大阪急性期・総合医療センターがランサムウエアに乗っ取られる悪夢

大阪急性期・総合医療センターの悪夢

大阪急性期・総合医療センターがランサムウエアに乗っ取られ、診療ができない状況が続いている。この医療センターは、かつて大阪府立病院と呼ばれていた病院だが、私は1978年の1年間、この病院の救急医療専門診療科に勤務していた。

当時はERというようなしゃれた名称はなく、切った張ったの血にまみれた医療現場だった。しかし、私にとっては外科医としての原点を学んだなじみのある病院だ。患者さんのためにもなんとか早く復旧してほしい。

電子カルテが乗っ取られ、診療上にアクセスできなければ、適切な医療ができない。診療情報がなければ、どの薬を処方していいかわからないが、慢性疾患の患者さんには継続的な薬剤の投与は不可欠だ。ハッキングのみならず、大震災・津波や台風による水害で、電子カルテや紙カルテが失われ、診療が継続できない状況を何度も経験したはずだが、この国は何も学んでいない。そもそも、個々の病院が最新の情報セキュリティー対策をできるはずがないのだ。

情報分野の教育もできていない、したがって、十分な数のIT人材がいない、日常業務に追われて職員の情報教育がおそまつなのだから、いつ、どこで、このような事態が起こっても不思議ではない。時代の波に追いつけず、ボロが出てから、部分的に修復していくようなことを繰り返しているので、全体がゆがみ、もはやどうにもならないのだ。

それに加え、貪欲な電子カルテ企業が、目先の己の利益だけ考えているから救いがたい。一度、どこかの企業の電子カルテを導入すると骨の髄までしゃぶりつくされるような状況が続いている。

全国統一のクラウド電子カルテの導入を

お金も、時間もかかるが、今、日本がすべきことは、

  • クラウドシステムを利用して電子カルテを統一化すること
  • 企業に任せても、面の皮の厚い人たちが張り合って前に進まないので、国がひな型を作って、提供すること(まちがっても、特定の企業に業務委託しないで欲しいが、国の機関に人材がいるのかも定かでない。もしそうならば、国家として怠慢だ)
  • 当然だが、物理的に離れたところに、バックアップ用のデータを保管すること
  • クラウドセキュリティーは専門性の高い業者に一任すること(ただし、情報流出などの問題があれば企業が責任を取る契約とすること)
  • さらに、個々人の健診・診療情報をスマートフォンに保存できるようにしておくこと(スマホが使えなければ子供が保管する形でもいい)

これができれば、

  • どこかで問題が起こっても診療情報の喪失が起こる可能性は極めて低い
  • 病院を転院しても、その方の診療情報が継続して利用可能となる(医師の顔色を見ながら、セカンドオピニオンの診療情報提供書を依頼しなくてもいい)
    旅行中・出張中の急変でも、その人に適切な治療が提供できる
  • 個人個人の判断で、医療情報データを新しい医療創出のために提供することができる(当然、協力した方には、新しい情報、その方に役に立つ情報を還元するべき)
  • 大規模データに基づき、AI開発が進み、画期的な個別化治療法や診断法の創出につながる

理屈の上でもわかっていても、政治や行政が蜘蛛の糸のように利権に縛られているので、大きな改革ができないのが日本だ。このままでは、国全体で弱っていくのを眺めるしかない。一部の企業のために、日本沈没を招くのを待っていてはならない。

デジタル大臣の突破力に期待したい!

tadamichi/iStock


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。