元環境運動家が原子力発電を推進:『地球温暖化で人類は絶滅しない』

地球温暖化に関しては僕はど素人ですが、ここ数年で多くの本を読んできました。

それらは、ノーベル賞級の経済学者であったり、

ウィリアム・ノードハウス (著)「気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解」

世界トップレベルの気候変動関係の科学者であったり、

スティーブン・E・クーニン (著)「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」

で、研究者の立場からのものが多かったように思います。

今回紹介する本は、長年発展途上国支援を経験されている、元環境運動家の方の本です。

マイケル・シェレンバーガー(著), 藤倉 良 (翻訳), 安達 一郎 (翻訳), 桂井 太郎 (翻訳)「地球温暖化で人類は絶滅しない: 環境危機を警告する人たちが見過ごしていること」

アマゾンの紹介によると、著者のマイケル・シェレンバーガーさんは、タイム誌の「環境の英雄」、スティーブンス工科大学科学著作センターが贈る2008年グリーンブック賞の受賞者で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書の専門査読者でもあるそうです。

元環境運動家の方が、考え方を変えて、原子力発電を強く推進することが根底にある内容の本ですが、さすが元環境運動家だけあって、その活動中に疑問に感じたことや、環境運動の内情が詳しく12章に渡って綴られています。シエラクラブといえば、アウトドア好きな僕としては、キャンプで使うシエラカップを連想しますが、その創設者ジョン・ミューアさんや会長のウィル・シリさん達をめぐるエピソードは、すごく迫力のあるものでした。

アフリカの人々の援助に関して、著者のシェレンバーガーさんの経験から、彼らの欲している援助は、先進国が「押し付けている」ものとは違っていることがよくわかります。

つまり、途上国の人々は今日明日の生きるか死ぬかの生活でエネルギーを欲していて、それは決して太陽が照っている時だけ発電する再エネではなく、石炭火力などの化石燃料での安定した発電、そして巨大なダムによる水力発電なのです。そして、遠い将来の地球の気温が数℃上がることなど、先進国の贅沢な悩みだということです。

アフリカへの援助の件では、かつて読んだ日本が誇る世界銀行の服部正也さんの本、

服部正也 (著)「ルワンダ中央銀行総裁日記」

につながるものを感じました。つまり、発展途上国の援助に対する服部氏の哲学、(1)途上国の実情と特性に根差した援助政策の重要性、(2)国際機関や援助国の政府・人々は途上国の政府・人々に対して人種的偏見や蔑視の念を持たず、生の声に耳を傾ける謙虚さの必要性、を感じたというわけです。

エピローグで触れられている

ほんの数年前までは原子力発電所は選択肢の一つにすぎないと見られていたが、今では気候変動に対処するために欠かせないものと見られるようになった。

Shellenberger, Michael. 地球温暖化で人類は絶滅しない: 環境危機を警告する人たちが見過ごしていること (Japanese Edition) (p. 418). Kindle Edition.

という部分は、確かに世界は確実に原子力に回帰していて、現在原子力に消極的な国はイタリアとドイツと日本のみという、80年前と似たような、この三カ国が世界から孤立した状況になりつつあるような気もしています。

世界での現在での原子力回帰の動向がよくわかる本なので、試し読みできる「日本語版に寄せて」の部分だけでも、読んで損はない本書だと思います。そこには、環境アラーミストたちが、原子力に対する大衆の不安を利用して、核兵器と原子力発電を意図的に混同させようとしたとの記述もあります。

アマゾンの書評はこちらをご覧ください。

動画のノギタ教授は、豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めています。