Twitterは泥沼から這い上がれるのか

Sundry Photography/iStock

当方はTwitterの熱心なユーザーではありません。2006年にTwitterがスタートして日本でも話題になりかけたので1年後くらいにアカウントを作ったのですが、これにかかると時間を取られ過ぎだと感じたので、間もなく放置、そのままになってきました。(何故か加入月日が最近にかわってる?)

でも、このところはTwitter関連の記事にかかりっきりです。Twitterを440億ドルという途方もない金額で乗っ取ったElon Musk氏の破天荒な動きが気になるからです。

Musk氏については、早い時期から天才的な存在だと感じて注目していました。電気自動車Tesla、再利用可能な宇宙ロケットSpaceX、衛星インターネットのStar Link、さらに地下にトンネルを掘って自動車を超高速で移動させるBoring Company等々、発想と実行力は目を見張るものがあるからです。

そのMusk氏が、Twitterを買収するのしないのと揉め続け、ようやく先月末に買収が決まったと思ったら、今度は訳の分からない迷走を続け、傍目には破綻に一直線にも見える行動に出ていて気になるのです。

一体、天才の彼がなにを考えているのかは分かりません。Twitterユーザーの多くもそうだと思うので、この時点で、迷走の軌跡を整理しておきます。(最初にお断りしたように、もともと熱心なユーザーじゃないので間違った解釈があるかもしれないのはご容赦ください)

現時点で、迷走の始まりはTwitter Blueという認証マークの導入だったように思います。まあ、膨大なユーザーを抱えるTwitterは、ピンからキリまでの投稿があり、それがなりすましの可能性もあるので、従来はTwitterが独自に認証して、本人だと認めるblue checkというものがありました。

名前の右についてるチェックマークですね。しかしこれについてMusk氏は「領主と農民のようなシステムでデタラメだ」として、新しい認証マークを提案しました。

それが月に8ドル(正確には7.99ドル)かかるTwitter Blueというもので、この手続きを実際に行ったワシントンポストのコラムニストJeffrey A.Fowler氏の記事によると、これを取得するには「予備の iPhone、クレジット カード、そして少しの創造力の 3 つだけだった」とのこと。

「少しの創造力」というのは、なりすます当人のスペルをちょっとだけ改変したりすることのよう。

Fowler氏は民主党のMarkey上院議員の了解を得て、なりすましアカウントを作成しました。

 

左が従来からの本物で、説明には「政府、ニュースなどで知られた人」なので認証したなどとあり、右のFowler氏が作った偽物には「「Twitte Blueを購入したから認証された」とあります。

MUSK氏に言わせれば、一人が毎月8ドルも払わなきゃいけないんだから、従来のように一人で何百もの偽アカウントを作って偽情報の拡散などできないだろう、っていう思惑と、みんなが毎月8ドル払ってくれれば、大きな負債を抱えるTwitterの収支改善が進み、経営が安定するという計算だったのでしょう。

ところが、当然のようにユーザーは反発します。「俺たちの投稿こそがコンテンツで、それがあってこそ広告が集まってるのに、金を取るなんてとんでもない」ということです。

その中の有名人が作家のスティーブン・キング氏。当初のMuskの言い値が月20ドルだったので、「とんでもない。止めてやる」と大反発します。これに民主党の人気下院議員のオカシオ・コルテス氏らも同調したところ、アカウントが使えなくなるという騒ぎも。

その中で、Musk氏は従業員7500人中、3700人を首切りし、そこには有害情報を監視、排除するグループも含まれていて、これも批判を呼びます。いくつもの団体が広告主にTwitterへの広告出稿をやめるように働きかけますが、これにMusk氏は「不平を言い続けて結構。でもそれには月8ドルかかる」と開き直りのようなツィートで応えます。

実際に幾つかの有力広告主が出稿を停止し、コメディアンらがなりすましの発言をすると「そんな連中は警告なしにアカウントを永久停止」と応じたり、一方でレイオフしたエンジニアの一部に復帰を働きかけたり・・・・

そしてその間に「グレー」のマークまで登場しました。政治家や、政府機関、報道機関の一部などが対象で、これはTwitterが一方的に認証したものですが、これも多分、Musk氏の一言で消えてしまったよう。

本来、収入の大部分を占めていた広告に関しては、今月初めに任天堂やユニリーバなどを抱える大手広告代理店IPGがブランドに対し、Twitterへの支出を止めるようにアドバイスし、さらに先週には、世界最大の広告代理店のOmnicomも同様の勧告をクライアントに出しました。

このドタバタの最中にTwitter Blueはスタートしましたが、実質1日ほどで停止に追い込まれてしまいます。それでもMusk氏はめげていないよう。Substackで有料メルマガPlatformerを発行するCasey Newton氏によると、同社の契約社員5500人のうち4500人を事前の通告なしで解雇したそうです。

その多くは、有害投稿を監視、排除するモデレーションに当たってスタッフと見られるということで、となればその先は、今月1日の拙ブログで紹介した、南米やアフリカにある安価なモデレーション請負会社に流れることになるのでしょう。

そして、ワシントンポストによれば、先に紹介した民主党の大物で、なりすまし実験にも登場したMarkey議員が「人より利益を優先し、偽情報を止めるより負債を優先している」と指摘、連邦議会の出番を仄めかすような事態になってきました。天才Muskはどんな手を撃つのか。まだしばらくは目が離せません。


編集部より:この記事は島田範正氏のブログ「島田範正のIT徒然ーデジタル社会の落ち穂拾い」2022年11月14日の記事より転載させていただきました。