国連広報部が18日、配布したプレスリリースによると、「ウクライナに関する独立国際調査委員会」は、2022年2月下旬から3月にかけて首都キーウ、チェルニーヒウ、ハリコフ、スミ地域で起きた事件の調査の結果、ロシア軍の一連の戦争犯罪、人権侵害、および国際人道法違反が行われてきたこと、特定された違反の重大さを考えると、説明責任の必要性が否定できないことなどをまとめた報告書を国連総会に提出した。
同委員会は国連人権理事会が設立したもので、ロシア軍が2月24日、ウクライナに侵攻して以来、ロシア軍がウクライナ各地で行ってきた人権の侵害、国際人道法違反、それらに関連した犯罪を調査してきた。同委員会は来年3月、国連人権理事会に、違反の責任者の説明責任を含め、調査結果と勧告を提出する予定だ。
同委員会のエリック・モーセ議長は、「これらの違反がウクライナ国民に与えた影響は計り知れない。命の損失は数千に上り、インフラの破壊は壊滅的だ」と述べている。報告書では、ロシア軍による攻撃を受けた人口密集地域で爆発兵器が無差別に使用されたこと、ロシア軍が逃げようとしている民間人を攻撃した事実などが記述されている。
同委員会は27の町と入植地を訪問し、191人の犠牲者と目撃者にインタビューした。調査官は、武器の残骸だけでなく、破壊された場所、墓、拘留と拷問の場所をも調査し、多数の文書と報告書を調べた。同委員会は5月の決議で指定された4つの地域―キーウ、チェルニーヒウ、ハリコフ、スミ地域で犯された違反行為に特に注意を払った。
報告書は、「ロシア軍は、戦争犯罪を含む、特定された違反の大部分に責任がある。一方、ウクライナ軍側にも戦争犯罪に該当する2件の事件を含む、国際人道法違反を犯したケースは数件ある」という。
また、報告書では、「焦点を当てた4つの地域全体で、ロシア軍が占領した地域で即決処刑、不法監禁、拷問、虐待、レイプ、その他の性的暴力が行われた」と記録している。人々は拘束され、ロシア連邦に不法に強制送還された人もいれば、いまだに多くの人が行方不明になっている。性的暴力はあらゆる年齢の被害者に影響を与え、子供を含む家族は、犯罪を目撃することを余儀なくされた。そして「愛する人を失った家族は、正義が行われることを強く必要としている」と記し、犯罪を行ったロシア軍関係者に対する公平な審判を求めている。
ところで、バチカン・ニュースにはウクライナのユダヤ人ホロコースト追悼施設バビ・ヤールで働き、現在はウクライナ北東部で起きた虐殺と残虐行為について、ウクライナ人から証言を収集しているパトリック・デボワ氏の話を紹介している。
同氏はフランスのカトリック神父だ。彼は17年間、フランスの司教会議でユダヤ人とキリスト教の対話を担当。同時に、キーウ近くのバビ・ヤールでの「ホロコースト」を調査してきた。バビ・ヤールで1941年9月、ドイツの「作戦部隊」が約3万4000人のユダヤ人を処刑したところだ。デボワ氏は数年前、テロリストグループ「イスラム国」がイラクでヤジディ教徒に対する大量虐殺を行った時にも調査した。そのデボワ氏は現在、ロシア軍に侵略されたウクライナの地域を調査している。戦争で大量虐殺が行われた場所でその事実調査を行ってきた専門家ともいえる。
デボワ氏はバチカン・ラジオで、「ウクライナで集団墓地が発見されたと聞いて、大きなショックを受けた。ヨーロッパでは、サラエボとスレブレニツァ以来、集団墓地はこれまで見られなかったからだ」と述べている。
同氏は、「誰かが行方不明になり、父、息子、または兄弟がブチャまたはイスジュムの集団墓地の1つに埋葬されているのではないかと考えている家族のことを考えなければならない。集団墓地は記憶の根絶だ。子供、女性、男性など、全ての死者が1つの穴に埋葬されているため、人の記憶が故意に消去される。大量虐殺者はそのことを知っている。アイデンティティの根絶だ」という。
デボワ氏は、「ウクライナで見たり聞いたりしたことは、聖書の最初の話、カインとアベルの物語を思い出させる。残念ながら、アベルに対するカインの犯罪はまだ終わっていない。カインはアベルを殺し続けている。アベルを助け、証拠を確保しなければならない」と説明し、ドイツ系ユダヤ人の詩人ヒルデ・ドミン(1909年~2006年)の「アベル、起きなさい」という詩を紹介している。カインが弟を殺さなかったならば、そして倒れたアベルが起き上がったならば、兄弟殺人という忌まわしい出来事はなかったことになる、そうであってほしい、という切ない願いが込められた詩だ。
最後に、デボワ氏は、「人が如何に簡単に殺人者になるかという発見にショックを受けている。『殺してはならない』という戒めに違反する者は、凶悪犯かサイコパス(精神病質者)だと思うかもしれないが、そうではない。全ての人間は危険にさらされており、殺してはならないという戒律が撤去され、殺人が合法と思われる世界に閉じ込められている人間は、怪物として目覚める」と述べ、戦争という殺人が合法化された世界の怖さを指摘している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。