今週、ドイツ最大の週刊紙であるDie Zeit(以下、ツァイトとする。発行部数は100万部をはるかに超える)はBjorn Stevens(以下、スティーブンス)へのインタビューを掲載した。ツァイトは、高学歴の読者を抱えている。
スティーブンスは、ドイツの気候科学研究とモデリングの中心であるマックス・プランク気象学研究所の所長である。気候感度、エアロゾル、特に雲に関する研究でよく知られている。スティーブンスは、世界気候研究プログラムの「雲、循環、気候感度に関するグランドチャレンジ」の共同主幹コーディネーターを務めている。
ある臨界的な気温「ティッピング・ポイント」を超えると「温暖化の暴走」が起きて止まらなくなり、破局が訪れるという気候危機説を日本でもNHKなどがまき散らしている。しかしスティーブンスは「ナンセンス」で「科学的な精査に耐えない」として退けている。
以下はそのインタビュー記事の抄訳。(英訳記事、ドイツ語原文)
ツァイト:気候の議論において、科学者はどこまで恐怖を拡散することが許されるのだろうか? 雲の研究者ビョルン・スティーブンスは、仲間の研究者たちが気候危機説をまき散らしている(=alarmism)ことを非難している。彼はこう言う。「私たちはまだほとんど何もわかっていない」。
(ドイツにある著名研究機関である)ポツダム気候影響研究所の科学者たちは、最近、最悪のシナリオを発表しました。今世紀末には地球が非常に暖かくなり、すべての雲が実質的に蒸発し、私たちは絶望的な状況に陥る可能性があるとも言及しています。
スティーブンス:それはナンセンスです。簡単に言えば、空気が上昇するため、大気は曇ることを望んでいるのです。雲をなくすのは難しいのです。
ツァイト:ポツダムの気候研究者は、なぜそうではないと主張するのですか?
スティーブンス:それは彼らに聞いてみないとわかりません。ポツダムの研究者たちが、専門的な文献をくまなく調べ、最も憂慮すべきストーリーを懸命に探していることには、感心するばかりです。ただし、それが無批判に紹介されるのは残念なことです。
ツァイト:では、シナリオは間違っているのですね?
スティーブンス:そうです。そのシナリオは、私たちの研究所の結果を誤って用いています。さらに、欠点だらけのもう1つの論文に基づいています。
ツァイト:どんな欠点があるのですか?
スティーブンス:このシミュレーションにおける気候の劇的な振る舞いは、雲の過度な単純化に基づいており、現実とは全く関係がありません。よく検討すると、極端な気候危機説(most alarming stories)は、科学的な精査に耐えられないことが多いのです。
ツァイト:南極の氷床が溶ける、メキシコ湾流が崩壊する、アマゾンの熱帯雨林が砂漠化する、といったティッピングポイントの予測についても同様でしょうか?
スティーブンス:はい、その他もほとんどそうです。もちろん、地球温暖化によって世界は変化する。地域によっては、それはさらに劇的な変化になるでしょう。しかし、いつ、どこで、どのように変化するかは、まだまったく確かではない(far from certain)。
ツァイト:ドイツの気候に関する言説では、ポツダム研究所はいつもティッピングポイントについて警告を発していますが、あなたの研究所ではティッピングポイントの危険性を抑制する傾向がありますね。それはなぜですか?
スティーブンス:ティッピングポイントは科学的に興味深い考え方ですし、存在する可能性は十分にあります。・・・私の研究所では、ティッピングポイントを軽視しているわけではなく、より明確にすることに価値を置いているのです。
ツァイト:ポツダム研究所のメディアへの露出がうらやましいですか?
スティーブンス:誰だって面白くなりたいと思うでしょう。残念ながら、人々は世界の終わりに関する物語を好むのですが、それは私には分からないことです。
ツァイト:地球温暖化は問題ではないということですか?
スティーブンス:大きな問題です。その理由の一つは、実際の影響についてほとんど何も分かっていないことです。IPCCによると、聖書のような干ばつや洪水がいったい起きるのか、それが何処で起きるのか、といったことは、ほとんど全ての地域で不確かです。
ツァイト:PIKの科学者Stefan Rahmstorfは、自分を、「喫煙が危険であることを知り、人々に禁煙を呼びかけなければならない医者」にたとえています。
スティーブンス:私は科学者として、自分が理解した仕組みを人々に説明するのが好きです。しかし、私には、人々に行動を指示する資格はありません。どう行動すべきかは、カリスマ的な科学者ではなく、優れたジャーナリズムによって裏打ちされた、社会的な議論によって立つべきです。もし人々が自分で考えることを止めてしまえば、いずれにせよ負けです。
ツァイト:話を雲に戻します。雲は地球温暖化を加速させるのですか?
スティーブンス:ここで興味深いのは、気候感度という数字です。大気中のCO₂濃度が産業革命前のCO₂濃度と比較して2倍になると、地球がどれだけ暖かくなるかを数値化したものです。2020年のIPCC報告書では、世界の平均気温はおそらく2.5から4℃上昇するとされています。シミュレーションによると、高めの気温上昇は主に雲の変化によるものです。しかし私たちは、この影響は今日、過大評価されていると考えています。
ツァイト:モデルに欠陥があったのですか?
スティーブンス:そうです。これまでは雲のモデルが単純すぎました。世界気候研究プログラムの中で、私たちは気候モデルに取り組みました。最も極端な予測をしたモデルは失敗し、より破滅的でない気候感度の値への信頼が高まった。しかし、私の考えでは、雲の寄与はまだ過大評価されています。
ツァイト:どの程度ですか?
スティーブンス:最新の測定と理論の進歩に基づいて、私は今、ゼロだと言います。
ツァイト:ゼロ? ゼロですか?
スティーブンス:そうです。少なくとも私の作業仮説はそうです。そうすると、気候感度はIPCCの予測の下限である2.8℃程度になります。今のところ、雲が大きな役割を担っているという証拠はありません。
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。