ルラ元大統領勝利も前途多難なブラジル:左派政権ばかりのラテンアメリカ

議会議席数では右派が有利な立場にある

10月3日の決戦投票でボルソナロ現職大統領を破って来年1月に大統領に復帰することが決まったル

ラ元大統領の前途は洋々たるものではない。2003年から2010年まで大統領だった当時と比べ、ボルソナロ支持派が議会の議席数では有利に立っており、また有権者も完全に二分しているからだ。

連邦下院ではボルソナロ支持派が226議席を占め、左派の197議席を上回っている。それに90議席が両派に属さない独立派となっている。23政党があるので交渉の巧みなルラ氏のこと、この独立派を自分の有利な方に靡かせルことは可能性としてある。

1回目の投票では両者の票差は500万票であったのが、決戦投票では僅か200万票まで縮まっている。これは得票数から見ると僅か1.7%(50.8%対49.1%)の差でしかない。ルラ氏はこれからボルソナロ氏に票を投じた有権者の半数をも納得させる政治をして行かねばならないことになる。

2大自治州の州知事はボルソナロ現大統領支持者

ブラジルの2大州であるサンパウロとリオデジャネイロではそれぞれ11%と13%とボルソナロ氏への支持票が上回った。ミナスジェライス州でも1回目の投票ではルラ氏が4%の差をつけたが、決戦投票では僅か0.2%までその差が縮められた。

また、上述した3大自治州の州知事はボルソナロ支持派が選ばれた。この3つの州の人口は全体の45%を占めるということで、ルラ氏にとっては無視できない状況にある。

特に、サンパウロとリオデジャネイロは国の経済と金融を担っている自治州で左派のルラ氏が大統領に成ることを企業家が最も嫌っていた州だ。

ルラ氏が勝利を確実にしたのはバイア州で、ボルソナロ氏に360万票の票差をつけたことであった。この州でもボルソナロ氏が票差を縮めていれば結果は逆転していた可能性もある。(10月30日付け「パナムポスト」から引用)。

サンパウロフォーラムの復活

中国はルラ氏の復帰で、ラテンアメリアの15ヶ国を包括したサンパウロ・フォーラムの復活に力を入れて行くはずである。中国にとってブラジルはこれまでラテンアメリカの入口としての関係を保って来たが、ボルソナロ氏の政権時にこの関係が幾分か冷却していた。しかし、それでも両国の商取引は2004年に90億ドルであったのが2021年には1350億ドルまで拡大している。(10月31日付「パナムポスト」から引用)。

一方の米国はこれを機縁にルラ政権に接近して、これまで中国に奪われている影響力の回復に努めて行くはずである。その意味もあって、これまで米国寄りだったボルソナロ氏の開票結果への不満をよそに、バイデン政権はルラ氏の勝利を直ぐに認めた。

ルラ氏はバイデン政権の支持を利用して両国の関係をより深くしようと努めるはずだ。ブラジルが望んでいるのは日本と同様に国連での常任理事国の議席の確保を求めるはずだ。同様に米州開発銀行(BID)と国際通貨基金(IMF)における地位の上昇も狙っている。その為には米国からの支援が絶対に必要となっている。

ルラ氏の貧困層撲滅の戦いが再び再開する

また国内では貧困との戦いを最優先としている。ブラジルには3300万人の貧困者がいるとされている。ルラ氏の目標は貧困層が一日3度の食事を取ることができるように保障することである。そしてもうひとつは今回の選挙で二分した国の統一を図ることである。

また、環境保護も優先事項の一つとし、その中でもアマゾンのこれまでの森林伐採による破壊活動を阻止することだとしている。

ルラ氏が勝利したことによって、ラテンアメリカは再び左派政権で主要国は締められることになった。メキシコ、コロンビア、チリ、アルゼンチンそしてブラジルとなった。ペルーも左派政権になったが、全く安定しない政権が続いてる。

勝利したルラ元大統領STILLFX/iStock