スラム化もあり得る困難な空き家対策:今でも年間80万戸が新規供給

改めて日本での空き家対策が話題になっています。というより、日本は戸建てとマンション、アパートといった住居があまりにも多すぎます。人口が減っているし、子供の数はどんどん減っているのにそれでも年間80数万戸程度が新規に供給されています。

キーワードは「出生者数より住宅供給戸数の方が多い国」であります。21年の出生者数は81万人強で今年は80万人を割る勢いで、明らかに住宅供給が人口を凌駕しているペースなのです。我々は中国の住宅市況がどうこう言いますが、実は日本は住宅政策が相当病んでおり、放置すれば日本はスラム化することすらあり得るのです。

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何故スラム化すると考えるのか、と言えば古家がそのまま放置されるからで、所有者すらどこにいるかわからない状態で手入れされず、雑木が生い茂るようではゴミ放置と同じなのです。以前、不動産取引上、あるお宅に伺ったところ、天井は雨漏りの跡で腐りかけており、家の中はぐちゃぐちゃでした。でも人は住んでいるのです。思わずうなってしまいました。

不動産価値というのはお住まいになっている方がどれだけその家を大切にしているかで家の状態が見えることもあります。きちんとしている家は劣化したところをこまめに修理しており、悪化を一定程度、防止しています。が、何もしていない家はもともとの問題が小さくてもそれが加速度的に他のところに悪さをして家として居住できないほどになってしまうのです。人間のカラダと同じなのです。

11月1日の日経の一面トップは「マンション改修の要件緩和 同意8割に 政府検討、老朽化対策促す 建て替えず長期利用」とあります。現時点で築40年以上のマンションが116万戸あり、今後急速にそれが増えていく中、大規模改修をしやすくするために居住者の同意が8割程度あればそれを実施できるというものです。

しかし、これが仮に8割だろうが、将来7割に引き下げられようが物理的に修繕積立金を超える金額の大規模改修は現実的ではありません。理由は至極簡単。誰がお金を出すのか、であります。これではアイディアがなさすぎるのです。例えば高齢者が一人でお住まいの場合、大規模改修するから1500万円出してくれ、と言われて「はい分かりました」と言えますか?あるいは年金暮らしのご夫婦に退職金の一部からねん出してくださいと言えますか?無理です。それに仮に大規模改築が8割の住民の同意で実施しても100%の住民に金銭負担は公平にしてもらわねばなりません。これでは大規模改修ならぬ「大規模(資金)回収」の大仕事になるのです。

私の友人が「東京に不動産を購入して自分と姉妹のセカンドハウスにしたい」という相談を受け、一言、「価格に釣られて中古のぼろマンションは絶対に購入してはいけません」と申し上げました。理由は簡単。将来売れないし、修繕費がかさみやすいからです。基本は絶対に戸建て。古家があったほうが都合がよいです。理由は柱一本の残した「大規模改修=リノベーション」が役所の許可なくできるからです。そしてどんな古家が建っていようが土地は腐らないのです。マンションは自分の土地が持ち分比率だけで表示されるため実質、土地を持っているとは言えないのです。

では古いマンションの問題、お前ならどうするか、と問われると思います。ずばり、改修なんてやめて既存の住民から各戸を買い取り、全面建て替えが最もたやすいと思います。この仕組みは容積率の大幅緩和措置を当局がしてくれること。これが前提です。つまり、政府は古い建物を長持ちさせる手段ではなく、容積率緩和という伝家の宝刀を抜けばよろしい。

例えば今、10階建てのマンションがあればそこに15階建てが作れる緩和措置をするのです。するとある程度は住宅を買い取っても元が取れるはずです。また、かつての等価交換方式を適用して既存住民はその住宅価値と同額の優先取得の権利を新築のマンションに適用することができるようにしたらよいでしょう。例えば古いマンションの部屋の価値が1500万円だったら新築になって価値が5000万円になった場合、3500万円払ったら住めるというものです。実際には計算上権利の価値を引き上げられると思いますので買取なら1500万円、等価交換なら2500万円といったメリハリをつけるアイディアは例えですが、あると思います。

では誰が立て替えるのか、と言えば特別目的会社を作るのがありだと思います。実質NPOですね。そうしないとデベロッパーに3割も利益を抜かれることになります。

戸建ての空き家はどうすべきでしょうか?私はすべてのネックは固定資産税にあると思うのです。更地にすると土地にかかる固定資産税が最大6倍になるという役人がずっと放置しているこのルールをさっさと改正することだと思います。

その上で市町村なり政府の機関が空き地を一定要件で買い取る仕組みが面白いと思います。英語でLand Bankというのですが、そのような政府が所有する土地をある程度一団にして政府主導で都市計画を推し進めるのです。広い緑地をもつ総合開発や高齢者向け施設など住民サービスの拡充に応用が利くようになります。

住宅政策については私は政府の責任が大きいと思っています。つまり、「国民に住宅所有の夢を実現させよ、産めよ、作れよ」をずーっと変えることなくやってきているのです。国交省は時の状況を見て、この方針を変えるべきだったと思います。

大規模改修するならまずは国交省から、と私は申し上げたいです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月2日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。