山本太郎さんの「政府の赤字はみんなの黒字」という話に米山隆一さんが噛みついていますが、これはトートロジーで、そこからは何もいえません。2022年10月31日のこども版です。
Q. 政府の赤字はみんなの黒字なんですか?
はい。それは当たり前のことです。赤字は簿記では「負債」といいますが、ある会社が銀行から運転資金を1億円借りたら、その会社の負債になりますが、銀行にとっては1億円の「資産」になります。
同じように政府が国債を発行して1000兆円の赤字になると、貸している国民は1000兆円の黒字です。これは会計上の恒等式で、いいことでも悪いことでもありません。
Q. では財政赤字は問題ないんですか?
財政赤字をゼロにする必要はありません。世の中にまったく借金しないで営業している会社は、ほとんどありません。借金しても、それを返せればいいわけです。問題は借金の大きさではなく、支払い能力なのです。
日本国民は政府の支払い能力を信頼しているので、借金が大きくなっても問題が起こりません。経済全体でみると、国にお金を貸している(国債を買っている)人にとっては国債は資産なので、プラスマイナスゼロです。だからもっと国が借金すれば、国民の黒字が増えて豊かになるのだ、というのがMMTのみなさんの話です。
Q. それなら税金はいらないですね?
MMTのみなさんは、そう主張して「税は財源ではない」と言っています。国の歳入を100%借金でまかなえば、夢のような無税国家ができますが、そんなことはできません。借金はいつか返さないといけないからです。
これは会社でも国でも同じです。会社の場合は利益を上げて借金を返しますが、国の場合は子供や孫の世代が税金で返します。国債は、税金の前借りにすぎないわけです。
お札を印刷して返すこともできますが、それはインフレが起こったら終わりです。今はすでにインフレ率が3%になったので、MMTのいう「インフレになったら増税する」という状況になっています。
Q. 財政赤字で国民は豊かになるんでしょうか?
国債は国内で発行する場合は、民間のお金を国に移転するだけなので、純負担にはなりません。需要不足があるときは、財政支出で雇用をふやすことができます。これが財政赤字のメリットですが、それを将来、税金で返すときは負担が発生します。
国債を買う人は余ったお金で(ほとんどは銀行預金を通じて)買いますが、将来それを増税で返すとき、税金は強制的にとられるので、将来世代の消費は減ります。これが国債の純負担です。
Q. 子供は親の財産を相続できるので、家庭全体としては損得ありませんね?
家計金融資産は、日本全体で2000兆円ぐらいあるので、国の借金(一般会計)が1200兆円あっても、親の財産を相続できる子供や孫の世代は豊かになるようにみえます。でもこれ以外に、社会保障の簿外債務があります。
これは年金や医療保険の支払いが社会保険料の収入より多いため、社会保障特別会計の赤字を毎年30兆円ぐらい一般会計から穴埋めしているものです。これはバランスシートに計上されていない隠れ借金ですが、これから高齢化でどんどん増えていきます。
Q. ぼくの世代は損するんでしょうか得するんでしょうか?
一般会計の債務は1200兆円ですが、国有財産などの資産があるので、純債務は700兆円ぐらいです。ただそれに加えて、社会保障特別会計(年金・医療・介護)の赤字(簿外債務)は、今後30年で1600兆円(純債務ベース)にのぼる、と鈴木亘さんは計算しています。政府債務は、合計2300兆円です。
それに対して家計金融資産は2000兆円ですが、負債(住宅ローンなど)が600兆円あるので、純貯蓄は1400兆円で、900兆円足りません。みなさんの相続する資産は社会保障の借金で食いつぶされているのです。
Q. そうすると子供や孫はどんどん貧乏になるんでしょうか?
そんなことはありません。借金を返さないで次の世代に先送りすれば、ネズミ講で財政は維持できます。人類はいつか滅亡するので、文字通り無限に先送りすることはできませんが、100年先送りできれば、よい子のみなさんにとっても十分でしょう。
問題は借金に金利がついて、元利合計がどんどん大きくなることです。今はゼロ金利なので、みなさんは金利をあまり気にしていないと思いますが、3パーセントの金利がつくと、1000兆円の借金は30年後には2000兆円になり、国の予算は金利の支払いだけでなくなってしまいます。
また戦争や災害が起こると借金を返済できなくなり、財政が破綻します。ロシアの国債が暴落したのは戦争が原因ですが、日本にも同じようなことが起こらない保証はありません。MMTが国債と通貨を区別しないで金利をゼロと想定しているのは、政府のリスクをゼロと考える平和ボケです。
Q. ではゼロ金利が100年つづくなら問題ないわけですね?
全国民がそう信じればいいのですが、金融市場がそれを信じないと、イギリスのように国債が暴落して政権が倒れます。日本でそういう金融危機が起こっていないのは、日銀が国債を買い支えているからですが、その代わり円安が起こっています。
だからドルベースでみると、みなさんの貯金は大幅に目減りしています。1年前には日本の家計金融資産は17兆ドルでしたが、今は13.6兆ドル。日本人は1年で20%も貧しくなったわけです。
厄介な社会保障に手をつけないで、仲よく貧しくなるのが安倍政権以来の日本の経済政策ですが、みんなが平等に貧しくなるわけではありません。お年寄りの黒字はよい子の赤字なので、社会保障の大きな不公平を放置していると、日本の衰退は加速するでしょう。