、大阪府、島根県、鳥取県で24.4人、42.0人、19.6人、34.5人であった。

感染研の見解とは異なり、新型コロナの流行拡大に影響されない原因による超過死亡も全国共通で生じていると見られ、これにより、島根県や鳥取県と大阪府とでは超過死亡とコロナ感染死との比率が大きく異なっていたと思われる。

Lancet誌には、2020年1月から2021年12月までの期間に、世界各国で観察された超過死亡とコロナ感染死との比率が報告されている。米国は1.37倍、ドイツは1.82倍と高所得国では概ね超過死亡はコロナ感染死の2倍以内であったが、日本だけ6.02倍と突出していたことが話題となった。

PCRによる検査数が少なく、診断の見逃しがその原因ではないかと議論されたが、PCR検査が普及した2022年でも同じ傾向が見られる。わが国ではコロナ感染死以外の原因による死亡が超過死亡の多数を占めると考える方が納得しやすい。

図2には、1月から3月における全国、大阪府、島根県、鳥取県のコロナ病床使用率を示す。

図2 各都道府県のコロナ病床使用率

コロナ病床使用率のピークは、大阪府では81%であったが、島根県では45%、鳥取県では29%、全国でも58%であった。重症病棟使用率のピークも大阪府で58%、全国で36%であった。重症病棟が47床ある鳥取県においては、全期間を通じて重症病棟への入院患者は1人で、ほとんどの期間は空床であった。病床使用率をみる限りでは、医療がひっ迫して必要とする医療を受けることができない患者が続出したために超過死亡が生じたとは思えない。

図3には、島根県、鳥取県、大阪府、全国の2月から3月におけるコロナ感染死、自殺、がんによる超過死亡が全超過死亡に占める割合を示す。

図3 死因別超過死亡が全超過死亡に占める割合

全国、大阪府、島根県、鳥取県の超過死亡はそれぞれ30,734人、3717人、131人、190人であった。また、全国、大阪府、島根県、鳥取県のコロナ感染による死亡例は、9,221人、1,546人、5人、7人であった。

この期間の自殺による超過死亡は全国、大阪府ではマイナス110人、マイナス9人、島根県、鳥取県では5人、7人で、全超過死亡に占める割合は、それぞれ0%、0%、4%、4%であった。よって、2月、3月に観察された超過死亡の原因を自殺とするには無理がある。

がんによる超過死亡は全国で1021人、大阪府で37人、島根県で11人、鳥取県で50人であった。超過死亡に占める割合は3%、1%、8%、26%であった。病床使用率とがんによる超過死亡を検討する限りでは、医療のひっ迫を超過死亡の大きな要因とする根拠も見いだせなかった。

コロナ感染、自殺、がん以外の原因による超過死亡が、全国、大阪府、島根県、鳥取県でそれぞれ、67%、57%、84%、66%を占めている。感染研に求められているのは、「広い意味での新型コロナ流行の影響」とは何を指すのかを具体的に述べることである。

先に述べたように、ワクチン関連死は老衰を含め種々の疾患にわたるので、死亡診断書の病名で把握するのは困難である。一方、PCR検査が陽性であれば、たとえ交通事故死やがんによる死亡であってもコロナ感染死に数えられるので、PCR検査が普及した2022年の日本において、水増しはあっても、コロナ感染死が見逃されることはほとんどないと考えられる。

先の論考で、私は、3回目コロナワクチン接種のピークと超過死亡は同時期に観察され、接種回数と超過死亡には、相関係数0.99と極めて強い正の相関があることを示した。以前、鈴木センター長は「超過死亡がワクチン接種数の増加に先立って発生していること」を理由として超過死亡におけるワクチン接種の関与を否定したが、否定する根拠が崩れたからには、改めて、今年になって観察された超過死亡にワクチン接種が関与する可能性についての見解を示すべきである。

超過死亡の原因については、国民の関心も高く、ワクチン接種を進めるにあたっては、まず、超過死亡に関する国民の疑念を晴らすことが必要である。感染研には、その責任があると思う。