元スペイン代表イニエスタも経験!意外と身近なうつ病

サッカー界はワールドカップイヤーということで大きな盛り上がりを見せています。

そんなタイミングなのであまり注目されなかったようですが、実はサッカーの元スペイン代表、ヴィッセル神戸所属のイニエスタ選手が出演したポッドキャスト番組でうつ病に苦しんだ過去について話し、話題となっています。

「妻を抱きしめても、何も感じない」イニエスタが自身の経験した壮絶な“うつ”体験を改めて振り返る「薬を飲んで寝る時だけが…」 | サッカーダイジェストWeb
 ヴィッセル神戸所属の元スペイン代表MFア&#1253...

世界一とも言える大成功を収めたサッカー選手なのに…

イニエスタ選手といえば、バロンドールを何度も受賞したリオネル・メッシと並び称される名選手です。世界的な名門バルセロナで長く中心選手として活躍し、数々の栄冠をつかんできました。

イニエスタ選手
本人Twitterより

サッカー選手として誰もが羨むような珠玉の成功をつかんできたイニエスタ選手ですが、なぜうつ病に陥ってしまったのでしょうか?

イニエスタ選手は同番組でこのように語っているようです。

人生でうつ病やメンタルヘルスは誰にでも起こり得るものだと教えてくれる。物理的な問題とはまた違うんだ。たとえ、世界中の車や多くのモノを手に入れられたとしても、人生の問題に対処するのはとても難しいんだ。

(サッカーダイジェストwebより引用)

うつ病のきっかけは生きる意味の喪失

イニエスタ選手の個人的な人生の問題はさておき、人生の問題を抱えない人はいません。特に次のような出来事がそのきっかけになりやすいです。

  • 婚約破棄(口約束や一方的な片思いも含む)
  • 家族や配偶者、親友など心を預けていた誰かとの死別
  • 挫折や目標の達成、環境の変化による次の目標の喪失

これらの出来事は自分の存在する理由疑わせる可能性があります。

人はたとえ未来に導かれて生きる生き物です。実は人の脳はこの先の展望を求めるように作られているのです。

うつ病は「実存の病」とも呼ばれていますが、私たちは生きる意味を見失うことでうつ病に陥るのです。

脳が悲鳴を上げることも…

また、次のような状況もうつ病のきっけかになりやすいです。

  • 長時間労働や休みを取らないなどの働きすぎ
  • 難しい役職や大変な役割など責任の抱え込みすぎ
  • 周りから期待のされすぎ
  • 結婚や昇進など期待と絶望が交錯する人生の転機

これらは、いわゆる高ストレス状態です。心の負担、または心身の負担が高い状態が長期間続くことで脳が悲鳴を上げやすくなります。

脳が悲鳴を上げる…詳しくは省きますが、ストレスホルモンの影響で、脳内の血流が変わり、悲鳴をあげる部分にエネルギーが集中します。すると、合理的に考えることも、この先を展望することも難しくなって、うつ病に陥るのです。

うつ病は誰でも、何をきっかけにもなり得る

大事なことは、うつ病のきっかけは婚約破棄や死別、長時間労働のような誰が見てもつらい状況だけでないということです。目標の達成や結婚、昇進といった一見すると「おめでたい」こともうつ病のきっかけになることです。

うつ病な誰でも陥るという事実を前提としなければなりません。そして、その予兆を見逃さない事が重要です。たとえば…

  • 何だか何事も楽しめない
  • 何だか悲しい気持ちがずっと心の奥にある

と感じたら、うつ病に陥り始めたサインです。

秋から冬は要注意!自殺幇助事件の背景にも?予兆を感じたら即行動を!

特に秋から冬にかけてはうつ病に陥りやすい季節でもあります。若い方が突然死にたくなる…なんていうことも少なくありません。

PonyWang/iStock

最近、女性の自殺志願者に対する性行為目的の男性による自殺幇助事件が相次いでいます。私はこの背景には、うつ病の問題があったのではないかと考えています。

うつ病のサインを感じたら遠慮なく「いのちの電話」のような公的な対話サービスを使ってください。近年はSNSで相談できるサービスもあります。このようなサービスで気を楽にしてくださる方も少なくありません。

でも、本当は身近な人が理解してくれると一番気が楽になるのです。あなたの周りに、楽しめない、悲しい…と訴える方がいたら、優しく理解を示してあげてください。アドバイスや助言はいりません。ただ、「そうだね…」と聴いてあげるだけで、脳レベルで反応して楽になるのです。

45歳以上はもっと注意を!

さらに45歳以上方、特に高齢者と言われる方は要注意です。街や時代の移り変わりによる「リロケーションダメージ(自分が慣れ親しんだ街並みや風物が変わってしまって悲しい気持ちがあふれる現象)」をきっかけにうつ病に陥る場合もあります。

現在、コロナの影響でお気に入りのお店が消えた…、街が変わってしまった…、などのリロケーションダメージが起こりやすい状況でもあります。うつ病に陥らないようにご注意ください。

うつ病は実は誰にでも起こり得るとても身近なものです。自分自身の、そして周りの方のサインを見逃さずに、早めに対処しましょう。専門家による適切な支援を受ければ、慢性化する前に回復することも可能です。

コロナに目が行きがちな昨今ですが、今日にでも自分自身に、そして身近な誰かに起こり得るという前提で注意していただければ幸いです。

杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
大人の杉山ゼミナール、オンラインサロン「心理マネジメントLab:幸せになれる心の使い方」はでメンバーを募集中です。心理学で世の中の深層を理解したい方、もっと幸せになりたい方、誰かを幸せにしたい方、心理に関わるお仕事をなさる方(公認心理師、キャリアコンサルタント、医師、など)が集って、脳と心、そしてより良い生き方、働き方について語り合っています。