米10月消費者物価指数(CPI)は前月比0.4%上昇し、市場予想の0.6%を下回った。前月の0.4%と変わらず、3カ月連続で上昇した。住宅が前月比の伸びの半分を占めたように、全般的にインフレの鈍化を確認した格好。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が後退し、ターミナル・レートが下方修正され、米CPI前までは2023年末の利下げ転換が予想されたものの、23年9月と前倒しの観測が再燃しつつある。
チャート:FF先物からみたターミナル・レート(各FOMCで最も確率が高いFF金利水準を採用)
(作成:My Big Apple NY)
内訳を前月比でみると、原油価格が80ドル台で推移するなか、エネルギー(全体の7.3%を占める)1.8%上昇し、4カ月ぶりにプラスに転じた。ガソリンも4.0%上昇し、前月の4.7%を含めた3カ月連続でのマイナスにブレーキを掛けた。その他のエネルギーは軟調で、電力など公益は1.2%と8カ月ぶりにマイナスに反転。電力が0.1%と前月の0.4%以下ながら上昇を続けたが、ガスが4.6%低下し3カ月ぶりにマイナスとなり公益を押し下げた。
エネルギー以外では食品(全体の13.4%を占める)が前月比0.8%上昇し、8~9の0.9%を下回った。なお、コロナ禍で経済活動が停止した20年4月は1.4%上昇していた。
詳細をみると、食費が同0.4%と8~9月の0.7%以下に。ウクライナ情勢緊迫化の影響を受けつつも、シリアル・パンが同0.8%と、14カ月連続で上昇をたどる中で2番目に小幅な伸びとなり食費を抑えた。一方で、肉類・卵・魚は逆に0.6%と前月の0.4%を上回り4カ月連続で上昇した。なお、肉類の高騰を背景にバイデン政権は1月3日、寡占状態の食肉加工業者の間で競争を推進すべく、独立業者を支援するため10億ドル投じると発表した。
一方で、外食は3カ月連続で同0.9%上昇、賃上げトレンドを一因に1981年3月以来の伸びとなった6月の水準を保った。
CPIコアは9月まで2カ月連続で前月比0.6%上昇を経て、今回は0.3%と市場予想の0.5%も下回った。なお、21年6月は同0.9%と1982年6月以来の伸びへ加速していた。
チャート:CPIの費目別寄与、前月比は引き続きガソリンなどエネルギーが押し下げたものの食品とその他が上昇を主導
(作成:My Big Apple NY)
食品とエネルギー以外をみると、中古車を始め自動車関連の鈍化が目立った。自動車保険のみ、10カ月連続でプラスとなっただけでなく、力強い伸びを維持した。その他、住宅価格の上昇や在庫不足を受け加速していた帰属家賃や家賃は、高止まりした。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。
(上昇費目)
・宿泊 4.9%上昇、2021年7月以来の高い伸び>前月は1.0%の下落
・自動車保険 1.7%上昇、4カ月ぶりの高い伸びで10ヵ月連続でプラス>前月は1.6%の上昇
・自動車メンテナンス/修繕 0.8%上昇、7カ月連続でプラス<前月は1.9%上昇、6月は2.0%と1974年9月以来の高い伸び
・住宅 0.8%上昇、上昇トレンドを維持し1976年7月以来の高い伸び>前月は0.7%の上昇
・帰属家賃 0.8%上昇、上昇トレンドを維持=前月は0.8%と1990年6月以来の高い伸び
・家賃 0.7%上昇、上昇トレンドを維持<前月は1986年4月以来の高い伸びに並ぶ>前月は0.7%の上昇
・新車 0.4%上昇、9ヵ月連続でプラス<前月は0.7%の上昇
・服飾 0.4%上昇>前月は横ばい
・教育サービス 0.1%上昇<前月は0.2%の上昇
・娯楽サービス 0.3%上昇、10カ月連続で上昇>前月は0.1%の上昇
(横ばい、下落項目)
・医療サービス 0.6 %低下、16カ月ぶりにマイナス<前月は1.0%上昇と少なくとも19年10月以来の高い伸び
・中古車 2.4%の下落、4ヵ月連続で下落<前月は1.1%の下落
CPIは前年同月比で7.7%上昇し、市場予想の8.0%を下回った。前月の8.2%からも鈍化し、9カ月ぶりの低い伸びとなる。CPIコアも同6.3%上昇、市場予想の6.5%並びに1982年8月以来の高い伸びとなった前月の6.6%を下回った。
チャート:CPIの前年比、費目別の寄与もその他が大きい
(作成:My Big Apple NY)
――経済正常化を受け、特に上昇した食品関連を除く費目の前年同月比はまちまち。自動車保険(前月:10.7%→12.9%)を始め、宿泊(前月:3.0%上昇→5.8%上昇)は伸びが加速した。前月比でマイナスだった航空運賃(前月:42.9%上昇→42.9%上昇)は、前月通り過去最高の伸びに。自動車は前月と同じく鈍化し、新車(前月:9.4%→8.4%)より、中古車(前月:7.2%上昇→2.0%)の減速が顕著だった。
チャート:経済活動の再開で上振れが目立った費目、新車と中古車は鈍化も他は高止まり
(作成:My Big Apple NY)
CPIの13.7%を占める食品の前年同月比は、外食も含めそろって鈍化が優勢。肉・魚・卵が7ヵ月連続で伸びが前月を下回った(前月:9.0%→8.0%)した他、ウクライナ侵攻による影響で引き続きシリアル・パン類(前月:16.2%→15.9%)減速。食費(前月:13.0%→12.4%)も伸びを縮めました。外食のみ(前月:8.6%→8.5%)と、1981年4月以来の高い伸びを記録した。
チャート:食費の費目全て、前年比で鈍化が優勢に
(作成:My Big Apple NY)
7.3%を占めるエネルギーは前年同月比で17.6%上昇し、前月の19.9%を大幅に下回り2021年2月以降の上昇トレンドで2番目に低い伸びだった。ガソリンが前月の18.2%から17.5%へ減速したほか、むしろ公益(電力・ガス)も前月の19.9%を下回り15.6%だった。
チャート:生活必需品関連、家賃以外は鈍化傾向
(作成:My Big Apple NY)
物価が高止まりするなか、実質賃金の伸びを押し下げ続けました。9月の実質平均時給は前年同月比3.0%下落、18ヵ月連続でマイナスとなりました。生産労働者・非管理職も2.5%下落し、前月の2.4%から下げ幅を広げています。
チャート:実質賃金の下落に加え、エネルギーや食品、家賃など生活必需品の値上げが消費の重石に
(作成:My Big Apple NY)
インフレ鈍化を受け、FF先物市場では12月13~14日開催のFOMCでの50bp利上げ織り込み度は、米CPI前の56.8%から一時85.4%へ上昇しました
。フィラデルフィア連銀のハーカー総裁が4.5%利上げ打ち止め説に言及するように、ターミナル・レートの見通しも米10月CPI前の2023年3月まで5.25%から、5.0%へ下方修正。さらに、利下げ転換予想も米CPI前の2023年12月から、2023年11月へ小幅ながら前倒しとなりました。ターミナル・レートの予想が5%超え以外に6%超えの声が出ていただけに、米株大幅高、米金利低下、ドル売りを迎えた格好です。
ドル円は米CPI後も続くドル売りに圧され、11月11日のNY時間入りには約2カ月ぶりに140円台を割り込みました。ドル円は、こちらで指摘しましたように10月21日の151.90円台でピークを打ったと考えられます。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年11月12日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。