地方の好事例を全国に横展開する:データヘルス計画と糖尿病予防政策

政策は突然できるものではない

政策というものは何もないところに急にできることはありません。国の政策はいわば、企業にとっての商品ですが、その政策を作るための原資は皆さんから集めた税金ですし、ひとたび政策が作られれば、おいそれと政策をやめたり、変えたりすることはできません。
そのような性質を持つ政策を、思い付きで作ってしまって後で国民から「欲しかったのはこれじゃない」といわれてしまうと、時の政権は世論の支持を失いかねません。

そのため、新しく政策を実現しようとする場合には、その政策が「今必要とされているものである」こともそうですが、同時に「成功する可能性が高いもの」であることも必要です。

どのような政策がそれに当たるかというと様々ですが、例えば志のある現場の実践者の取組が国の政策担当者の目に留まることもありますし、研究者が積み重ねたエビデンスを元に政策が作られることもありますし、また海外でうまくいっている取り組みが日本に輸入されるケースもあります。つまりは、政策を作る官僚が「この政策なら、前例やエビデンスがあるから、全国で実施しても問題ないな」と思えるだけの何かが必要だということになります。

erdikocak/iStock

地域での好事例が国の政策になることも

そんな「成功する可能性が高い」政策の一つに、地域で成功した政策があります。都道府県や市町村単位で小さく始めた事業が、効果的であることが認知され、全国的に横展開される場合です。地方発全国展開された政策の一つに、糖尿病予防を含むデータヘルス政策があります。

皆さんも体調がわるくなった時には病院に行って診療を受け、医師からもらった処方箋にもとづいて薬局でお薬をもらったりすることがあるかと思います。また、40歳以上の方の場合は、糖尿病や高血圧症などいわゆる生活習慣病を事前に防ぐために特定検診(メタボ健診)を受けている方もいるでしょう。この提供された医療サービスや健診結果は記録され、よりよい医療サービスの提供のための研究などに利活用されています。

データヘルス計画とはこの健診結果やレセプトデータ(医療機関が発行する「診療報酬明細書」のことで、どのような治療を受けたかが分かります)を健康保険組合や市町村などが分析し、その分析に基づいて保険に加入している人(皆さんのことです)の健康課題を改善するための計画のことをいいます。このデータヘルス計画の中には、糖尿病の重症化を防ぐための事業なども含まれます。

このデータヘルス計画は、全国で実施され、その取組に対して、国からも継続的に予算が組まれて(※)いますが、実は、このデータヘルス、広島県呉市で実施されていた事業が全国的に展開されたものなのです。

※保険者努力支援制度という制度の中で、データヘルス計画の実施状況や糖尿病の重症化予防事業の実施状況に応じて、予算を自治体に配分する取組が行われています

地方自治体のどこかで既に実践されていれば、成功のためのノウハウもたまっていますし、失敗を避けるためのtipsも蓄積されているはずです。官僚にとっては、国でイチから新しく政策を始めるよりもよっぽどハードルが低いのです。

逆に良い仕組みを国の政策にとり入れてほしいと考えている、民間サイドの方々にとっても、いきなり国でいちから政策を実現してもらうという途方もなく高いハードルを越えようとするより、小さく自治体などで取り組みを開始し、好事例を作り上げた後に国の政策として実現することを目指す方が現実的な場合もあります。

今回は呉市の事例がどのように全国に波及していったか、その経緯をたどりつつ、その成功の要因をできる限り一般化してみようと思います。

(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。